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執筆者の写真弁護士古賀象二郎

【中小企業への同一労働同一賃金の適用は2021年4月1日から】同一労働同一賃金の取組手順やポイントを分かりやすく・詳しく解説します

更新日:2020年10月16日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


                                         

<本日の内容>

1 はじめに

2 同一労働同一賃金とはなにか

3 同一労働同一賃金の取組手順

4 パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書

5 現状把握等の手順1「雇用する労働者の雇用形態を確認・整理する」

6 現状把握等の手順2「待遇の状況を確認する」

7 現状把握等の手順3「待遇に違いを設けている理由を確認する」

8 現状把握等の手順4「待遇に違いを設けている理由が不合理でないか等を確認する」

9 現状把握等の手順5「弁護士に手順1~4をチェックしてもらう」

10 まとめ

                                         

1 はじめに

 同一労働同一賃金は,2018(平成30)年6月の労働契約法,パートタイム労働法,労働者派遣法の改正により置かれた制度です。

 これは,日本的雇用慣行の根幹にかかわる可能性もある重要な改革で,法律の構成としては,従来の有期雇用労働者の不合理な労働条件を禁止した労働契約法20条が削除され,パートタイム労働法がパートタイム・有期雇用労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)と改められ,パートタイム労働者と有期雇用労働者とを同法8条で同じ規制の下に置き,また,派遣労働者については,労働者派遣法を改正して,パートタイム・有期雇用労働法における不合理な待遇の禁止と原則として同じ規制を置くこととしました。

 同一賃金同一労働に関する改正規定についての今回の法改正の施行は,パートタイム・有期雇用労働法で2020(令和2)年4月1日で施行済です。一方,中小企業の事業主については2021(令和3)年4月1日より施行となります。他方,労働者派遣法の施行は2020(令和2)年4月1日で,中小企業の事業主への適用猶予はなく,施行済です。


 現在,労働者の約4割が非正規労働者であり,多くの企業で非正規労働者が雇用されています。そうした企業のうち,いよいよ中小企業にも同一労働同一賃金の施行日が迫っております。そこで,ここでは,同一労働同一賃金の取組手順とそのポイントについて解説します。なお,ここでは中小企業に施行が迫っているパートタイム・有期雇用労働法に対象を限定することとします。


2 同一労働同一賃金とはなにか

 同一労働同一賃金への対応を考えるときには,まずは同一労働同一賃金とは何かについて理解しておく必要があります。

 同一労働同一賃金とは,事業主に,雇用するパートタイム・有期雇用労働者の待遇について,その待遇の性質・目的にあたる事情が通常の労働者と同様にあてはまるパートタイム・有期雇用労働者には同一の取扱い(均等待遇)を,事情に一定の違いが認められる場合にはその違いに応じた取扱い(均衡待遇)を求め,この均等・均衡待遇が実現されていなければ,不合理な待遇の相違として違法となる,というものです。

 改正後のパートタイム・有期雇用労働法8条では,「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」と定められています。


★同一労働同一賃金の内容につきましては,本ブログで詳しく説明しております。特に,以下の記事は同一労働同一賃金の基本的な考え方について比較的網羅して解説しています。同一労働同一賃金をまだよく理解されていない方は,ぜひ一度ご覧ください。


3 同一労働同一賃金の取組手順

 企業の人事担当者が同一労働同一賃金の内容を一通り理解し,実際にその企業で取り組むことを考えたときに,膨大な作業となることが予想されて途方に暮れるということもあるかと思います。正規労働者と非正規労働者を大きく区別しない人事・給与制度を採用している企業であれば,同一労働同一賃金の取組作業はさほど困難ではなく,人事・給与制度の部分的な変更で済むことでしょう。

 例えば,りそなグループでは,社員は,業務範囲や時間の条件によって,①限定なしの正社員,②どちらかを限定した「スマート社員」,③どちらも限定した「パートナー社員」の3つに分かれているのですが,グループ内の職務等級は一本化されていて,社員区分にかかわらず同じグレードの業務は同じ時給とされているようです。また,試験と面接を経て③パートナー社員を②スマート社員や①正社員に登用したり,育児や介護などの事情で,①正社員が②スマート社員などに転換することも可能のようです。このような人事・給与制度であれば,同一労働同一賃金に取り組みやすいものと思われます。



