• 弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~管理監督者

最終更新: 8月29日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。

福岡の弁護士が未払残業代請求(時間外手当,休日労働手当)の仕組みを分かりやすく・詳しく解説します

<本日の内容>

1 労働基準法上の労働時間,休憩,休日に関する規定の適用除外

2 適用除外の対象規定

3 管理監督者性の判断枠組み~実態に即した客観的な判断

4 管理監督者性の判断枠組み~規定の趣旨

5 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素

6 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素の検討方法

7 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素で問題となる具体的な事情

8 一般的な場合における管理監督者の判断基準を示した行政解釈

9 管理監督者への深夜労働の割増賃金の規定の適用除外の有無ーことぶき事件

10 判例・裁判例ー日本マクドナルド事件

11 判例・裁判例ー神代学園ミューズ音楽院事件

12 判例・裁判例ー日産自動車(管理監督者性)事件

13 判例・裁判例ーことぶき事件(第二審)

14 判例・裁判例ーピュアルネッサンス事件

15 判例・裁判例ー徳洲会事件

16 判例・裁判例ー姪浜タクシー事件


1 労働基準法上の労働時間,休憩,休日に関する規定の適用除外

 労働基準法41条は,第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇),第6章(年少者)及び第6章の2(妊産婦等)で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は,次の労働者には適用しないとしています。


1号 別表第一第六号(林業を除く。)又は第七号に掲げる事業に従事する者(=農業(六号),畜産・水産業(七号)に従事する者)

2号 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

3号 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの


 また,労働基準法41条の2は,特定高度専門業務・成果型労働制(いわゆる高度プロフェッショナル制度)の適用を受ける者は, 第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇)で定める労働時間,休憩,休日及び深夜の割増賃金に関する規定は適用しないとしています。


 すなわち,①農業,畜産・水産業の事業に従事する者,②管理監督者または機密事務取扱者,③監視・断続的労働従事者で行政官庁の許可を受けた者,④高度プロフェッショナル制度の適用を受ける者は,労働基準法上の労働時間,休憩,休日に関する規定の適用除外とされています(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)665頁)。


2 適用除外の対象規定

 労働基準法41条・41条の2で,第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇)等で適用除外とされる規定につき,条文上は「労働時間,休憩及び休日に関する規定」「労働時間,休憩,休日及び深夜の割増賃金に関する規定」とされ,年次有給休暇が落とされて書かれています。労働基準法上の年次有給休暇(39条)に関する規定は,適用除外の対象外ということになります。


 また, ④高度プロフェッショナル制度の適用を受ける者に関する労働基準法41条の2では,「労働時間,休憩,休日及び深夜の割増賃金に関する規定」と明文で深夜労働の割増賃金の規定(労働基準法37条4項)を適用除外の対象規定に含めていますが,①~③に関する労働基準法41条では, 深夜労働の割増賃金の規定を適用除外の対象規定に含めない,すなわち,①~③の適用除外でも深夜労働の割増賃金の規定(労働基準法37条4項)は適用されると考えられています。なお, 労働基準法41条で, 深夜労働の割増賃金の規定を適用除外の対象規定に含めないと解されることを踏まえ,2018(平成30)年に制定された新たな適用除外規定である労働基準法41条の2では, 深夜労働の割増賃金の規定も適用除外とすることが考えられたことから,明文で深夜労働の割増賃金の規定の適用除外が示されたという経緯があります。


3 管理監督者性の判断枠組み~実態に即した客観的な判断

 具体的にどのような労働者が管理監督者にあたるのか,管理監督者性の判断の枠組みについて整理してみます。まず,管理監督者性は,強行法規である労働基準法上の労働時間規制が適用されるか否かを決する概念であるため,「部長」「課長」「店長」等の会社内での肩書きや労働契約上の合意ではなく,個別の実態に即して客観的に判断されます(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)666頁)。


