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福岡の弁護士が未払残業代を解説22~管理監督者(日産自動車(管理監督者性)事件)

最終更新: 7月26日

未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。

福岡の弁護士が未払残業代請求(時間外手当,休日労働手当)の基礎を解説


<本日の内容>

1 判例・裁判例ー日産自動車(管理監督者性)事件


1 判例・裁判例ー日産自動車(管理監督者性)事件

 未払残業代の請求に対し,使用者が労働者は管理監督者に該当すると反論して争った比較的最近の事例に,日産自動車(管理監督者性)事件(横浜地判平成31・3・26労判1208号46頁)があります。


 未払残業代を請求されたのは,自動車の製造,販売及び関連事業を主な事業とする株式会社であり,日本を代表する自動車メーカーです。

 未払残業代を請求したのは,この会社の労働者であった者の相続人の1人です。労働者自身は,執務中に倒れ,脳幹出血で死亡しています。


 未払残業代の請求にかかる期間,この労働者は会社の役割等級でN2職の課長職にあり,平成25年4月1日から所属していたダットサン・コーポレートプラン部ではマネージャー,平成28年2月16日から所属していた日本LCVマーケティング部ではマーケティングマネージャーの役職に就いていました。

 ダットサン・コーポレートプラン部において,マネージャーは,新しい車両の投資額及び収益率を決定する商品決定会議に出席するとともに,投資額及び収益率の提案を企画立案する立場にありました。また,マネージャーは商品決定会議での提案を作成する中で,各部門の長から,製品原価と販売価格の基礎となる数字についての約束(「ファンクションリプライ」といいます。)を取り付ける権限を有していました。商品決定会議で決定した新しい車両に対しての投資額と収益率(「コントラクト」といいます。)について,進捗の確認と過未達の報告をするとともに,販売広告費の戦略を決定するのがプロダクトコンペティティブネス・マーケティングプラン・プロポーザル会議です。この会議で,マネージャーは司会進行を担い,コントラクトの進捗, 過未達を報告するとともに,ファンクションリプライの未達の責任者に対し,釈明を求めるといった職務を行っていました。

 日本LCVマーケティング部において,マーケティングマネージャーは,マーケティングプランを企画し,マーケティングプランを決定するマーケティング本部会議でそれを提案する立場にありました。また,マーケティングマネージャーは,営業本部会議において,ディーラーが担当車種のマーケティングプランを円滑に実行できるよう, 現地統括会社であるリージョナルカンパニーの社に援助を依頼していました。

 この労働者は,会社の勤怠管理システムに勤務時間を入力し,承認者の承認を得ていました。もっとも,始業時間より遅く出勤したり,終業時間より早く退勤することも多く,遅刻・早退により賃金が控除されたことはありませんでした。

 収入は,月額86万6700円又は88万3400円で,年収1234万3925円に達し,部下より244万0492円高い金額でした。


 判決は,労働基準法41条2号の趣旨を述べ,管理監督者に該当するといえるためには,①労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているか,②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか,③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきであるとしています。


 その上で, ①労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているかについては,

・ダットサン・コーポレートプラン部において,マネージャーは,新しい車両の投資額及び収益率を決定する商品決定会議に出席するとともに,投資額及び収益率の提案を企画立案する立場にあったが, 商品決定会議で実際に提案するのは,上位職であるN1職のプログラムダイレクターであって,マネージャーが企画立案した提案も, プログラムダイレクターが了承する必要がある。商品決定会議で,マネージャーが発言することは基本的に予定されていない。商品決定会議における経営の意思の形成に直接的に影響力を行使しているのはプログラムダイレクターであって,マネージャーは, プログラムダイレクターの補佐にすぎないから,経営意思の形成に対する影響力は間接的である。

・マネージャーはファンクションリプライを取り付ける権限を有していたが,管理監督者でない者もファンクションリプライを取り付けていたのであるから,ファンクションリプライを取り付けるという権限が,管理監督者該当性を基礎付ける権限であるということはできない。また,マネージャーは収益に影響がないファンクションリプライを裁量で変更することができたが,収益に影響がある際には,商品決定会議でコントラクトを再提案してCEOの決裁を得る必要があったのであるから,マネージャーの権限は,限定的であったといえる。

・プロダクトコンペティティブネス・マーケティングプラン・プロポーザル会議で,マネージャーは司会進行を担い,コントラクトの進捗, 過未達を報告するとともに,ファンクションリプライの未達の責任者に対し,釈明を求めるといった職務を行っていたが,この会議でのマネージャーの職務は,商品決定会議で決定した経営方針(コントラクト)の実施状況について,経営者側に現状を報告し,その経営方針を実施するための支障となる事象(ファンクションリプライの未達)の原因究明(責任者からの釈明)の報告をしているにすぎず,経営者側と一体的な立場にあるとまで評価することはできない。

・日本LCVマーケティング部において,マーケティングマネージャーは,マーケティングプランを企画し,マーケティングプランを決定するマーケティング本部会議でそれを提案する立場にあったが,マーケティングマネージャーは,マーケティング本部会議で提案する前に,マーケティングダイレクターからあらかじめマーケティングプランの承認を受ける必要があり, マーケティングダイレクターもマーケティング本部会議に出席し, マーケティングマネージャーと一緒にマーケティングプランを提案する立場にある。マーケティングマネージャーは,マーケティングダイレクターとは異なり,担当車種が議題に上るときだけマーケティング本部会議に出席する。マーケティングマネージャーは,マーケティングダイレクターの補佐にすぎず,経営意思の形成に対する影響力は間接的なものにとどまる。

・マーケティングマネージャーは,営業本部会議において,ディーラーが担当車種のマーケティングプランを円滑に実行できるよう, 現地統括会社であるリージョナルカンパニーに援助を依頼していたが,この点は,経営意思の形成にも,労務管理にも関わらないものであるから,管理監督者性の判断に影響を与えるものではない。

と述べて,ダットサン・コーポレートプラン部及び日本LCVマーケティング部に配属されていた当時,実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責及び権限を付与されていとは認められないとしています。


②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているかについては,

・会社の勤怠管理システムに勤務時間を入力し,承認者の承認を得ていたが,始業時間より遅く出勤したり,終業時間より早く退勤することも多く,遅刻・早退により賃金が控除されたことはないことからすれば,自己の労働時間について裁量を有していたと認めることができる。

と述べています。


③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかについては,

・収入は,月額86万6700円又は88万3400円で,年収1234万3925円に達し,部下より244万0492円高かったのであるから,待遇としては管理監督者にふさわしいものと認められる。

と述べています。


 その上で,判決は,②労働者は,自己の労働時間についての裁量があり,③管理監督者にふさわしい待遇がなされているものの,①実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているとは認められないところ,これらの諸事情を総合考慮すると,労働者が管理監督者に該当するとは認められない,と判断しています。


2020年7月8日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

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