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執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~労働時間,休憩,休日

更新日:2020年8月25日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 労働基準法上の労働時間

2 休憩時間,「(実)労働時間」

3 「(実)労働時間」の判断枠組み~三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件

4 「(実)労働時間」の内容~三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件

5 「労働基準法上の(実)労働時間」性の具体的判断~本作業前後の諸活動

6 判例・裁判例ー三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件,三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件

7 「労働基準法上の(実)労働時間」性の具体的判断~研修・教育,企業の行事(運動会,忘年会など)への参加

8 判例・裁判例ーNTT西日本ほか(全社員販売等)事件

9 割増賃金請求訴訟における労働時間の主張・立証責任

10 判例・裁判例ー千里山生活協同組合事件

11 判例・裁判例ー日本コンベンションサービス事件

12 休憩ー休憩の長さ・位置

13 休憩ー一斉付与の原則

14 休憩ー一斉付与の例外

15 休憩ー一斉付与の例外ー在宅勤務,テレワーク

16 休憩ー自由利用の原則

17 休日ー週休1日の原則

18 休日ー労働基準法における国民の祝日,週休2日制の位置づけ

19 休日ー週休制の運用状況

20 休日ー法定休日の特定

21 休日ー法定休日が特定されていないときの法定休日

22 休日ー暦日休日の例外

23 休日ー変形週休制


1 労働基準法上の労働時間

 労働基準法は,「労働時間」について様々な規制をしており,例えば労働基準法32条は,労働基準法は1週40時間・1日8時間の法定労働時間を定めています。

 この労基法上の労働時間とは何か。未払残業代の請求においては,時間外労働時間・休日労働時間・深夜労働時間などの労働時間を労働者側が主張・立証する必要がありますので,労働時間の概念は正確に把握しておく必要があります。


2 休憩時間,「(実)労働時間」

 まず,休憩時間(労働基準法34条)を含まない,現に労働させる時間(実労働時間)であることは条文上明らかです(労働基準法32条。なお,坑内労働の坑内計算制については労働基準法38条2項)。


3 「(実)労働時間」の判断枠組み~三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事

 次に,この「(実)労働時間」かどうかについて,学説上いくつかの見解が主張されていました。例えば,中核的労働時間については主観的な当事者の約定等ではなく客観的に判断しつつ周辺的な労働時間については主観的な当事者の約定等を基準に判断するといった,主観的な事情を部分的に考慮する見解も見られました(二分説)。

 しかし,最高裁は,「労働基準法…三二条の労働時間…とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」と述べて(三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件・最一小判平成12・3・9民集54巻3号801頁), 「(実)労働時間」は,当事者の主観的な約定等ではなく労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かという観点から,客観的に判断すべきであるとしています(客観説)。


4 「(実)労働時間」の内容~三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件

 ところで, 三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件は, 「(実)労働時間」を「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」としています。

 「(実)労働時間」の内容についても学説ではいくつか見解が提案されていて,①使用者の指揮命令下に置かれている時間とする説(一要件説),②使用者の指揮命令下に置かれている時間または使用者の明示・黙示の指示によりその業務に従事する時間とする説(部分的二要件説),③使用者の関与の下で労働者が職務を遂行している時間とする説(二要件説)などがあるとされます(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)647頁))。

 判例である三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件は,判決文言では①の一要件説を述べています。しかし,実際の判断において,判例・裁判例は,「指揮命令下」という基準の中で,二要件説が主張する2つの要件,すなわち職務遂行と同視しうるような状況の存在と,使用者の指揮命令や黙認など使用者の関与の存在の2つの要件を実質的に考慮して判断されていることが多いとされます(水町・前掲647,648頁)。

 就業を命じられた業務の準備行為に要した時間が「(実)労働時間」にあたるかが争われた三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件は,「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者は指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為が要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当する」としています。ここでは「(実)労働時間」かどうか「指揮命令下」という基準で判断しつつ,その際に,「就業を命じられた業務の準備行為等」という職務遂行と同視しうるような状況の存在,「使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされた」という使用者の指揮命令や黙認など使用者の関与の存在を考慮しているとの理解も可能です。