4 管理監督者性の判断枠組み~規定の趣旨

 そして,労働基準法41条2号が,管理監督者について,第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇),第6章(年少者)及び第6章の2(妊産婦等)で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は適用しないとされた趣旨・目的は,①その職務の性質や経営上の必要から,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請される重要な職務と責任,権限が付与され,実際の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にあり,②自己の裁量的判断で労働時間を管理することができ,賃金等の待遇面で他の一般の従業員に比してその地位にふさわしい待遇が付与されていることから,労働基準法上の労働時間等に関する規制を及ぼさなくともその保護に欠けるところはない,このような労働者について労働基準法41条2号は, 第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇),第6章(年少者)及び第6章の2(妊産婦等)で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定を適用するのは不適当であるとして,これらの規定の適用を排除したものと考えられるとされます(白石哲編『労働関係訴訟の実務(第2版)』(有斐閣,2018年)153頁(細川二朗),山川隆一=渡辺弘編『最新裁判実務体系7 労働関係訴訟Ⅰ』(青林書院,2018年)452,453頁(伊良原恵吾))。


5 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素

 実際の裁判例の多くは,管理監督者性について以下の3点に留意し,個別の事案ごとに総合的に考慮して判断しているとます(白石・同書154頁)。


Ⅰ 職務内容,権限および責任の重要性

 労務管理を含め,企業の経営に関わる重要事項につき,どのような関与をし,権限を有しているか。

Ⅱ 勤務態様ー労働時間の裁量・労働時間管理の有無,程度

 労働時間について自由裁量があるか否か。すなわち,職務内容,権限および責任に照らし,勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,また,実際の勤務において労働時間の管理をどのように受けているか。

Ⅲ 賃金等の待遇

 給与(基本給,役職手当等)または賃金全体において,職務内容,権限および責任に見合った待遇がされているか。


6 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素の検討方法

 これらⅠ~Ⅲの判断要素は,近年の裁判例において表現上は考慮要素とされ,総合的に考慮して決するとされつつ,実際の判断では, Ⅰ~Ⅲのうちどれか1つでも欠いた場合には管理監督者性を否定するという要件的な扱いとなっているとの指摘があります(水町・同書667頁,白石・同書156頁(細川)も同旨。)。


 判断の順序としては,Ⅰの判断要素は,管理監督者という条文の文言に照らしても当然に検討を要するものであること,Ⅱの判断要素について検討するに当たっては,職務の内容,権限,責任に関する点を踏まえる必要があることから,Ⅰ→Ⅱの順に判断するとされます。

 また,Ⅰ,Ⅱの判断要素を判断した上でⅢの判断要素を検討するが,Ⅰ,Ⅱで管理監督者性を肯定できなければ,Ⅲの判断要素で待遇の程度を検討するまでもなく,管理監督者性を否定するのが相当な場合もあるとされます(白石・同書156,157頁(細川))。


7 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素で問題となる具体的な事情

 判断要素Ⅰ~Ⅲでは,それぞれどのような事情が具体的に問題とされるのかも見ておきます(白石・同書155,156頁(細川),山川・同書455,456頁(伊良原))。


判断要素Ⅰ

・職務内容や権限が,労務管理等も含む事業経営上重要な事項に及ぶものか。

・事業経営に関する決定過程にどの程度関与しているか。

・他の従業員と同様の現場業務にどの程度従事する状況にあったか。

・他の従業員の職務遂行または労務管理にどの程度関与しているか。

・労働者のうち管理監督者として扱われている者がどの程度いるか。


判断要素Ⅱ

・労働時間が所定就業時間に拘束されていたか。

・職務遂行上,時間外労働または休日労働が避けられない状況であったか。

・労働時間の管理が,タイムカード,出勤簿の記載,出退勤時の点呼・確認等によって行われていたか。この管理により労働時間が拘束されていたか。

・事業経営上重要な事項に関する時間外労働または休日労働が,労働者の裁量に基づいて行われていたか。

遅刻・早退による賃金減額ないし罰金が実施されていたか。


判断要素Ⅲ

・役職手当が支給されている場合,関連する規定または事実関係に照らし,役職に見合った対価として支給されているといえるか。

・役職手当が,実質的にみて,時間外等賃金の全部または一部として支給されているものではなかったか。

・役職手当が支給されていない場合,給与または賃金全体において,役職に見合った金額が支給されているか。

・職位または資格が低い労働者と比較して,給与または賃金全体の額がどのように異なるか。

・労働者が役職者に昇進した際に,給与または賃金全体の額がどのように変わったか。


8 一般的な場合における管理監督者の判断基準を示した行政解釈

 管理監督者の該当性について,実際の裁判例の多くは,行政解釈の内容を何らか参照した上で判断しているとされています。

 そこで管理監督者性に関する行政解釈を確認しておくと,個別の業種・業態についてではなく,一般的な場合における判断基準を具体的に示したものとして, 昭22・9・13発基17号,昭63・3・14基発150号があります(白石哲編『労働関係訴訟の実務(第2版)』(商事法務,2018年)154頁(細川二朗))。その内容は以下のとおりです。

