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執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代を分かりやすく・詳しく解説~WEB学習時間は労働時間か(NTT西日本ほか(全社員販売等)事件)

更新日:2020年8月25日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 研修・教育,企業の行事(運動会,忘年会など)への労働者の参加の労働時間性

2 判例・裁判例ーNTT西日本ほか(全社員販売等)事件


1 研修・教育,企業の行事(運動会,忘年会など)への参加の労働時間性

 労働者が未払残業代を請求するにあたり,会社が業務に関連したスキルアップとして推奨していたWEB学習時間が労働基準法上の「(実)労働時間」に該当するか争われた事例として,以下のブログで,NTT西日本ほか(全社員販売等)事件(大阪高判平22・11・19労判1168号105頁))を紹介しました。



 ここでは,NTT西日本ほか(全社員販売等)事件について,事案を含めさらに深く検討します。 


 まず,基本的な理解の再確認からですが,労働者が未払残業代を請求するにあたり,研修・教育,企業の行事(運動会,忘年会など)への参加が,労働基準法上の「(実)労働時間」に該当するか争われることがあり,この点については,参加が義務的で,会社業務としての性格が強ければ(実)労働時間となるとされています(菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂,500頁))。

 行政解釈では,このうちの参加の義務ということに触れ,労働者が使用者の実施する教育に参加することについて,就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のものであれば,時間外労働にはならないとしています(昭26・1・10基収2875号等)。


2 判例・裁判例ーNTT西日本ほか(全社員販売等)事件

 そして,会社が業務に関連したスキルアップとして推奨していたWEB学習時間について,自己研鑽の時間であり会社は支援ツールを提供しているだけであるとして労働時間ではないとしたものがあります。NTT西日本ほか(全社員販売等)事件です。


 この事例で未払残業代を請求した労働者は,電信電話公社と期間の定めのない雇用契約を締結し,その後,電信電話公社を引き継いだ会社に雇用され,未払残業代が発生したと主張する期間はNTT西日本に雇用されつつ,NTT西日本‐兵庫(当時),平成18年7月1日からはNTTネオメイトにそれぞれ在籍出向していました。


 事件の争点は複数ありますが, WEB学習時間の労働時間性に関連する事実関係でいえば,WEB学習とは,会社が従業員に対し,業務に関連する技能の習得をさせるべく,WEB上のサービスを利用した学習活動を奨励するもので,NTT西日本の設置するサーバーから,インターネット回線を介して,利用者のコンピューターに教材のデータが送信され,これを視聴等することにより学習するものでした。

 インターネット回線を介して行われるため,従業員は自宅でWEB学習を行うこともできましたが,未払残業代を請求した労働者は,通常業務が終了した後,社内のパソコンを利用して連日1~2時間程度WEB学習を行っていました。ある上司はこの労働者にWEB学習によるスキルアップを明示的に求め,別の上司も通信教育等による自己啓発を求めるなどしていました。WEB学習の状況は,社内のシステムを通じて会社は把握していました。


 判決の原審(大阪地判平22・4・23労判1009号31頁)は,①会社がIP通信を重視するようになっていて,労働者がこれに関する知識を身につける必要性があったこと,②WEB学習の教材は,市販の書籍では勉強できない内容や,会社固有の仕様で作られた設備に関するもの等も含まれていて,会社の業務との関連性が密接で,労働者が受講したWEB学習も業務に密接関連するものであったこと,③上司がこの労働者にWEB学習によるスキルアップを明示的に求めるなどしたこと,④WEB学習の状況は社内のシステムで把握されていたことなどから,この労働者によるWEB学習は会社の業務上の指示によるものであって,労働時間性が認められるとしました。


 これに対し,判決はWEB学習の労働時間性を否定しました。

 判決は,WEB学習は,パソコンを操作してその作業をすること自体が会社が利潤を得るための業務ではなく,むしろ,会社が,各従業員個人個人のスキルアップのための材料や機会を提供し,各従業員がその自主的な意思によって作業をすることによってスキルアップを図るものとしています。そして,会社からしても各従業員が意欲をもって仕事に取り組み,仕事に必要な知識を身につけてくれることは重要であるから,WEB学習を奨励し,目標とすることを求めるものの,その効果は各人の能力や意欲によって左右されるものであるから,WEB学習の推奨は,まさに従業員各人に対し自己研鑽するためのツールを提供して推奨しているにすぎないのであって,これを業務の指示とみることはできないとしています。


更新日 2020年8月24日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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