5 「労働基準法上の(実)労働時間」性の具体的判断~本作業前後の諸活動

 労働者が未払残業代を請求するにあたり,労務の本作業前後の諸活動が労働基準法上の(実)労働時間に該当するかどうかが争われることがあります。そのときには,職務遂行に必要な行為で職務と同視できるか,および,それらの活動が労働者に義務付けられているかという点から判断されるとする 見解があります(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)648頁)。

 事例として,ここでは三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件(最一小判平成12・3・9民集54巻3号801頁)と,三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件(最一小判平成12・3・9労判778号8頁)について検討します。


6 判例・裁判例ー三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件,三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件

 両事件において判示のあった本作業前後の諸活動は,始業時間前では,①所定の入退場門から事業所内に入って更衣所又は控所等までの移動,②更衣所又は控所等において作業服及び保護具,工具等の装着,③更衣所又は控所等から準備体操場までの移動,④材料庫等からの副資材や消耗品等の受出し,粉じん防止のための散水でした。終業時間後では,⑤作業場等から更衣所又は控所等までの移動,⑥更衣所又は控所等において作業服及び保護具,工具等の脱離,⑦手洗い,洗面,洗身,入浴,通勤服の着用,⑧更衣所又は控所等から所定の入退場門までの移動でした。


 これら本作業前後の諸活動につき,まず①・⑧の各移動は,使用者である三菱重工業長崎造船所の指揮命令下に置かれたものと評価することができないとして,各移動時間は労基法上の労働時間に該当しないとされています(三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件)。

 また,⑦の洗身等については,実作業の終了後に事業所内の施設において行うことを義務付けられておらず,特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかったのであるから,これに引き続いてされた通勤服の着用も含めて, 使用者である三菱重工業長崎造船所の指揮命令下に置かれたものと評価することはできず,洗身等の時間は労基法上の労働時間に該当しないとされています(三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件)。


 他方で,未払残業代を請求した労働者は,実作業に当たり作業服及び保護具,工具等の装着を義務付けられ,また,その装着を事業所内の所定の更衣所又は控所等において行うものとされていたのであるから,②の装着,③・⑤の各移動,⑥の脱離は, 使用者である三菱重工業長崎造船所の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,各行為に要した時間は労基法上の労働時間に該当するとされています。また,④の行為も同様であるとされています(三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件)。


★三菱重工業長崎造船所事件について詳細は以下をご覧ください。


7 「労働基準法上の(実)労働時間」性の具体的判断~研修・教育,企業の行事(運動会,忘年会など)への参加

 労働者が未払残業代を請求するにあたり,研修・教育,企業の行事(運動会,忘年会など)への参加が,労働基準法上の「(実)労働時間」に該当するか争われることがあります。


 この点については,参加が義務的で,会社業務としての性格が強ければ(実)労働時間となるとされています(菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂,500頁))。

 行政解釈では,このうちの参加の義務ということに触れ,労働者が使用者の実施する教育に参加することについて,就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば,時間外労働にはならないとしています(昭26・1・10基収2875号等)。


8 判例・裁判例ーNTT西日本ほか(全社員販売等)事件

 会社が業務に関連したスキルアップとして推奨していたWEB学習時間について,自己研鑽の時間であり会社は支援ツールを提供しているだけであるとして労働時間ではないとしたのが,NTT西日本ほか(全社員販売等)事件(大阪高判平22・11・19労判1168号105頁))です。


 判決は,WEB学習は,パソコンを操作してその作業をすること自体が会社が利潤を得るための業務ではなく,むしろ,会社が,各従業員個人個人のスキルアップのための材料や機会を提供し,各従業員がその自主的な意思によって作業をすることによってスキルアップを図るものとしています。そして,会社からしても各従業員が意欲をもって仕事に取り組み,仕事に必要な知識を身につけてくれることは重要であるから,WEB学習を奨励し,目標とすることを求めるものの,その効果は各人の能力や意欲によって左右されるものであるから,WEB学習の推奨は,まさに従業員各人に対し自己研鑽するためのツールを提供して推奨しているにすぎないのであって,これを業務の指示とみることはできないとしています。