 法41条第2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」とは,一般的には,部長,工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきものである。具体的な判断にあたっては,下記の考え方によられたい。

                   記

⑴ 原則

 法に規定する労働時間,休憩,休日等の労働条件は,最低基準を定めたものであるから,この規制の枠を超えて労働させる場合には,法所定の割増賃金を支払うべきことは,すべての労働者に共通する基本原則であり,企業が人事管理上あるは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であればすべてが管理監督者として例外的取扱いが認められるものではないこと。

⑵ 適用除外の趣旨

 これらの職制上の役付者のうち,労働時間,休憩,休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない,重要な職務と責任を有し,現実の勤務態様も,労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として法第41条による適用の除外が認められる趣旨であること。従って,その範囲はその限りに,限定しなければならないものであること。

⑶ 実態に基づく判断

 一般に,企業においては,職務の内容と権限等に応じた地位(以下「職位」という。)と,経験,能力等に基づく格付(以下「資格」という。)とによって人事管理が行われている場合があるが,管理監督者の範囲を決めるに当たっては,かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく,職務内容,責任と権限,勤務態様に着目する必要があること。

⑷ 待遇に対する留意

 管理監督者であるかの判定に当たっては,上記のほか,賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。この場合,定期給与である基本給,役付手当等において,その地位にふさわしい待遇がなされているか否か,ボーナス等の一時金の支給率,その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること。なお,一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといって,実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。

⑸ スタッフ職の取扱い

 法制定当時には,あまり見られなかったいわゆるスタッフ職が,本社の企画,調査等の部門に多く配置されており,これらスタッフの企業内における処遇の程度によっては,管理監督者と同様に取扱い,法の規制外においても,これらの者の地位からして特に労働者の保護に欠けるおそれがないと考えられ,かつ,法が監督者のほかに,管理者も含めていることに着目して,一定の範囲の者については,同法41条2号該当者に含めて取扱うことが妥当であると考えられること。

 厚生労働省労働基準局監督課長の平20・4・1日基監発401001号は,上記の行政解釈で定めた管理監督者の取扱いについて適正な監督指導等を求めたものとされます(白石・前掲154頁(細川))。その内容は以下のとおりです。

 近年,以上のような点を十分理解しないまま(注:上記の行政解釈のこと。),企業内におけるいわゆる「管理職」について,十分な権限,相応の待遇等を与えていないにもかかわらず,労働基準法上の管理監督者として取り扱っている例もみられ,中には労働時間等が適切に管理されず,割増賃金の支払や過重労働による健康障害防止等に関し労働基準法等に照らして著しく不適切な事案もみられ,社会的関心も高くなっているところである。

 また,このような状況を背景として,管理監督者の取扱いに関して,労使双方からの相談が増加している。

 このため,労働基準監督機関としては,労働基準法上の管理監督者の趣旨及び解釈例規の内容について正しい理解が得られるよう十分な周知に努めるとともに,管理監督者の取扱いに関する相談が寄せられた場合には,企業内におけるいわゆる「管理職」が直ちに労働基準法上の管理監督者に該当するものではないことを明らかにした上で,上記の趣旨及び解釈例規の内容を十分に説明するほか,管理監督者の取扱いについて問題が認められるおそれのある事案については,適切な監督指導を実施するなど,管理監督者の範囲の適正化について遺憾なきを期されたい。


9 管理監督者への深夜労働の割増賃金の規定の適用除外の有無ーことぶき事件

 労働基準法41条2号によって,深夜労働の割増賃金の規定も適用除外となるかに関し,最高裁(ことぶき事件(最二小判平成21・12・18労判1000号5頁))は,労働基準法41条2号の規定によって労働者の深夜労働の割増賃金の規定の適用が除外されることはないとしています。

