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  • 執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~過労により発症した脳疾患は労災か(横浜南労基署(東京海上横浜支店)事件)

更新日:2020年8月29日

★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


★働き方改革関連法による時間外労働の罰則付き上限規制についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 働き方改革関連法による労働基準法改正,労災補償上の過労死認定基準

2 判例・裁判例ー横浜南労基署(東京海上横浜支店)事件


1 働き方改革関連法による労働基準法改正,労災補償上の過労死認定基準

 2018(平成30)年6月成立の働き方改革関連法による労働基準法改正により,時間外労働(ないし時間外労働に休日労働を加えた時間)の罰則付き上限が初めて導入されましたが(労働基準法36条3~6項),そこでは36協定の特別協定用の上限と時間外労働それ自体の上限を労災補償上の過労死認定基準(平13・12・12基発1063号)に合わせるなどされています(労働基準法36条5・6項)。


 この平13・12・12基発1063号は,横浜南労基署(東京海上横浜支店)事件(最一小判平成12・7・17労判785号6頁)の最高裁判決を受けて従前の行政解釈が改正されたものであることは,すでに述べたとおりです。



 以下では, 横浜南労基署(東京海上横浜支店)事件について詳しく検討します。


2 判例・裁判例ー横浜南労基署(東京海上横浜支店)事件

 横浜南労基署(東京海上横浜支店)事件は,支店長付きの運転手として自動車運転の業務に従事していた労働者が,昭和59年5月11日早朝,支店長を迎えに行くため自動車を運転して走行中にくも膜下出血を発祥し休業したことにつき,労災保険の休業補償の請求をしたところ,横浜南労働基準監督署が,くも膜下出血の発症は業務上の疾病に当たらないとして不支給の決定をしたため,労働者がその取消しを求めたというものです。


 この労働者の業務は,支店長の出退勤,支社等の巡回,客先回り,料亭やゴルフ場での接待等の際の送迎及び支店の幹部社員や顧客の送迎等でした。この支店の運転手は1人であったため,自動車の清掃,整備等はすべてこの労働者の職務とされていました。また,代車がないため,小さな故障の修理も行っていました。日々の運転予定は直前になって指示されることが多く,待機時間中も即座に運転に臨めるよう気を遣って待機していました。

 勤務時間は平日午前8時30分から午後5時30分まで,土曜日は午前8時30分から正午までとされていました。しかし,昭和56年7月からは支店長の異動により走行距離が長くなるとともに勤務時間も早朝から深夜に及ぶようになり,昭和58年1月からくも膜下出血が発症した昭和59年5月11日までの時間外労働時間は,1か月平均約150時間,走行距離は1か月平均厄3500キロメートルでした。発症半年前の昭和58年12月以降の1日平均の時間外労働時間は7時間を上回っていました。発症前月の昭和59年4月は,1日平均の時間外労働時間が7時間を超えていた上,1日平均の走行距離は昭和58年12月以降の各月の1日平均の走行距離の中で最高でした。この4月に,労働者は宿泊を伴う長距離,長時間の運転により体調を崩しています。この4月下旬から翌5月初旬にかけては,断続的に6日間の休日がありました。しかし,5月1日からくも膜下出血が発症した5月11日までの間,勤務の終了が午後12時を過ぎた日が2日,走行距離が260キロメートルを超えた日が2日ありました。そして,発症の前日から当日にかけての勤務は,前日の午前5時30分に出庫し,前日の午後7時30分ころ車庫に帰った後,オイル漏れの修理などもあり就寝が当日午前1時ころとなり,わずか3時間30分程度の睡眠の後午前4時30分ころ起床し,当日の午前5時の少し前に業務を開始しています。

 この労働者のくも膜下出血は,脳動脈りゅうの破裂によって発症した蓋然性が高いとされ,さらにくも膜下出血の危険因子として挙げられている高血圧症も進行していました。しかし,昭和56年10月及び昭和57年10月当時はなお血圧が正常と高血圧の境界領域にあり,治療の必要のない程度のものとされていました。


 以上を踏まえ,判決は,次のように述べて,労働者のくも膜下出血の発症が業務上の疾病にあたると判断しています。

 すなわち,労働者の基礎疾患の内容,程度,労働者がくも膜下出血発症前に従事していた業務の内容,態様,遂行状況等に加えて,脳動脈りゅうの血管病変は慢性の高血圧症,動脈硬化により増悪するものと考えられており,慢性の疲労や過度のストレスの持続が慢性の高血圧症,動脈硬化の原因の一つとなり得るものであることを併せ考えれば,労働者の基礎疾患が発症当時その自然の経過によって一過性の血圧上昇があれば直ちに破裂を来す程度にまで増悪していたとみることは困難というべきであり,他に確たる増悪要因を見いだせない本件においては,労働者が発症前に従事した業務による過重な精神的,身体的負荷が労働者の基礎疾患をその自然の経過を超えて増悪させ,発症に至ったものとみるのが相当であって,その間に相当因果関係の存在を肯定することができる,との判示です。


更新日 2020年8月29日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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