★NTT西日本ほか(全社員販売等)事件について詳細は以下をご覧ください。


9 割増賃金請求訴訟における労働時間の主張・立証責任 

 これまで述べてきた「労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に評価できる時間」をいう労働時間性について争いはないとしても,割増賃金請求訴訟では,労働時間は未払残業代を請求する労働者が主張・立証しなければならならないとされます。さらに,この場合,割増賃金請求期間の1日ごとに労働時間の開始・終了をいう始業時間・終業時間を特定し,そのうちの法定内時間外労働時間,法定時間外労働時間,深夜労働時間,法定休日労働時間,法定外休日労働時間を特定して主張する必要があるとされています。

10 判例・裁判例ー千里山生活協同組合事件

 未払残業代を請求する労働者が労働時間を主張・立証するための資料は,複数考えられます。デジタル技術の進展もあり,資料の形は以前より多様化しつつあるといえるでしょう。それでも, 未払残業代を請求する労働者が労働時間を主張・立証する資料として多くの方が真っ先に思い浮かべるのは,やはりタイムカードではないでしょうか。

 タイムカードは労働時間を主張・立証する資料としての価値は高いと一般にはいえます。ですが,それでも未払残業代を請求する労働者が労働時間を主張・立証はなかなか難しいということを示すため,先日取り上げた,消費生活協同組合が職員より法内時間外労働を含む時間外労働の割増賃金の請求を受けた事案を紹介します(千里山生活協同組合事件(大阪地判平成11・5・31労判772号60頁))。


 この事件で,未払残業代等を請求した原告らは,労働時間を主張・立証するものとして,それぞれのタイムカードを証拠としました。これに対し協同組合は,タイムカードは未払残業代等を請求した職員が出勤しているかを判定するためのものにすぎず,労働時間を管理するためのものではない,労働時間の管理は各職場に備え付けられていた申請書によって行っていたと反論しました。タイムカードの打刻時間は労働時間に関係するものではないという主張です。


 この点について判決は,タイムカードの記載は特段の事情がないかぎり,職員の出勤・退勤時刻を明らかにするもので,それは職員の就労の始期・終期と完全に一致するものではないが,タイムカードに記載された出勤・退勤時刻と就労の出勤・退勤時刻との間に齟齬があることが証明されないかぎり,タイムカードに記載された出勤・退勤時刻をもって実労働時間を認定すべきであるとしています。


 もっとも,上記判断はタイムカード一般の性質より易々と導かれたのではなく,事案に即して,すなわち協同組合におけるタイムカードの扱いなどに即して導かれています。

 上記判断に先立ち,判決は,協同組合において給与を時間給で支払われるパート職員やアルバイト職員も,月給制の正職員も,出勤時及び退勤時にタイムレコーダーによってタイムカードにその時刻を打刻することとされていること,パート職員及びアルバイト職員の給与はタイムカードの記載によって計算されること,正職員についても皆勤手当の支給の有無(遅刻,早退等の有無)をタイムカードの記載によって管理していることを認定して,それを根拠に協同組合におけるタイムカードについて上記判断をしています。


 また,ともあれ上記判断が示された以上,判決がタイムカードの記載により労働時間を次々と認定していったかというとそうではなく,未払残業代等を請求した原告それぞれの具体的な業務内容を証拠に基づき認定し,認定できた具体的な業務内容に照らし,労働時間をタイムカードの記載どおりとすることができるかどうか判断しています。

 判決では,結論として概ね労働時間をタイムカードの記載どおりに認定するのですが,それでも,始業時間が午前9時であるところ,午前8時30分に出勤して商品の車への積み込みを行っていた者については, 配達業務の出発時間である午前10時の1時間30分も前から勤務を開始することを必要とする具体的な事情について明らかではないとして,この点についてはタイムカードの記載どおりの労働時間を認めないと判断したりしています。また,タイムカードの退勤時刻の記載がなかったり,あっても手書きで時刻も同じものが多く,さらにいかなる事情によって時間外労働が発生するのかその具体的な業務内容から必ずしも明らかとはいいがたいとして, タイムカードの記載どおりの労働時間を認めないと判断した部分もあります。