 

 このことぶき事件では,美容室及び理容室を経営する会社が,同社に所属していた労働者の退職時・退職後の行為が違法であるとして,その労働者に損害賠償請求をしたのに対し,労働者側は反訴として,未払残業代を請求しています。


 原審は,労働者が労働基準法41条2号の管理監督者にあたるとし,また管理監督者には深夜労働の割増賃金に関する規定も適用されないとして,深夜労働の割増賃金も含め労働者の未払残業代の請求を認めませんでした。


 これに対し,最高裁は,労働基準法41条2号の規定によって労働者の深夜労働の割増賃金の規定(現行労働基準法37条4項,当時同条3項)の適用が除外されることはなく,管理監督者に該当する労働者は労働基準法の規定に基づく深夜割増賃金を請求することができるとしました。


 その理由として,まず,労働基準法における労働時間に関する規定の多くがその長さに関する規制について定めている一方,旧労働基準法37条3項は,労働が1日のうちのどのような時間帯に行われるかに着目して深夜労働に関し一定の規制をする点で,労働時間に関する労働基準法中の他の規定とはその趣旨目的を異にするということを挙げています。


 また,適用除外対象とされる労働基準法第6章では,61条で年少者の深夜業の規制について定めているところ,その4項で,適用除外とされる①農業(ここでは適用除外とならない林業も含む。),畜産・水産業の事業には労働基準法61条1~3項の年少者の深夜業の規制を適用しないとされていて,こうした定めは労働基準法41条の「労働時間,休憩及び休日に関する規定」には,深夜業の規制に関する規定が含まれないことを前提としているとも述べています(これは,①農業,畜産・水産業の事業は適用除外。→②労働基準法第6章は適用除外の対規定象。→③労働基準法41条で適用除外の対象規定とされる「労働時間,休憩及び休日に関する規定」に深夜業の規制に関する規定が含まれるのであれば,第6章にある労働基準法61条も当然適用除外の対象規定。→④しかし,労働基準法61条は4項で, 農業,畜産・水産業の事業について年少者の深夜業の規制は適用しないと定めている。→⑤③の前提が違うのではないか。このような理屈だと思われます。)。


10 判例・裁判例ー日本マクドナルド事件

 未払残業代の請求に対し,会社側が労働者は管理監督者に該当すると反論して争った事例に,日本マクドナルド事件(東京地判平成20・1・28労判953号10頁)があります。

 未払残業代の請求をしたのは直営店の店長です。使用者が労働者の役職だけ管理職にし,管理監督者として扱って残業代を支払わない,「名ばかり管理職」が社会問題となり,この日本マクドナルド事件も,その観点から話題となりました。


 判決は,管理監督者は実質的に労働基準法41条2号の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず,具体的には,①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるとしています。


 その上で,①について, 店長は,店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの,店長の職務,権限は店舗内の事項に限られるのであって,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとはいえないと判断しています。


 また,②については,店長に労働時間に関する自由裁量制性があったとは認められないと判断しています。


 ③については,店長の賃金は,労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては,十分であるといい難いと判断しています。


 以上より,判決は,日本マクドナルドにおける店長は管理監督者に当たるとは認められず,店長である労働者に対して未払残業代が支払われるべきであるとしました。


★日本マクドナルド事件の事案など詳細については以下のブログを参照ください。

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~直営店の店長は管理監督者か(日本マクドナルド事件)


11 判例・裁判例ー神代学園ミューズ音楽院事件

 未払残業代請求に対し,使用者側が労働者の一部の者が管理監督者に該当すると反論して争った事例に,神代学園ミューズ音楽院事件(東京高判平成17・3・30労判905号72頁)があります。


 神代学園ミューズ音楽院事件で,使用者側が管理監督者にあたると主張した労働者は,事業部長,教務部長,課長であった3名です。

 事業部長であった労働者は,事業部の従業員の採用の際に面接等を行い,その人選に関与し,また経理支出にも関与していました。教務部長であった労働者は,専門学校の教務部の従業員の採用の際の面接等の人選や講師の雇用の際の人選に関与し,教務部の従業員の人事考課及び講師の人事評価を行っていました。課長であった労働者は上記教務部の課長でした。

