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執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~監視・断続的労働従事者

更新日:2020年8月27日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 監視・断続的労働従事者

2 監視労働・断続的労働

3 常態として監視・断続的労働に従事する者,宿・日直

4 行政官庁の許可

5 判例・裁判例ー共立メンテナンス事件

6 断続的労働である医師・看護師等の宿・日直業務の許可基準

7 断続的労働である医師・看護師等の宿・日直業務の許可基準の内容

8 判例・裁判例ー奈良県(医師・割増賃金)事件


1 監視・断続的労働従事者

 労働基準法41条3号は,「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」,いわゆる監視・断続的労働従事者について,第4章(労働時間,休憩,休日及び年次有給休暇),第6章(年少者)及び第6章の2(妊産婦等)で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は適用しないとしています。残業代でいえば,監視・断続的労働従事者には発生しません。

 もっとも,条文上,深夜業の関係規定の適用は排除されていませんので,監視・断続的労働従事者についても,労働基準法37条に定める時間帯に労働させる場合には,深夜労働の割増賃金が発生します(昭63・3・14基発150号,平11・3・31基発168号)。


 以下では,この監視・断続的労働従事者について検討します。


2 監視労働・断続的労働

 「監視労働」とは,一定部署にあって監視することを本来の業務とし,常態として身体または精神的緊張の少ない労働をいいます(菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂,2019年)494頁)。また,「断続的労働」とは,実作業が間欠的に行われて手持時間の多い労働をいいます(菅野・前掲494頁)。


 監視・断続的労働に従事する者を労働基準法41条3号が適用除外とした趣旨は,通常の労働者より労働密度が薄く,労働時間・休憩・休日の規定を適用しなくても必ずしも労働者の保護に欠けるところがないことにあります(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)669頁)。例としては,監視労働として,門番,守衛などがあります。断続的労働としては,修繕係(通常は業務閑散であるが,事故発生に備えて待機するもの),寄宿舎の賄人(その者の勤務時間を基礎として作業時間と手持時間折半の程度まで),鉄道踏切番(1日交通量10往復程度まで)があります(昭22・9・13発基17号,昭23・4・5基発535号,昭63・3・14基発150号)。


 他方,監視・断続的労働に従事する者を労働基準法41条3号が適用除外とした趣旨は上述のとおりですから,危険性・有害性,精神的緊張度の高い労働については,適用除外とはなりません(水町・前掲669頁)。労働基準法41条3号の適用除外を受けるには,行政官庁(所轄労働基準監督署長)の許可を得ることが必要とされていますが(労働基準法41条3号,労働基準法施行規則34条),監視労働に従事する者の一般的許可基準をみても,「常態として身体又は精神的緊張の少ないもの」について許可するとし,①交通関係の監視,車両誘導を行う駐車場等の監視等精神的緊張の高い業務,②プラン等における計器類を常態として監視する業務,③危険又は有害な場所における業務のようなものは許可しないとしています(昭22・9・13発基17号,昭63・3・14基発150号)。断続的労働に従事する者についても,「その他特に危険な業務に従事する者」については許可しないとしています(昭22・9・13発基17号,昭23・4・5基発535号,昭63・3・14基発150号)。


3 常態として監視・断続的労働に従事する者,宿・日直

 監視・断続的労働に従事する者として労働基準法41条3号により適用除外となると,労働時間,休憩及び休日に関する規定がすべて除外されますので,対象となるのは,常態として監視・断続的労働に従事する者です。したがって,断続的労働とそうでない通常の労働とが1日の中において混在し,又は日によって反復するような場合には,常態として断続的労働に従事する者には適用されません(昭63・3・14基発150号)。