 この判決の当否についてはさておき, タイムカードの記載により労働時間を認定するのも慎重に行われるということは理解しておきましょう。


11 判例・裁判例ー日本コンベンションサービス事件

 未払残業代を請求する労働者が労働時間を主張・立証するときの資料に関連する事例として,日本コンベンションサービス事件(大阪地判平成8・12・25労判712号32頁)も検討しておきましょう。

 この事件では,未払残業代を請求する原告らによる労働時間立証の資料は,大きく4つに分類できます。具体的には,以下のとおりです。


①打刻による始業・終業記載がタイムカードにあるもの

②手書きによる始業・終業記載がタイムカードにあり,手書きは会社の管理課が書き入れたか,事前にあるいは事後に上長の承認を得て従業員自身が書き入れたもの

③タイムカードに始業・終業の一方しか記載がないもの

④タイムカードがないあるいはタイムカードが存在しても記載がないもの(メモやスケジュール,最後に退社していたことから他の従業員の勤務時間を参考など。)


 その上で,①について,判決は,タイムカードの記載と実際の労働時間とが異なることにつき特段の立証がないかぎり,タイムカードの記載に従って労働時間を認定すべきであるとしています。もっとも,そうした結論を導くにあたり, 未払残業代を請求した従業員の労働実態や会社におけるタイムカードの取扱いなどといった検討をし,従前に時間外労働に対して時間外労働手当を支給していたこと(※この会社はある時点から時間外手当に代えて定額の勤務手当を支払うようにしていました。),時間外手当から定額の勤務手当に代えた後もタイムカードを設置し,従業員はタイムカードへの打刻を行っていたこと,タイムカードによる勤務時間の管理が厳密に行われていたこと,未払残業代を請求した従業員の業務内容はタイムカードによる勤務時間の管理が十分可能で,同様の業務に従事していた契約社員はタイムカードに基づいて時間外手当の支給を受けていたこと,タイムカードに記載されている時刻は未払残業代を請求した従業員の労働実態に合致して不自然なものではないことという事実認定を着実に積み上げています。


 ②については,①と同様の扱いです。手書きであれそれは会社の手続を経て,あるいは上長の承認を得てなされたもので,タイムカードの打刻と区別する理由はないからです。


 一方,③④になると,途端に認定が厳しくなります。

 ③については,記載のない部分は特段の立証がないかぎり時間外労働を認定できない,すなわちタイムカードに終業時刻の記載がなければ所定労働時間まで勤務していた,あるいは始業時刻の記載がなければ所定労働時間から勤務していたとそれぞれ考えるべきで,休日であれば始業・終業時間がまちまちであることから始業・終業の一方の時刻の記載がないときは労働時間は認定できないとしています。


 ④については,あくまで未払残業代を請求した従業員についてですが, タイムカードがないあるいはタイムカードが存在しても記載がない部分について労働時間は一切認定しませんでした。例えば,部下の仕事を見届けてから最後に退社していたことから他の従業員の勤務時間を参考に労働時間を算出したという主張について,判決は,最後に退社していたとの事実を裏付ける客観的な証拠はなく,仮にそのような事実があったとしても,そのことから直ちに日々の終業時刻が導かれるわけではない,同僚の勤務時間を参考にしたとしてもそのことから未払残業代を請求した従業員の日々の勤務時間が確定するものではないとして認めませんでした。

 未払残業代を請求するにあたり,労働時間を立証する資料は客観的なもので,その価値は,①労働時間に関係する時刻が打刻されているものであるか,②その労働者本人に関連するものであるかどうか,③記録された時刻の正確性などを考慮して判断するといわれることがあります。上記判示のうち,「最後に退社していたとの事実を裏付ける客観的な証拠はなく」という部分は資料の客観性の点,「仮にそのような事実があったとしても,そのことから直ちに日々の終業時刻が導かれるわけではない」という部分は①の点,「同僚の勤務時間を参考にしたとしてもそのことからこの従業員の日々の勤務時間が確定するものではない」という部分は②の点で,それぞれ問題があるとしたものと思われます。


12 休憩ー休憩の長さ・位置

 使用者は,労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分,8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないとされています(労働基準法34条1項)。