 

 判決は,まず労働基準法41条2号の趣旨を述べ,管理監督者に該当するといえるためには実質的に同条同号の趣旨が充足されるような立場にあると認められるものでなければならないとしています。そして,結論としては,事業部長及び教務部長が,経営者である学院長と一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を学院長から実質的に付与されていたものと認めるのは困難で,総務部長より下位の職にある課長が,部長以上の権限があったとの主張も証拠もないなどの本件事情では,事業部長,教務部長,課長であった労働者のいずれも管理監督者にはあたらないとしています。


★神代学園ミューズ音楽院事件の事案など詳細については以下のブログを参照ください。

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~専門学校の事業部長,教務部長,課長は管理監督者か(神代学園ミューズ音楽院事件)


12 判例・裁判例ー日産自動車(管理監督者性)事件

 未払残業代の請求に対し,使用者が労働者は管理監督者に該当すると反論して争った比較的最近の事例に,日産自動車(管理監督者性)事件(横浜地判平成31・3・26労判1208号46頁)があります。


 この事件で,未払残業代を請求したのは,この会社の労働者であった者の相続人の1人です。労働者自身は,執務中に倒れ,脳幹出血で死亡しています。

 未払残業代の請求にかかる期間,この労働者はマネージャーやマーケティングマネージャーの役職に就いていました。

 

 判決は,労働基準法41条2号の趣旨を述べ,管理監督者に該当するといえるためには,①労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているか,②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか,③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきであるとしています。


 その上で, ①労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているかについては,

・ダットサン・コーポレートプラン部において,マネージャーは,新しい車両の投資額及び収益率を決定する商品決定会議に出席するとともに,投資額及び収益率の提案を企画立案する立場にあったが, 商品決定会議で実際に提案するのは,上位職であるN1職のプログラムダイレクターであって,マネージャーが企画立案した提案も, プログラムダイレクターが了承する必要がある。商品決定会議で,マネージャーが発言することは基本的に予定されていない。商品決定会議における経営の意思の形成に直接的に影響力を行使しているのはプログラムダイレクターであって,マネージャーは, プログラムダイレクターの補佐にすぎないから,経営意思の形成に対する影響力は間接的である。

などと述べて,実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職責及び権限を付与されていとは認められないとしています。


②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているかについては,

・会社の勤怠管理システムに勤務時間を入力し,承認者の承認を得ていたが,始業時間より遅く出勤したり,終業時間より早く退勤することも多く,遅刻・早退により賃金が控除されたことはないことからすれば,自己の労働時間について裁量を有していたと認めることができる。

と述べています。


③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかについては,

・収入は,月額86万6700円又は88万3400円で,年収1234万3925円に達し,部下より244万0492円高かったのであるから,待遇としては管理監督者にふさわしいものと認められる。

と述べています。


 その上で,判決は,②労働者は,自己の労働時間についての裁量があり,③管理監督者にふさわしい待遇がなされているものの,①実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任,権限を付与されているとは認められないところ,これらの諸事情を総合考慮すると,労働者が管理監督者に該当するとは認められない,と判断しています。


★日産自動車(管理監督者性)事件の事案など詳細については以下のブログを参照ください。

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~マネージャー,マーケティングマネージャーは管理監督者か(日産自動車(管理監督者性)事件)


13 判例・裁判例ーことぶき事件(第二審)

 未払残業代の請求に対し,使用者が労働者は管理監督者に該当すると反論し,それが認められた事例を紹介します。労働基準法41条2号によって深夜労働の割増賃金の規定も適用除外となるか争われたことぶき事件(最二小判平成21・12・18労判1000号5頁)の原審です(東京高判平成20・11・11労判1000号10頁)。


 このことぶき事件(第二審)で未払残業代を請求した労働者は,会社の総店長の地位にあり,会社の中で代表取締役に次ぐナンバー2の地位にあって,高齢の代表取締役を補佐して会社の経営する理容業の各店舗・店長を統括するという立場にありました。

 判決は,この労働者は会社の総店長として,名実ともに労務管理について経営者と一体的な立場にあった者ということができ,労基法に定められた規制の枠を超えて活動することが要請されざるをえない重要な職務と責任を有していて,これらの規制になじまない立場にあったものと認めることができるから,労基法41条2号の管理監督者に該当するものと認められるとしています。


