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執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~海外旅行ツアーの添乗員は「労働時間を算定し難いとき」にあたるか(阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件)

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 判例・裁判例ー阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件

2 「労働時間を算定し難いとき」の判断


1 判例・裁判例ー阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件

 労働者からの未払残業代の請求に対し,使用者が労働者の業務については労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとして所定労働時間労働したものとみなされるなどと主張して争ったのが阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件(最二小判平成26・1・24労判1088号5頁)です。これ事例は下記のブログでも紹介済みです。



 ここでは,阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件について,事案を含めさらに詳細に検討します。

 

 この事件で未払残業代の請求を受けた阪急トラベルサポートは,一般労働者派遣事業等を目的とする株式会社です。株式会社阪急交通社が主催する海外ツアーの実施期間を雇用期間と定めて,未払残業代を請求した労働者は,阪急トラベルサポートに雇用され,添乗員として阪急交通社に派遣されて添乗業務に従事していました。


 阪急交通社とツアー参加者との間の契約内容等を記載するのがパンフレットや最終日程表,これに従いホテル,レストラン,バス,ガイド等の手配の状況等を記載するのがアイテナリーですが,ツアーの担当の割当てを受けた添乗員は,出発日の2日前に,阪急交通社の事業所に出社して,パンフレット,最終日程表,アイテナリー等を受け取っていました。出発日以降は,ツアーの旅行日程に従い,ツアー参加者に対する案内や必要な手続の代行などといったサービスを提供していました。こうした添乗業務の内容は,阪急交通社が作成したマニュアルに記載されています。


 阪急交通社は,添乗員に対し,国際電話用の携帯電話を貸与し,常にその電源を入れておくものとした上,添乗日報を作成し提出することも指示していました。ツアーの旅行日程は, 阪急交通社とツアー参加者との間の契約内容としてその日時や目的地等を明らかにして定められていましたが,旅行の安全かつ円滑な実施を図るためやむを得ないときは,必要最小限の範囲において旅行日程を変更することがあり,添乗員の判断でその変更の業務を行うことがありました。目的地や宿泊施設の変更等のようにツアー参加者との間で契約上の問題が生じ得る変更や,ツアー参加者からのクレームの対象となるおそれのある変更が必要となったときは,添乗員は, 阪急交通社の営業担当者宛てに報告して指示を受けることが求められていました。


2 「労働時間を算定し難いとき」の判断

 未払残業代を請求した添乗員の添乗業務について労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かの結論を導くにあたり,判決は,未払残業代を請求した添乗員の添乗業務の性質,内容やその遂行の態様,状況等, 阪急交通社と添乗員との間の業務に関する指示及び報告の方法,内容やその実施の態様,状況等を考慮しています。具体的には以下のとおりです。


・未払残業代を請求した添乗員の添乗業務は,ツアーの旅行日程に従い,ツアー参加者に対する案内や必要な手続の代行などといったサービスを提供するものであるところ,ツアーの旅行日程は, 阪急交通社とツアーの参加者との間の契約内容としてその日時や目的地等を明らかにして定められており,その旅行日程につき,添乗員は,変更補償金の支払など契約上の問題が生じ得る変更が起こらないように,また,それには至らない場合でも変更が必要最小限のものとなるように旅程の管理等を行うことが求められている。そうすると,未払残業代を請求した添乗員の添乗業務は,旅行日程がその日時や目的地等を明らかにして定められることによって,業務の内容があらかじめ具体的に確定されており,未払残業代を請求した添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られているものということができる。


・ツアーの開始前には, 阪急交通社は,添乗員に対し,本件会社とツアー参加者との間の契約内容等を記載したパンフレットや最終日程表及びこれに沿った手配状況を示したアイテナリーにより具体的な目的地及びその場所において行うべき観光等の内容や手順等を示すとともに,添乗員用のマニュアルにより具体的な業務の内容を示し,これらに沿った業務を行うことを命じている。そして,ツアーの実施中においても,阪急交通社は,添乗員に対し,携帯電話を所持して常時電源を入れておき,ツアー参加者との間で契約上の問題やクレームが生じ得る旅行日程の変更が必要となる場合には,阪急交通社に報告して指示を受けることを求めている。さらに,ツアーの終了後においては,阪急交通社は,添乗員に対し,旅程の管理等の状況を具体的に把握することができる添乗日報によって,業務の遂行の状況等の詳細かつ正確な報告を求めているところ,その報告の内容については,ツアー参加者のアンケートを参照することや関係者に問合せをすることによってその正確性を確認することができるものとなっている。これらによれば,未払残業代を請求した添乗員の添乗業務について,阪急交通社は,添乗員との間で,あらかじめ定められた日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で,予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ,旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等について詳細な報告を受けるものとされているということができる。


 こうした事実認定・評価に基づき,判決は,未払残業代を請求した添乗員の添乗業務については,従事する添乗員の勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認めがたく,労働基準法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとしています。


更新日 2020年8月25日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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