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  • 執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~直営店の店長は管理監督者か(日本マクドナルド事件)

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 判例・裁判例ー日本マクドナルド事件


1 判例・裁判例ー日本マクドナルド事件

 未払残業代の請求に対し,会社側が労働者は管理監督者に該当すると反論して争った事例に,日本マクドナルド事件(東京地判平成20・1・28労判953号10頁)があり,この日本マクドナルド事件は,社会問題となった「名ばかり管理職」の観点から話題となったことは以下のブログで述べたとおりです。



 ここでは日本マクドナルド事件の事案を含め,詳細に検討します。


 まず,未払残業代の請求を受けたのは,全国に展開する直営店等で自社ブランドのハンバーガー等の飲食物を販売することなどを目的とする株式会社で,平成17年12月31日時点の店舗数は3802店(そのうち直営店は2785店)でした。


 日本マクドナルドの営業ラインのランク付けは,概要,下位から①マネージャートレーニー,②セカンドアシスタントマネージャー,③ファーストアシスタントマネージャー,④店長,⑤オペレーションコンサルタント,⑥オペレーションマネージャー,⑦営業部長,⑧営業推進本部長(代表取締役の兼務)からなっていました。このほか店舗の業務においては,アルバイト従業員であるクルーと,クルーのうち店舗の各営業時間時間帯に商品の製造,販売を総指揮するシフトマネージャーを務めることができるスウィングマネージャーが勤務していました。

 日本マクドナルドの平成19年9月末日時点の従業員数は,店長より上位の社員が合計277名,店長が合計1715名,アシスタントマネージャー及びマネージャートレーニーが合計2555人,スウィングマネージャーが合計1万9870人,クルーが合計10万1152人でした。未払残業代の請求をした労働者は,このうちの店長にあたる者でした。

 店長はアルバイト従業員であるクルーを採用して,その時給額を決定したり,スウィングマネージャーへの昇格を決定する権限や,クルーやスウィングマネージャーの人事考課を行い,その昇給を決定する権限を有していました。店舗の運営に関しては,会社を代表して店舗従業員との間で時間外労働等に関する協定を締結するなどの権限,店舗従業員の勤務シフトの決定や,努力目標として位置づけられる次年度の損益計画の作成,販売促進活動の実施等について一定の裁量を有し,また,店舗の支出についても一定の事項に関する決裁権限を有していました。店長会議や店長コンベンションなど会社で開催される各種会議にも,店長は参加していました。

 店長がシフトマネージャーとして在店したり,商品の調理や販売に従事することは店長の固有の業務とはされていませんでしたが,店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーの在店が必要であったため,シフトマネージャーが確保できない場合には店長がシフトマネージャーとして店舗に勤務しなければなりませんでした。勤務するクルーの数が足りない場合には,自ら商品の調理や販売に従事する必要がありました。

 日本マクドナルドの就業規則16条では,「パートの処遇,採用,解雇の可否,昇給の決裁権限を有する店長」は「管理又は監督の地位にある者」とされ,就業規則11条(労働時間,休憩時間),12条(遅刻ならびに早退の手続き),13条(休日)及び14条(時間外,休日)の規定は適用しないとされていました。

 店長は自身でその勤務スケジュールを決定し,早退や遅刻をした場合の届出や承認は必要とされていませんでした。

 店長の処遇は,S評価の店長の年額賃金(インセンティブを除く。以下同じ。)は779万2000円,A評価では696万2000円,B評価では635万2000円,C評価では579万2000円で,C評価の店長は全体の10パーセント,B評価の店長は全体の40パーセントでした。

 一方,店長の1つ下位のランクであるファーストアシスタントマネージャー(当該年度を通じてファーストアシスタントマネージャーであった者)の平成17年度の平均収入は590万5057円(時間外割増賃金を含む)でした。

 店長の週40時間を超える労働時間は月平均39,28時間であり,一方ファーストアシスタントマネージャーは月平均39.28時間でした。


 判決は,まず,労働基準法41条2号について,管理監督者は,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,同法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動をすることを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され,また,賃金等の待遇やその勤務態様において,他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので,労働時間等に関する規定の適用を除外されても,労働時間規制の枠を超えて労働させる場合に所定の割増賃金を支払うという基本原則に反するような事態が避けられ,当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解されるとしています。


 そして,判決は,管理監督者は実質的に労働基準法41条2号の趣旨を充足するような立場にあると認められるものでなければならず,具体的には,①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるとしています。


 その上で,①について,

・店長はアルバイト従業員であるクルーを採用して,その時給額を決定したり,スウィングマネージャーへの昇格を決定する権限や,クルーやスウィングマネージャーの人事考課を行い,その昇給を決定する権限を有していたが,将来,アシスタントマネージャーや店長に昇格していく社員を採用する権限はなく,アシスタントマネージャーに対しても一次評価者であり,労務管理の一旦を担っていることは否定できないものの,労務管理に関し経営者と一体的立場にあったとはいい難い。

・日本マクドナルドの本社がブランドイメージを構築するために打ち出した店舗の営業時間の設定には,事実上,これに従うことが余儀なくされるし,全国展開する飲食店という性質上,店舗で独自のメニューを開発したり,原材料の仕入れ先を自由に選定したり,商品の価格を設定するということは予定されていない。

・店長会議や店長コンベンションなど会社で開催される各会議に参加しているが,これらは会社から企業全体の営業方針,営業戦略,人事等に関する情報提供が行われるほかは,店舗運営に関する意見交換が行われるというものであって,その場で会社の企業全体としての経営方針等の決定に店長が関与するというものではない。

と述べて,店長は,店舗運営において重要な職責を負っていることは明らかであるものの,店長の職務,権限は店舗内の事項に限られるのであって,企業経営上の必要から,経営者との一体的な立場において,労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているとはいえないと判断しています。


 また,②については,

・店長は,自らスケジュールを決定する権限を有し,早退や遅刻に関して,許可を得る必要がないなど,形式的には労働時間に裁量があるといえるものの,実際には,店長として固有の業務を遂行するだけで相応の時間を要するうえ,店舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないという日本マクドナルドの勤務体制上の必要性から,自らシフトマネージャーとして勤務することなどにより,法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀なくされる。

と述べて,店長に労働時間に関する自由裁量制性があったとは認められないと判断しています。


 ③については,

・店長全体の10パーセントに当たるC評価の店長の年額賃金は,下位の職位であるファーストアシスタントマネージャーの平均年収より低額で,店長全体の40パーセントに当たるB評価の店長の年額も, ファーストアシスタントマネージャーの平均年収を44万6943円上回るにとどまり,店長の週40時間を超える労働時間は月平均39.28時間で,ファーストアシスタントマネージャーの月平均38.65時間を超えている。

と述べて,店長の賃金は,労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇としては,十分であるといい難いと判断しています。


 以上より,この判決は,日本マクドナルドにおける店長は管理監督者に当たるとは認められず,店長である労働者に対して未払残業代が支払われるべきであるとしました。


更新日 2020年8月26日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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