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福岡の弁護士が未払残業代を解説32~事業場外労働のみなし制,在宅勤務・テレワーク

最終更新: 7月30日

★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。

福岡の弁護士が未払残業代請求(時間外手当,休日労働手当)の基礎を解説


<本日の内容>

1 労働時間のみなし制ー事業場外労働のみなし制

2 事業場外労働のみなし制の趣旨等

3 事業場外労働のみなし制の運用状況

4 事業場外労働のみなし制の要件

5 在宅勤務などのテレワークによる事業場外労働のみなし制

6 事業場外労働のみなし制の効果

7 事業場外労働のみなし制の労使協定等

8 事業場外労働のみなし制の適用範囲


1 労働時間のみなし制ー事業場外労働のみなし制

 労働基準法は,実労働時間による労働時間算定の例外として,実際の労働時間にかかわらず一定時間労働したものとみなすという労働時間のみなし制を規定しています。労働者からの未払残業代請求に対し,使用者側がこの労働時間のみなし制を主張して反論することがあります。

 労働時間のみなし制の一つが,労働基準法38条の2の事業場外労働のみなし制で,「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」(労働基準法38条の2第1項本文)などとされます。


2 事業場外労働のみなし制の趣旨等

 事業場外労働のみなし制の趣旨は,労働時間の算定が困難な事業場外での労働についてその算定の便宜を図ることにあるとされ,取材記者,外勤営業社員などの常態的な事業場外労働のみならず出張などの臨時的な事業場外労働でも利用されます(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)706頁,菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂,2019年)542頁)。


3 事業場外労働のみなし制の運用状況

 厚生労働省が実施した平成31年の調査よれば,全体で12.4%の企業が事業場外労働のみなし制を採用していて,従業員数1000人以上の企業では14.6%となっています。事業場外労働のみなし制の適用を受けている労働者の割合は,全体で7.4%で,従業員数1000人以上の企業では7.7%となっています。


 厚生労働省「就労条件総合調査:結果の概要 平成31年」


 もっとも,以下で見るとおり,事業場外労働のみなし制の効力発生のための手続的要件は定められていませんので,労働者から未払残業代が請求されて,その反論として,使用者側がそれまで認識していなかった事業場外労働のみなし制を主張することはあり得ます。


4 事業場外労働のみなし制の要件

 この事業場外労働のみなし制が労働者に適用可能となるのは,「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いとき」です(労働基準法38条の2第1項本文)。

 このうちの「労働時間を算定し難いとき」にあたるかは,「使用者の具体的な指揮監督が及ばず,労働時間を算定することが困難」かどうかという観点から判断するとの行政解釈があり,例えば, ①何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で,そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合,②事業場外で業務に従事するが,携帯電話やスマートフォン等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合,③事業場において,訪問先,帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち,事業場外で指示どおりに業務に従事し,その後事業場にもどる場合には, 使用者の具体的な指揮監督が及んでいて労働時間の算定が可能であるので,事業場外労働のみなし制の適用はないとされます(昭63・1・1基発1号等参照)。

 「労働時間を算定し難いとき」にあたるか否かは,強行法規である労働時間規制の適用如何を決定する判断であることから,使用者が主観的に算定困難と認識することや,労使が算定困難と判断し労使協定などで合意することによって判定されるものではなく,具体的事情から客観的にみて判定されます(水町・前掲707頁)。


5 在宅勤務などのテレワークによる事業場外労働のみなし制

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で急速に普及した,労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務(「テレワーク」。テレワークの形態としては,在宅勤務,サテライトオフィス勤務,モバイル勤務など。)に関し,厚生労働省は,「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平30・2・22策定)を策定しています。

 その中では,テレワークにより労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において,「労働時間を算定し難いとき」,すなわち使用者の具体的な指揮監督が及ばず,労働時間を算定することが困難なときは,事業場外労働のみなし制が適用されるとし,テレワークにおいて, 使用者の具体的な指揮監督が及ばず,労働時間を算定することが困難であるというには,以下の2つをいずれも満たす必要があるとしています。


①情報通信機器が,使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。

②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと。


①の「情報通信機器が,使用者の指示により常時通信可能な状態におくこと」とは,情報通信機器を通じた使用者の指示に即応する義務がない状態であることを指すとしています。②の「随時使用者の具体的な指示」には,当該業務の目的,目標,期限等の基本的事項の指示や,基本的事項について所要の変更の指示は含まれないとしています。


6 事業場外労働のみなし制の効果

 事業場外労働のみなし制が適用されると,実労働時間にかかわらず一定時間労働したものとみなされます。この労働時間のみなし方には3種類があります。


 第1に,所定労働時間労働したものとみなされます(労働基準法38条の2第1項本文)。法定労働時間(労働基準法32条)ではなく,就業規則等によって定められた労働契約上の労働時間である所定労働時間であることに注意してください。

 第2に,事業場外労働による業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては,当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされます(労働基準法38条の2第1項ただし書)。

 第3に, 事業場外労働による業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合において,事業場の過半数代表との労使協定等があるときは,その労使協定で定める時間を当該業務の遂行に通常必要とされる時間とみなし,その時間労働したものとみなされます(労働基準法38条の2第2項,同条第1項ただし書)。


7 事業場外労働のみなし制の労使協定等

 第3の労使協定等は,労働協約による場合を除き,有効期間の定めをしなければならないとされています(労働基準法施行規則24条の2第2項)。当該業務の遂行に通常必要とされる時間は,一般的に,時とともに変化することが考えられるものであり,一定の期間ごとに協定内容を見直すことが適当であるからです(昭63・1・1基発1号等)。

 また, 第3の労使協定等は,協定で定めるみなし労働時間が法定労働時間(労働基準法32条)を超える場合には,所轄労働基準監督署長への届出が必要となります(労働基準法38条の2第3項,労働基準法施行規則24条の2第3項)。法定労働時間を超えて労働者に労働をさせるのですから,この場合,併せて36協定の締結・届出も必要となりますが(労働基準法36条),労使協定の内容の内容を36協定に付記して所轄労働基準監督署長に届け出ることによって, 労働基準法38条の2第3項による労使協定の届出に代えることができます(労働基準法施行規則24条の2第4項)。


8 事業場外労働のみなし制の適用範囲

 みなし労働時間制に関する規定は,労働基準法第4章の労働時間に関する規定の範囲に係る労働時間の算定について適用されるものであり,第6章の年少者及び第6章の2の妊産婦等の労働時間に関する規定に係る労働時間の算定については適用されません。また,みなし労働時間制に関する規定が適用される場合であっても,休憩,深夜業,休日に関する規定の適用は排除されません(労働基準法施行規則24条の2第1項, 昭63・1・1基発1号等)。労働者による未払残業代の請求で,深夜労働や休日労働に関する部分に対し,使用者側が事業場外労働のみなし制を主張しても反論とはなり得ません。


2020年7月20日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

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