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  • 執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~社員寮の管理人・寮母は監視・断続的労働従事者か(共立メンテナンス事件)

更新日:2020年10月17日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 判例・裁判例ー共立メンテナンス事件

2 検討等


1 判例・裁判例ー共立メンテナンス事件

 労働者が会社に対し未払残業代を請求する中で,監視・断続的労働従事者が争点等に関わり言及された事例の一つとして,共立メンテナンス事件(大阪地判平成8・10・2労判706号45頁)を紹介しました。



 ここでは,共立メンテナンス事件の事案も含め,詳しく検討します。


 この共立メンテナンス事件で,労働者らより未払残業代を請求されたのは,学生寮,社員寮等の運営を業とする共立メンテナンスという会社です。未払残業代を請求したのは,共立メンテナンスに雇用されていた夫婦で,夫が寮の管理人,妻が寮母としてある寮に配置されていました。


 夫の主な業務は寮の管理や入寮者の世話であり,妻の主な業務は入寮者への朝夕の給食でした。

 共立メンテナンスの就業規則によると,未払残業代を請求した夫婦の勤務時間は,始業時刻午前6時,終業時刻午後10時とされていて,休日は,日曜日,祝祭日,年末年始5日などとされていました。しかしながら, 夫婦の勤務を定める共立メンテナンス作成の規程によると,夫の業務である建物等の巡回時間は,午前6時から午前7時及び午後10時30分から午後11時とされ,電話交換業務は,午前7時から午後11時まで,緊急の場合はそれ以外の時間帯にも行うものとされていました。また,規程の記載はないのですが,午後10時以降の業務には管理人等が対応することが求められていました。さらに,休日に夫婦が行う業務はなかったのですが,共立メンテナンスからは,休日においても夫婦のいずれかあるいはパートタイマーの少なくともだれか一人は在寮し,留守にすることのないよう指示されていました。


 こうした夫婦の業務について,共立メンテナンスは,平成5年12月27日,労働基準監督署長から,労働基準法41条3号の断続的労働の許可を得ています。そこで,夫婦は,平成4年5月11日から平成5年12月26日(上述の許可の前日)の期間における法定外時間外労働,深夜労働及び休日労働の割増賃金を共立メンテナンスに請求しています。なお,許可の前後で夫婦の業務に変更はありませんでした。


 この事件の争点は複数ありますので, 監視・断続的労働従事者に関係する部分に絞ると,まず,判決は,法定外時間外労働,深夜労働及び休日労働に関する夫婦の主張を一部認めています。

 判決は, 夫婦の労働密度がさほど濃厚であったとはいえないとしながら,夫婦は勤務時間中に仕事から完全に解放されることはなかったなどして,夫婦の勤務時間から夫婦が自認する休憩時間(明確な休憩時間の定めはありませんでした。)を控除した時間を1日の実労働時間とするほかないとし,その場合には夫婦には法定外時間外労働が発生するとしています。

 深夜労働については,建物等の巡回時間は午前6時から7時及び午後10時30分から11時とされ,電話交換業務は午前7時から午後11時まで行うものとされ,午後10時以降の業務には管理人等が対応することが求められていたことから,夫についてその主張する深夜労働の一部を認めています。

 休日労働については,業務を行わなければならない事態が頻繁に生じたとは考え難いものの,夫婦は事態に備えて寮で待機することを余儀なくされていたなどして,その主張の一部を認めています。


 共立メンテナンスは,労働基準監督署長の許可を受けてはいなかったものの,夫婦が主張する許可前の期間の業務についても許可後と同様,夫婦の労働密度は極めて希薄で断続的労働であったのであるから残業代の支払義務を負わないなどと主張しました。しかし,判決は,労働基準法41条3号の趣旨は,実際に区別することが難しい「監視又は断続的労働」と一般の労働について,使用者が断続的労働であることに藉口し,不当な労働形態を採ることを防止するため,労働基準監督署長に判断を委ねて,労働者の保護を図ることにあると解すべきであるから,その労働実態にかかわらず,労働基準監督署長の許可を受けていない以上,労働基準法の労働時間及び休日に関する諸規定の適用を免れないというべきであるとして,共立メンテナンスの主張を排斥しています。


2 検討等

 この判決において,監視・断続的労働従事者に関連して気になるのは,なぜ,夫婦は, 平成5年12月27日の労働基準監督署長からの労働基準法41条3号の断続的労働の許可までの分しか残業代を請求していないのかということです。労働基準法41条3号(3号に限らず,1・2号でも)により労働時間等の適用除外を受ける者であっても,労働基準法37条に定める深夜の時間帯に労働させる場合は,深夜労働の割増賃金を支払わなければならないとされています(昭63・3・14基発150号,平12・3・31基発168号)。したがって,許可後についても,少なくとも深夜労働をしたとなれば深夜労働の割増賃金は請求できますし,許可後と同じ業務態様であった許可前において深夜労働は認められていますので,許可後の深夜労働も認められたはずです。

 もっとも,この夫婦は,平成6年3月末をもって共立メンテナンスを退職しています。上述の深夜労働も請求する可能性があるのは平成6年3月末までと,許可が出た平成5年12月27日より3か月ほどの期間ですので,こうした事情が何らか請求されていない,あるいはしない理由となっているのかもしれません。


更新日 2020年10月17日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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