 しかし,そうした場合と異なり,通常の業務外において付随的に宿・日直業務のような断続的労働に従事する場合は, 労働基準法41条3号の対象となり得ます(昭35・8・25基収6438号)。こうした断続的労働である宿・日直業務における行政官庁の許可は,労働基準法施行規則34条とは別に23条で規定されています。そして行政解釈によれば,その許可基準として,①勤務の態様(常態として,ほとんど労働をする必要のない勤務のみを認めるものであり,定時的巡視,緊急の文書又は電話の収受,非常事態に備えての待機等を目的とするものに限ること。原則として,通常の労働の継続は許可しないこと。),②手当(宿直勤務1回についての宿直手当又は日直勤務1回についての日直手当の最低額は,賃金の1人1日平均額の3分の1を下らないものであること。),③宿・日直の回数(宿直勤務については週1回,日直勤務については月1回を限度とすること。),④その他(宿直勤務については,相当の睡眠設備の設置を条件とするものであること。)などとされています(昭22・9・13発基17号,昭63・3・14基発150号)。


4 行政官庁の許可

 監視・断続的労働の内容・態様は千差万別であり,一般の労働と明確に区別する客観的な基準を設定することも難しいうえに,適用除外によって労働条件には著しい影響がもたらされます。そこで, 労働基準法41条3号の適用除外を受けるには,行政官庁(所轄労働基準監督署長)の許可を得ることが必要とされています(労働基準法41条3号,労働基準法施行規則34条)(水町・前掲669,670頁)。

 この許可は, 労働基準法41条3号の適用除外の効力発生要件であり,許可なく監視・断続的労働に従事させても適用除外とはなりません。また,この許可を受けていても,実態として監視・断続的労働従事者に該当するといえない場合には,適用除外の効力は発生しません(水町・前掲670頁)。


5 判例・裁判例ー共立メンテナンス事件

 未払残業代の請求において,監視・断続的労働従事者が争点等に関わり言及された事例の一つが,共立メンテナンス事件(大阪地判平成8・10・2労判706号45頁)です。


 この事件で未払残業代を請求されたのは,学生寮,社員寮等の運営を業とする共立メンテナンスという会社です。未払残業代を請求したのは,共立メンテナンスに雇用されていた夫婦で,夫が寮の管理人,妻が寮母としてある寮に配置されていました。

 夫婦の業務について,共立メンテナンスは,平成5年12月27日,労働基準監督署長から,労働基準法41条3号の断続的労働の許可を得ています。このことを考慮して,夫婦は,平成4年5月11日から平成5年12月26日(許可の前日)の期間における法定外時間外労働,深夜労働及び休日労働の割増賃金を共立メンテナンスに請求しています。


 争点は複数ありますが, 監視・断続的労働従事者に関係する部分に絞ると,共立メンテナンスは,労働基準監督署長の許可を受けてはいなかったものの,夫婦が主張する許可前の期間の業務についても許可後と同様,夫婦の労働密度は極めて希薄で断続的労働であったのであるから残業代の支払義務を負わないなどと主張しました。

 しかし,判決は,労働基準法41条3号の趣旨は,実際に区別することが難しい「監視又は断続的労働」と一般の労働について,使用者が断続的労働であることに藉口し,不当な労働形態を採ることを防止するため,労働基準監督署長に判断を委ねて,労働者の保護を図ることにあると解すべきであるから,その労働実態にかかわらず,労働基準監督署長の許可を受けていない以上,労働基準法の労働時間及び休日に関する諸規定の適用を免れないというべきであるとして,共立メンテナンスの主張を排斥しています。


★共立メンテナンス事件の事案など詳細については以下のブログで検討しています。


6 断続的労働である医師・看護師等の宿・日直業務の許可基準

 断続的労働である宿・日直業務における行政官庁の許可基準はすでに述べたとおりですが,そうした一般の宿・日直業務の許可基準に加え,医師・看護師等の宿・日直業務の許可基準は,その特性に鑑み,別途の行政解釈が出されています(令元・7・1基発8号)。

 なお,この通達をもって,医師・看護師等の宿直業務の許可基準に関する従前の行政解釈である昭24・3・22基発352号は廃止されていますが, 令元・7・1基発8号は従前考え方を明確化したものであり,従前の許可基準を変更するものではないとされています(令元・7・1基監発1号)。


7 断続的労働である医師・看護師等の宿・日直業務の許可基準の内容

 令元・7・1基発8号は,医師・看護師等の宿・日直業務については,次に掲げる条件を全て満たし,かつ,宿直の場合は夜間に十分な睡眠がとり得るものである場合に,労働基準法施行規則23条の許可をするとしています。

