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福岡の弁護士が未払残業代を解説17~定額残業代の判例・裁判例の整理

最終更新: 7月26日

未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。

福岡の弁護士が未払残業代請求(時間外手当,休日労働手当)の基礎を解説

<本日の内容>

1 基本給組込みタイプと別枠手当タイプの判例法理の整理

2 基本給組込みタイプと別枠手当タイプの統一的理解

3 基本給組込みタイプにおける小里機材事件の先例価値


1 基本給組込みタイプと別枠手当タイプの判例法理の整理

 労働基準法が定める割増賃金の算出方法によらず,定額残業代などとして割増賃金を定額支給としている企業には,基本給などの総賃金のなかに割増賃金部分を組み込んで支給しているタイプ(基本給組込みタイプ)と,基本給とは別に営業手当,役職手当など割増賃金に代わる手当等を定額で支給するタイプ(別枠手当タイプ)があるとされます(水町勇一郎『詳解労働法』684頁)。


 この基本給組込みタイプと別枠手当タイプがそれぞれ労働基準法37条に適合するかどうかについて,最高裁判所を中心に判例法理が形成されつつありますので,ここで整理をしておきたいと考えます。


2 基本給組込みタイプと別枠手当タイプの統一的理解

 まず,基本給組込みタイプでは,支払方法が労働基準法37条に適合するかどうかにつき,①通常の労働時間の賃金に相当する部分と割増賃金にあたる部分とを判別することができ(「判別」要件),かつ,②割増賃金にあたる部分が法定計算額以上でなければ(「割増賃金額」要件),このような支払方法をとることができないと考えられています。このような法理を判示した近時の最高裁判決が, 医療法人社団康心会事件(最二小判平成29・7・7労判1168号49頁)です。


福岡の弁護士が未払残業代を解説16~定額残業代(医療法人社団康心会事件)


 一方,別枠手当タイプでは, 使用者側が定額残業代と主張する部分が「割増賃金に当たる部分」といえるのか,すなわち時間外労働等の対価といえるのがまず問題となります。使用者が定額残業代と主張する賃金部分が時間外労働等の対価にあたるかどうか,その判断枠組みを示したのが,日本ケミカル事件(最一小半平成30・7・19労判1186号5頁)です。


福岡の弁護士が未払残業代を解説13~定額残業代(日本ケミカル事件)


 有力な学説には, 基本給組込みタイプと別枠手当タイプを,①「判別」要件,②「割増賃金額」要件の下で統一して理解しようとするものがあります。そうした見解では, 基本給組込みタイプでは,そもそも通常の労働時間相当部分と割増賃金部分とを判別できなければ労働基準法37条違反となり,別枠手当タイプでは,通常の労働時間の賃金に相当する部分(例えば基本給)と割増賃金部分(例えば営業手当)とを判別することができ, 割増賃金部分が労基法37条に基づく計算額以上であれば同条違反にはならないことになると説明されています(水町・同書684,685頁)。


 しかし, 別枠手当タイプに関する日本ケミカル事件は,医療法人社団康心会事件を労働基準法37条の趣旨解釈では引用するものの,手当が時間外労働等に対する対価にあたるかどうかの考え方を示した部分では, ,①「判別」要件,②「割増賃金額」要件の法理を示した医療法人社団康心会事件,高知県観光事件(最二小判平成6・6・13労判653号12頁),テックジャパン事件(最一小判平成24・3・8労判1060号5頁),国際自動車事件(最三小判平成29・9・28労判1152号5頁)のいずれも引用していません。


 実際的にも, 別枠手当タイプの場合, ①「判別」要件が充足されるのは明らかであり, わざわざ①「判別」要件,②「割増賃金額」要件の法理を持ち出さなくとも,端的に日本ケミカル事件が示した,手当が時間外労働等に対する対価にあたるかどうかの考え方に従って判断し,手当が時間外労働等に対する対価にあたるとなれば,その額が労働基準法37条等に定められた方法により算定されだ額以上かどうか考えればよいように思われます。


 以上より, 基本給組込みタイプと別枠手当タイプとを,①「判別」要件,②「割増賃金額」要件の下で統一して理解することはせず,各最高裁判決もそれぞれのタイプに関する判断として別個に位置付けるのが適切であるように考えます。


3 基本給組込みタイプにおける小里機材事件の先例価値

 次に, 基本給組込みタイプの労働基準法37条適合性に関する①「判別」要件,②「割増賃金額」要件の法理について,小里機材事件(最判昭和63・7・14労判523号6頁)を先例とする見解もみられます(山川隆一=渡辺弘編『最新裁判実務体系7 労働関係訴訟Ⅰ』(青林書林,2018年)443~446頁(藤井聖悟))。


 しかし, ,①「判別」要件,②「割増賃金額」要件の法理を示した医療法人社団康心会事件,高知県観光事件,テックジャパン事件,国際自動車事件は,いずれも小里機材事件を引用していません。


 また,基本給月額183万円余りのプロフェッショナル社員について,時間外労働の対価も基本給のなかに含まれているとの合意を認めても労働基準法37条の趣旨に反することにはならないとしたモルガン・スタンレー・ジャパン(超過勤務手当)事件(東京地判平成17・10・19労判905号5頁)の判決中でも小里機材事件の射程についての判示があるとおり,小里機材事件においては,基本給に割増賃金を含めるとの合意が下級審において否定され,そうした事実認定を上告審である最高裁は,証拠に照らし是認できるとしたのであり, 基本給に割増賃金を含めるとの合意の存在を踏まえて①「判別」要件,②「割増賃金額」要件が判断されたのではありません。その意味で, 小里機材事件における①「判別」要件,②「割増賃金額」要件に関係する判示部分は傍論です。


福岡の弁護士が未払残業代を解説15~定額残業代(モルガン・スタンレー・ジャパン(超過勤務手当)事件)


 したがって, 小里機材事件は,基本給組込みタイプの労働基準法37条適合性に関する①「判別」要件,②「割増賃金額」要件の法理の先例とすべきではないと考えます。


2020年7月2日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

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