★ことぶき事件(第二審)の事案など詳細については以下のブログを参照ください。

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~店舗等の総店長は管理監督者か(ことぶき事件(第二審))


14 判例・裁判例ーピュアルネッサンス事件

 ピュアルネッサンス事件(東京地判平成24・5・16労判1057号96頁)も,労働者の未払残業代の請求に対し,使用者が労働者は管理監督者に該当すると反論し,それが認められた事例です。


 判決は,未払残業代を請求していた労働者は,会社の取締役会や経営会議,役員会議に出席しており,厳密な労働時間の管理がされていたとはいえず,一般従業員の基本給と比べ厚遇されていたなどとして,この労働者は労基法41条2号の管理監督者に該当すると判断しています。


★ピュアルネッサンス事件については事案を含め,以下のブログで詳細を検討しています。

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~重要なイベントを統括する者は管理監督者か(ピュアルネッサンス事件)


15 判例・裁判例ー徳洲会事件

 徳洲会事件(大阪地判昭和62・3・31労判497号65頁)も,労働者の未払残業代の請求に対し,使用者が労働者は管理監督者に該当すると反論し,それが認められた事例です。

 

 未払残業代を請求した労働者は,医療法人に事務職員として雇用されていたた者で,その主たる職内容は,看護師の募集業務の全般であり,この業務の責任者として,自己の判断で看護師の求人,募集のための業務計画,出張等の行動計画を立案し,これを実施する権限が与えられ,業務の遂行にあたっては,必要に応じて医療法人の本部及び医療法人経営の各病院の人事関係職員を指揮,命令する権限も与えられていました。

 

 判決では,この労働者は,医療法人における看護師の採否の決定,配置等の労務管理について経営者と一体的な立場にあり,出勤,退勤等にそれぞれタイムカードに刻時すべき義務を負っているものの,それは拘束時間の長さを示すだけにとどまり,その間の実際の労働時間は労働者の自由裁量に任され,労働時間そのものについては必ずしも厳格な制限を受けていないから,実際の労働時間に応じた時間外手当等が支給されない代わりに,責任手当,特別調整手当が支給されていることもあわせ考慮すると,管理監督者の地位にあるものと認めるのが相当であるとされています。


★徳洲会事件については事案も含め,以下のブログで詳細に検討しています。

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~医療法人の看護師採用の責任者は管理監督者か(徳洲会事件)


16 判例・裁判例ー姪浜タクシー事件

 姪浜タクシー事件(福岡地判平成19・4・26労判948号41頁)も,労働者の未払残業代の請求に対し,使用者が労働者は管理監督者に該当すると反論し,それが認められた事例です。


 未払残業代を請求したのは,この会社にタクシー乗務員として雇用され,平成12年1月以降定年で退職するまでは営業部次長の職にありました。

 判決は,

・営業部次長は,終業点呼や出庫点呼を通じて,多数の乗務員を直接に指導・監督する立場にあった。

・乗務員の募集についても,面接に携わってその採否に重要な役割を果たしていた。

・出退勤時間についても,多忙なために自由になる時間は少なかったと認められるものの,唯一の上司というべき専務から何らの指示を受けておらず,会社に連絡だけで出先から帰宅することができる状況にあったなど,特段の制限を受けていたとは認められない。

・他の従業員に比べ,基本給及び役務給を含めて700万円余の高額の報酬を得ていたのであり,この会社の従業員の中で最高額であった。

・会社の取締役や主要な従業員の出席する経営者協議会のメンバーであったことや,専務に代わり会議等へ出席していたことなどの付随的な事情も認められる。

と述べて,これらを総合考慮すれば,この労働者は管理監督者に該当するとしています。


★姪浜タクシー事件については事案も含め,以下のブログで詳細に検討しています。

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~タクシー会社の営業部次長は管理監督者か(姪浜タクシー事件)


更新日 2020年8月29日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


27回の閲覧

 BLOG

  CONTACT 

​古賀象二郎法律事務所

​弁護士 古賀象二郎

​〒810-0012 福岡市中央区白金1-17-8 FS21ビル4階

​TEL:092-707-1255