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<本日の内容>
1 裁量労働制の概要
2 裁量労働制の利用状況
1 裁量労働制の概要
労働基準法は,労働時間制度の特則として,労働時間のみなし制を置いています。この労働時間のみなし制には,1987(昭和62)年の労基法改正で導入された事業場外労働のみなし制(労働基準法38条の2)および専門業務型裁量労働のみなし制(労働基準法38条の3),1998(平成10)年の労基法改正で導入された企画業務型裁量労働のみなし制(労働基準法38条の4)があります(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)706頁)。
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裁量労働制は,法所定の業務について労使協定等でみなし労働時間数を定めた場合には,当該業務を遂行する労働者について,実際の労働時間数に関わりなく労使協定等で定める時間数労働したものとみなすことができる制度です(菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂,2019年)545頁)。
専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の違いは,専門業務型裁量労働制では対象業務が厚生労働省令で列挙されていて(労働基準法38条の3第1項1号,労働基準法施行規則24条の2の2第2項),その射程が限定されているのに対し,企画業務型裁量労働制では対象業務が抽象的・概括的に設定されていて(労働基準法38条の4第1項1号,なお,労働基準法38条の4第3項に基づく「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(平11・12・27労告149号)では対象業務についてのガイドラインなどが示されています。),その射程が幅広く及ぶ可能性があります。そこで,専門業務型裁量労働制は,労使協定の締結によって導入できる一方,企画業務型裁量労働制は労使半数で構成される労使委員会による決議や労働者個人の同意など,その手続的要件がより厳しく設定されています(水町・前掲711,715頁)。
2 裁量労働制の利用状況
2015(平成27)年から2019(平成31)年の5年間の厚生労働省による就労条件総合調査結果にある裁量労働制の利用状況は以下のとおりです。「調査計」は常用労働者30人以上の企業,「1000人以上」とは常用労働者1000人以上の企業です。
専門業務型裁量労働制にせよ,企画業務型裁量労働制にせよ,要件や手続が複雑であるせいか利用は低調と評されています(菅野・前掲545頁)。
2015(平成27)年
調査計 専門業務型 2.3% 企画業務型 0.6%
1000人以上 専門業務型 9.6% 企画業務型 5.9%
2016(平成28)年
調査計 専門業務型 2.1% 企画業務型 0.9%
1000人以上 専門業務型 9.5% 企画業務型 4.7%
2017(平成29)年
調査計 専門業務型 2.5% 企画業務型 1.0%
1000人以上 専門業務型10.2% 企画業務型 5.9%
2018(平成30)年
調査計 専門業務型 1.8% 企画業務型 0.8%
1000人以上 専門業務型11.0% 企画業務型 4.7%
2019(平成31)年
調査計 専門業務型 2.3% 企画業務型 0.6%
1000人以上 専門業務型10.9% 企画業務型 4.4%
2020年8月11日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎
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