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執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~医師の宿・日直勤務は断続的労働か(奈良県(医師・割増賃金)事件)

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 判例・裁判例ー奈良県(医師・割増賃金)事件


1 判例・裁判例ー奈良県(医師・割増賃金)事件

 未払残業代を労働者が請求する中で,労働者の宿・日直勤務が断続的労働(労働基準法41条3号)にあたるかが争点となった事例として,奈良県(医師・割増賃金)事件(大阪高判平成22・11・16労判1026号144頁)を紹介しました。



 ここでは奈良県(医師・割増賃金)事件の事案を含め,より詳細に検討します。 


 奈良県(医師・割増賃金)で未払残業代を請求したのは,奈良県立の病院の産婦人科に勤務する医師らです。未払残業代を請求されたのは病院を設置する奈良県です。

 この医師らは,宿・日直勤務及び宅直勤務の時間が労働基準法上の労働時間であるとして,労働基準法37条の時間外・休日労働の割増賃金の支払いを求めました。


 事件の争点は複数ありますが,医師らの宿・日直勤務の断続的労働該当性に関係する事実関係を確認すると,まず,医師らの所定労働時間は,月曜日から金曜日までの各午前8時30分から午後5時15分までとされ,所定労働時間以外に交代(当時医院に勤務していた医師は合計5名)で宿・日直勤務が命じられていました。宿・日直勤務の勤務時間は,宿直が平日休日を問わず午後5時15分から翌朝8時30分まで,日直が休日の午前8時30分から午後5時15分まででした。


 奈良労働基準監督署長は,次のような条件で,医師らの宿・日直勤務について労働基準法施行規則23条の許可を行っていました。

・1回の勤務に従事する者は次のとおりとする。

 宿直3人以内 日直3人以内

・1人の従事回数は次の回数をこえないこと。

 宿直週1回 日直月1回

・勤務の開始及び終了の時刻は次のとおりとすること。

 宿直 開始17時15分より前に勤務につかせないこと 終了8時30分より後に勤務につかせないこと

 日直 開始8時30分より前に勤務につかせないこと 終了17時15分より後に勤務につかせないこと

・1回の宿直又は日直の手当額は8000円以上とすること。なおこの金額については将来においても宿直又は日直の勤務につくことの予定されている同種の労働者に対して支払われる賃金の1人1日平均額の3分の1を下回らないこと。

・通常の労働に従事させる等,許可した勤務の態様と異なる勤務に従事させないこと。

・宿直の勤務につかせる場合は,就寝のための設備を設けること。


 判決は,まず,医師らの宿・日直勤務について奈良労働基準監督署長の労働基準法施行規則23条の許可が出されているけれども,医師らの宿・日直勤務の実態は,従事回数や宿日直開始前の時間・宿日直終了後の時間は業務につかせないという許可の条件とかけ離れているから,奈良労働基準監督署が許可を与えていたからといって,そのことのみにより医師らの宿・日直勤務が労働基準法41条3号の断続的労働に該当するとはいえないなどとしています。


 次に,労働基準法41条3号の断続的労働該当性について,判決は,当時の医師等の宿・日直勤務の許可基準についての行政解釈(原則として診療行為を行わない休日及び夜間勤務については,病室の定時巡回,少数の要注意患者の定時検脈など,軽度又は短時間の業務のみが行われている場合には,宿日直勤務として取り扱う。)は,裁判所が医療機関の宿・日直勤務が労働基準法41条3号の断続的労働に当たるかどうかを判断する基準としても相当であるとしています。


 その上で,判決は,医師ら産婦人科医の宿・日直勤務の実態は,労働基準法41条3号所定の断続的労働ということはできないとしています。そうした判断にあたっては,以下のような事情が考慮されています。


・医師らが勤務する医院が奈良県周産期医療情報システムにより構築されたネットワークの基幹病院として周産期患者の受け入れを行っていて,医師らが勤務する医院が受け入れた時間外救急患者数は,ネットワークにおいて受け入れ機関とされた5病院のうちでも突出して多いこと。

・医師らが宿・日直勤務で担当した正常分娩,異常分娩,分娩・新生児・異常妊娠治療及び産科系以外の救急外来件数。

・産婦人科当直医は入院患者の正常分娩,異常分娩(手術を含む)及び分娩,手術を除く処置全般,家族への説明,電話対応等の処理を行うべきことが予定・要請されていたのみならず,病院に搬送される周産期患者に対して適切な処理を行うべきことが当然予定・要請されていて,これらはいずれも産婦人科医としての通常業務そのもので,産婦人科医の宿・日直業務は,労働密度が薄く,精神的肉体的負担も小さい病室の定時巡回,少数の要注意患者の定時検脈など,軽度又は短時間の業務であるなどとは到底いえないこと。

・医院における分娩の実情(宿・日直時間帯の分娩件数など),医師らが宿・日直勤務時間中に通常業務に従事した時間の割合。


更新日 2020年8月25日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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