 しかし,正規労働者と非正規労働者の人事・給与制度が全く別で,かつ,非正規労働者を積極的に活用している企業であれば,その企業における同一労働同一賃金の取組とは,人事・給与制度の根本的な刷新とほぼ同義です。同一労働同一賃金が日本的雇用慣行の根幹にかかわる可能性もある重要な改革であるとされるのも,その実現のためには,長年にわたり運用してきた人事・給与制度の抜本的改革を企業側が求められることもあるからです。


 事態をさらに悩ましいものとするのが,昨今のデジタル化,生産性向上といった観点からの人事・給与制度改革の要請です。一昔前では目標管理制度・成果給が注目されましたが,昨今では,「ジョブ型」雇用制度が取り沙汰されているところです。

 正規労働者と非正規労働者の均等・均衡待遇の実現という同一労働同一賃金と,デジタル化,生産性向上といったものは,それぞれ全く無関係なものというのではありません。しかし,観点は異なりますので,企業の人事担当者としては,人事・給与制度の改革を要請する複数の観点それぞれから再検討し,法規制は遵守しつつ,企業の目指すべき姿に合致するものとして最終的にひとつの人事・給与制度にまとめあげるという作業が求められるでしょう。


 このように,同一労働同一賃金の要請に完全に応じるにあたっては,最終的には,各企業の経営方針に深く関わることとなります。それは,企業における人材の在り方という経営判断そのものということもできます。

 そこで,ここでは焦点を同一労働同一賃金の要請に完全に応じるための準備に絞ります。具体的には,各企業における正規労働者と非正規労働者の待遇格差に関する現状の把握について話を進めて行きたいと思います。


4 パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書

 厚生労働省は,同一労働同一賃金の取組手順として「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」(以下「取組手順書」といいます。)を作成し,ホームページで公開しています。


★厚生労働省HP


 上述のとおり,同一労働同一賃金の要請に完全に答えるには,時に企業の経営方針にも関わることとなり,この取組手順書のとおりにすれば済むといったものではありません。しかし,各企業における正規労働者と非正規労働者の待遇格差に関する現状の把握の手順としては参考にできる部分もありますので,以下適宜参照しながら話をすすめます。


 なお,労働法関係の改正が行われたときには,今回の取組手順書のように,改正内容を分かりやすく周知・啓発するマニュアル類が作成されることが通常で,それらはそれなりに参考になります。しかし,法改正について本当に理解するためには,法律そのものやその解説書などを読み解くほかありません。そうであるのに,労働法関係の改正が行われると,「法改正の内容を説明します」と謳いつつ,そうしたマニュアル類をコピーしただけの内容のホームページ(それが「専門家」の手によるときもあります。)が粗製されます。同一労働同一賃金についても,取組手順書以上の内容がないホームページも多数ありますので,それらを閲覧するときは注意してください。

 さらに言えば,労働・労務の「専門家」と称し,同一労働同一賃金についてアドバイスをするとしつつ,取組手順書の指南しかしない(できない)こともあります。これにも注意してください。


 また,この取組手順書では,同一労働同一賃金が要請する均衡待遇を「不合理な待遇差の禁止」,均等待遇を「差別的取扱いの禁止」と呼び分けています。これは,パートタイム・有期雇用労働法8条・9条に関する特定の解釈に沿った説明であり,本ブログはこれと異なる解釈を支持しています。もっとも,各企業における正規労働者と非正規労働者の待遇格差に関する現状の把握の手順ということに関しては,その解釈の違いを気にする必要はありません。


5 現状把握等の手順1「雇用する労働者の雇用形態を確認・整理する」

 手順のまず最初に,雇用する労働者のうち,同一労働同一賃金の対象となる労働者を確認します。取組手順書の5ページに記載されている作業です。


 同一労働同一賃金の対象となるのは,「雇用する短時間・有期雇用労働者」です(パートタイム・有期雇用労働法8条)。そして「短時間・有期雇用労働者」とは,短時間労働者及び有期雇用労働者のことです(パートタイム・有期雇用労働法2条3項)。