 休憩時間の位置について,労働基準法は「労働時間の途中に与えなければならない」(労働基準法34条1項)としていますので,労働時間の終了後にまとめて休憩時間を与えても,法が要請する休憩時間の付与とはされません(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)658頁)。もっとも,休憩時間の位置を一定としたり,特定することは労基法上求められておりません。労働基準法89条1号も,休憩時間について就業規則の絶対的必要記載としていますが,その内容は,「休憩時間…に関する事項」とし, 休憩時間の位置を一定としたり,特定することまで求めていません。労働時間の途中でさえあればどの時点で付与してもよく,分割して与えることも可能です(水町・前掲658頁)。


 時間外労働によって労働時間を延長させて8時間を超える労働をさせる場合,所定労働時間の途中に法の要請を超えて1時間の休憩を与えていれば,その休憩時間をもって8時間を超える場合の休憩時間がすでに付与されていることなります。一方, 所定労働時間の途中に1時間の休憩を与えていなければ,時間外労働が終了する前までに,不足する休憩時間(所定労働時間内に付与した休憩が45分のときは残り15分)を与えなければなりません(水町・前掲658頁)。


 なお,①運送・郵便・信書便の事業の長距離乗務員,②屋内勤務者30人未満の郵便局における郵便窓口業務に従事する者等については,業務の性質上,休憩を与えないことができるとされています(労働基準法施行規則32条1項)。また,上記①の乗務員に該当しない乗務員について,業務の性質上,休憩時間を与えることができないと認められる場合,その勤務中における停車時間,折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が労働基準法34条1項に規定する休憩時間に相当するときは,休憩時間を与えないことができるとされています(労働基準法施行規則32条2項)。


13 休憩ー一斉付与の原則

 休憩時間は,労働者に一斉に与えなければならないとされています(労働基準法34条2項本文)。一斉付与の原則といわれるもので,その趣旨は,休憩時間の効果をあげ,労働時間・休憩時間の監督の便宜のためとされます。一斉付与の単位は事業場とされています。


14 休憩ー一斉付与の例外

 一斉付与の例外として,事業場の過半数組合またはそれがないときは過半数代表者との労使協定で,一斉に休憩を与えない労働者の範囲,その労働者への休憩の与え方を定めたときは,休憩を一斉に付与しなくてよいとされます(労働基準法34条2項ただし書,労働基準法施行規則15条1項)。

 また,運送業,商業,金融業,映画・演劇業,保健衛生,旅館等の事業の労働者については,事業の性質上,一斉付与が困難であるとして,労使協定によらず休憩を一斉に付与しなくてよいとされています(労働基準法40条,労働基準法施行規則31条)。


15 休憩ー一斉付与の例外ー在宅勤務,テレワーク

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で急速に普及した,労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務(「テレワーク」。テレワークの形態としては,在宅勤務,サテライトオフィス勤務,モバイル勤務など。)に関し,厚生労働省は,「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(平30・2・22策定)を策定しています。

 その中では,テレワークを行う労働者について,労使協定により一斉付与の原則を適用除外とすることが可能であるとされています。


16 休憩ー自由利用の原則

 使用者は,休憩時間を労働者に自由に利用させなければならないとされます(労働基準法34条3項)。自由利用の原則といわれるものです。休憩時間とは,労働者が労働時間の途中において休息のために労働から完全に解放されたる時間のことであり,労働基準法はこの規定で自由利用の原則を宣明しています。


 休憩時間が,労働者が労働時間の途中において休息のために労働から完全に解放されたる時間のことである以上,電話番など労働からの解放がない場合には,休憩時間とはされず,さらに労働基準法上の労働時間として労働時間規制を受けることとなります。この点は,労働者が使用者に対して未払残業代を請求するとき,休憩時間であるのか,あるいは労働時間であるのかという論点となることがあります。


17 休日ー週休1日の原則

 労働基準法では,使用者は,労働者に対して,毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないとされています(労働基準法35条1項)。

 「毎週」とは「7日の期間毎に」という意味ですが,その始点が就業規則その他に別段の定めがないときは,日曜日から土曜日までの暦週をいうとされています。また,「休日」は,暦日(0時から24時までの24時間)をいうとされています(昭23・4・5基発535号)。したがって,就業規則その他に別段の定めがないかぎり,日曜日から始まって土曜日までの1週の間に,少なくとも暦日1日の休日を与えるという週休1日の原則を採用するのが労働基準法35条1項となります。


