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執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代を分かりやすく・詳しく解説~着替えなどは労働時間か(三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件,三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件)

更新日:2020年8月25日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 「労働基準法上の(実)労働時間」性の具体的判断~本作業前後の諸活動

2 判例・裁判例ー三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件,三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件


1 「労働基準法上の(実)労働時間」性の具体的判断~本作業前後の諸活動

 労働者が未払残業代を請求するにあたり,労務の本作業前後の諸活動が労働基準法上の「(実)労働時間」に該当するかどうかが争われた事例として,以下のブログで,三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件(最一小判平成12・3・9民集54巻3号801頁)と,三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件(最一小判平成12・3・9労判778号8頁)を紹介しました。



 ここでは,両事件について,事案を含めさらに深く検討します。 


 まず,基本的な理解の再確認からですが,労務の本作業前後の諸活動が労働基準法上の(実)労働時間に該当するかどうかが争われるときには,職務遂行に必要な行為で職務と同視できるか,および,それらの活動が労働者に義務付けられているかという点から判断されるとする 見解があります(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)648頁)。


2 判例・裁判例ー三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件,三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件

 両事件で未払残業代を請求した労働者らは,使用者である三菱重工の長崎造船所で就業していました。出社にあたっては,所定の入場門から事業所内に入り,始業に間に合うよう,更衣所又は控所等にて作業服及び保護具,工具等の装着を済ませて準備体操場まで移動しておく必要がありました。また,未払残業代を請求した労働者らの中には,材料庫等からの副資材や消耗品等の受出しを午前ないし午後の始業時刻前に行うことや,午前の始業時刻前に月数回粉じん防止のための散水をすることが義務づけられている者もいました。


 両事件において判示のあった本作業前後の諸活動(午前の終業時刻後,午後の始業時刻前の活動については後述。)は,始業時間前では,①所定の入退場門から事業所内に入って更衣所又は控所等までの移動,②更衣所又は控所等において作業服及び保護具,工具等の装着,③更衣所又は控所等から準備体操場までの移動,④材料庫等からの副資材や消耗品等の受出し,粉じん防止のための散水でした。終業時間後では,⑤作業場等から更衣所又は控所等までの移動,⑥更衣所又は控所等において作業服及び保護具,工具等の脱離,⑦手洗い,洗面,洗身,入浴,通勤服の着用,⑧更衣所又は控所等から所定の入退場門までの移動でした。


 これら本作業前後の諸活動につき,まず①・⑧の各移動は,使用者である三菱重工業長崎造船所の指揮命令下に置かれたものと評価することができないとして,各移動時間は労基法上の労働時間に該当しないとされています(三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件)。

 また,⑦の洗身等については,実作業の終了後に事業所内の施設において行うことを義務付けられておらず,特に洗身等をしなければ通勤が著しく困難であるとまではいえなかったのであるから,これに引き続いてされた通勤服の着用も含めて, 使用者である三菱重工業長崎造船所の指揮命令下に置かれたものと評価することはできず,洗身等の時間は労基法上の労働時間に該当しないとされています(三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件)。


 他方で,未払残業代を請求した労働者は,実作業に当たり作業服及び保護具,工具等の装着を義務付けられ,また,その装着を事業所内の所定の更衣所又は控所等において行うものとされていたのであるから,②の装着,③・⑤の各移動,⑥の脱離は, 使用者である三菱重工業長崎造船所の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,各行為に要した時間は労基法上の労働時間に該当するとされています。また,④の行為も同様であるとされています(三菱重工業長崎造船所(会社側上告)事件)。


 なお,午前の終業時間後・午後の始業時間前の,休憩時間中の作業場等と食堂等の移動, 作業服及び保護具,工具等の脱離・装着については,使用者は,休憩時間中,労働者を就業を命じた業務から解放して社会通念上休憩時間を自由に利用できる状態に置けば足り,各行為に要する時間は,特段の事情のない限り労働基準法上の労働時間に該当するとはいえないとしています(三菱重工業長崎造船所(組合側上告)事件)。


更新日 2020年8月24日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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