①通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。すなわち,通常の勤務時間終了後もなお,通常の勤務態様が継続している間は,通常の勤務時間の拘束から解放されたとはいえないことから,その間は勤務については,宿日直の許可の対象とはならないものであること。

②宿日直中に従事する業務は,一般の宿日直業務以外には,特殊の措置を必要としない程度の又は短時間の業務に限ること。例えば,次に掲げる業務等をいい,通常の勤務時間と同態様の業務は含まれないこと。

・医師が,少数の要注意患者の常態の変動に対応するため,問診等による診察等(軽度の処置を含む。)や,看護師等に対する指示,確認を行うこと。

・医師が,外来患者の来院が通常想定されない休日・夜間(例えば非輪番日であるなど)において,少数の軽症の外来患者や,かかりつけ患者の状態の変動に対応するため,問診等による診察等や,看護師等に対する指示,確認を行うこと。

・看護職員が, 外来患者の来院が通常想定されない休日・夜間(例えば非輪番日であるなど)において,少数の軽症の外来患者や,かかりつけ患者の状態の変動に対応するため,問診等を行うことや,医師に対する報告を行うこと。

・看護職員が,病室の定時巡回,患者の状態の変動の医師への報告,少数の要注意患者の定時検脈,検温を行うこと。

③①,②以外に,一般の宿日直の許可の際の条件を満たしていること。


 令元・7・1基発8号は,宿・日直中の通常の勤務時間と同態様の業務について,次のように取り扱うとしています。

①宿日直の許可が与えられた場合において,宿日直中に,通常の勤務時間と同態様の業務に従事すること(医師が突発的な事故による応急患者の診療又は入院,患者の死亡,出産等に対応すること,又は看護師等が医師にあらかじめ指示された処置を行うこと等)が稀にあったときについては,一般的にみて,常態としてほとんど労働することがない勤務であり,かつ宿直の場合は,夜間に十分な睡眠がとり得るものである限り,宿日直の許可を取り消す必要はないこと。

②①の通常の勤務時間と同態様の業務に従事する時間について労働基準法33条又は36条1項による時間外労働の手続がとられ,37条の割増賃金が支払われるよう取り扱うこと。

③したがって,宿日直に対応する医師等の数について,宿日直の際に担当する患者数との関係又は当該病院等に夜間・休日に来院する急病患者の発生率との関係等からみて,上記のように通常の勤務時間と同態様の業務に従事することが常態であると判断されるものについては,宿日直の許可を与えることはできないものであること。


 令元・7・1基発8号は,宿日直の許可は,一つの病院,診療所等において,所属診療科,職種,時間帯,業務の種類等を限って与えることができ,例えば,医師以外のみ,医師について深夜の時間帯のみといった許可のほか,上述の許可基準②の例示に関して,外来患者の対応業務については許可基準に該当しないが,病棟宿日直業務については許可基準に該当するような場合については,病棟宿日直業務のみに限定して許可を与えることも可能であるとしています。


 令元・7・1基発8号は,小規模の病院,診療所等においては,医師等が,そこに住み込んでいる場合には,これを宿日直として取り扱う必要はないが,この場合であっても,通常の勤務時間と同態様の業務に従事するときには,労働基準法33条又は36条1項による時間外労働の手続が必要であり,37条の割増賃金を支払わなければならないことはいうまでもないとしています。


8 判例・裁判例ー奈良県(医師・割増賃金)事件

 未払残業代を労働者である医師が請求する中で,医師の宿・日直勤務が断続的労働にあたるかが争点となった事例を紹介します。奈良県(医師・割増賃金)事件(大阪高判平成22・11・16労判1026号144頁)です。


 この事件の判決は,医師の宿・日直勤務についての行政解釈の基準を用いて,当該事案における医師の宿・日直勤務の実態は,労働基準法41条3号所定の断続的労働ということはできないとしています。


★奈良県(医師・割増賃金)事件の事案など詳細について以下のブログを参照ください。


更新日 2020年8月25日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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