18 休日ー労働基準法における国民の祝日,週休2日制の位置づけ

 国民の祝日に関する法律が定める「国民の祝日」を「休日」とすることを労働基準法は求めていません(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)661,662頁)。多くの企業では,就業規則の「休日」の1つとして「国民の祝日に関する法律に定められた休日」を定めることで,国民の祝日をその企業の休日としています。


 また,週休2日制の普及に向けた労働基準法改正で,週法定労働時間が現在の40時間へと短縮されて行きましたが(労働基準法32条1項),休日規制として労基準法が義務づけるのは週休1日制であり,週休2日制は義務づけられていません。したがって,週休2日制を採用する企業は,そのうちの1日が労働基準法の要請に合致する法定休日,もう1日が労働基準法の要請によらない法定外休日(所定休日)ということになります。


19 休日ー週休制の運用状況

 厚生労働省が実施した平成31年の調査よれば,「何らかの週休日2制」を採用している企業は全体で82.1%となっています。

 「完全週休日2制」を採用している企業は全体で44.3%で,従業員数1000人以上の企業では63.6%,300~999人で56.3%,100~299人で51.0%,3099人で40.3%となっています。



20 休日ー法定休日の特定

 労働基準法89条1号は,「休日…に関する事項」を必要的記載事項としていますが,労働基準法上,週休1日として休日となる日,またどの日であれ休日となる日の特定のいずれも義務づけていません(水町・前掲661~663頁)。もっとも,解釈例規では,特定することが法の趣旨に沿うものであるから,就業規則の中で単に1週間に1日といっただけでなく,具体的に一定の日を休日と特定するのが望ましいとしています(昭63・3・14基発150号)。それでも,就業規則で,例えば「法定休日を上回る休日は所定休日とする。」といった定めを置くにとどめ,休日を特定しない記載をみることがあります。


21 休日ー法定休日が特定されていないときの法定休日

 休日の特定に関連し,例えば土日休みの週休2日制を採用する企業で法定休日が就業規則その他で特定されていないときにどの日を法定休日とするか,休日労働の割増賃金の請求にあたっては重要となります。

 この点について,行政解釈の考え方によると,暦週である日曜から土曜までを基準として,①日曜に出勤した場合には, 暦週初日の日曜が法定外休日, 暦週最終日の土曜日が法定休日,日曜の労働は法定外休日労働となり,②土曜に出勤した場合には, 暦週初日の日曜が法定休日, 暦週最終日の土曜が法定外休日,土曜の労働は法定外休日労働となるとする見解もあります(山川隆一=渡辺弘編『最新裁判実務体系7 労働関係訴訟Ⅰ』(青林書院,2018年)419頁(深見敏正・薄井真由子))。


22 休日ー暦日休日の例外

 労働基準法における「休日」は,暦日(0時から24時までの24時間)をいうと述べましたが,その例外とされるものが解釈例規で認められています。

 第1に,一定の要件を満たす番方編成による交替制,第2に,タクシー・トラック・バスなどの自動車運転者,第3に,旅館業における一定の要件を満たす労働者です(水町・前掲662,663頁)。


23 休日ー変形週休制

 労働基準法は,「前項の規定は,四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない」(労働基準法35条2項)と定め, 週休1日の原則(労働基準法35条1項)ではなく変形週休制(4週4日休制)を採用することも許容しています。

 この変形週休制を採用するときは,使用者は,就業規則その他において,4日以上の休日を与えることとする4週間の起算日を明らかにする必要があります(労働基準法施行規則12条の2第2項)。例えば,就業規則で「令和2年4月〇日を起算日とする4週間を通じて4日」と記載することが考えられます。

 変形週休制の単位となる4週間のうちのどの日を法定休日とするかあらかじめ特定することは,労基法上求められておりませんが, 解釈例規で,具体的に一定の日を休日と特定するのが望ましいとされるのは,週休1日の場合と同様です。


更新日 2020年8月13日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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