 そのうちの「短時間労働者」は,1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短い労働者をいいます(パートタイム・有期雇用労働法2条3項)。今回の改正前はパートタイム労働者を「事業所」単位で定義していました。しかし,改正後は「事業主」単位で定義しています。したがって,だれがパートタイム労働者となるかについては,改正後は,同一の事業所のみならず他の事業所の通常の労働者(の1週間の所定労働時間)と比較して決まってくることになります。

 「有期雇用労働者」とは,事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいいます(パートタイム・有期雇用労働法2条2項)。有期雇用労働者については,改正前の労働契約法のときより,「事業主」との労働契約の内容(期間の定めのある労働契約を締結している労働者かどうか)により規定されていて,改正前後で変更はありません。


 ここで取組手順書の5ページを見てみると,1-1のA「正社員と比較して1週間当たりの所定労働時間が短い労働者(短時間労働者)を雇用している(雇用契約期間は有期・向きを問わない)」とあります。これは,上述の同一労働同一賃金の対象となる,「短時間労働者」の有無を確認するものです。したがって,Aにいう「正社員」は,パートタイム・有期雇用労働法でいう「通常の労働者」のことであり,ここでは同一の事業所のみならず他の事業所の者も含まれる,ということになります。


 取組手順書の5ページで,1-1のBには「雇用契約期間の定めのある労働者(有期雇用労働者)を雇用している」とあります。これは,上述の同一労働同一賃金の対象となる,「有期雇用労働者」の有無を確認するものです。


 このA・Bが同一労働同一賃金の対象となる非正規労働者ですので,これらの労働者を雇用していないときは,同一労働同一賃金への対応を考える必要はありません。取組手順書の5ページで,1-1のCのとおり「終了」なります。


 A・Bで対象労働者がいることが確認されたときは,取組手順書の5ページの1-2にあるように,各労働者の①社員の区分,②短時間勤務かフルタイム勤務か,③有期雇用契約か無期雇用契約かを書き出します。


 次に,同一労働同一賃金の対象者として1-2のとおり確認されたパートタイム・有期雇用労働者について,その者らの「待遇」等により整理します。取扱手順書6ページの1-3にある作業です。

 1-2では同一労働同一賃金の対象労働者ごとに記載されていますが,それら労働者で①待遇が同じか,②短時間勤務かフルタイム勤務か,③有期雇用契約か無期雇用契約かという観点から整理してゆきます。ここで同一労働同一賃金における「待遇」とは,パートタイム・有期雇用労働法8条で明記されている基本給,賞与のほか,諸手当,教育訓練,福利厚生,休憩,休日,休暇,安全衛生,災害補償,服務規律,付随義務,解雇など,労働者に対するすべての待遇を含む(ただし,パートタイム労働者については所定労働時間の長さ,有期雇用労働者については期間の定めの有無を除く。)ものと考えられています。したがって,1-3で①待遇が同じかを考えるときも,すべての待遇において同一かどうか検討する必要があります。


 以上が,現状把握等の手順1「雇用する労働者の雇用形態を確認する」です。


6 現状把握等の手順2「待遇の状況を確認する」

 手順1を終えた段階で,手順書6ページの1-3のような表ができあがっているはずです。

 手順2では, 手順書6ページの1-3のような表にある,待遇が同じ社員区分ごとに,正社員の待遇との相違があるかを確認していきます。繰り返しになりますが, 同一労働同一賃金における「待遇」とは,パートタイム・有期雇用労働法8条で明記されている基本給,賞与のほか,諸手当,教育訓練,福利厚生,休憩,休日,休暇,安全衛生,災害補償,服務規律,付随義務,解雇など,労働者に対するすべての待遇を含む(ただし,パートタイム労働者については所定労働時間の長さ,有期雇用労働者については期間の定めの有無を除く。)ものと考えられています。したがって,ここで正社員の待遇との相違を考えるときも,すべての待遇において検討する必要があります。


 パートタイム・有期雇用労働者の社員区分ごとに正社員と待遇の相違を確認するといっても,正社員の中でも待遇に違いがあるかもしれません。例えば,有期雇用契約から無期雇用契約に転換した正社員(その中でも,賃金等の労働条件はかつての有期雇用契約であったときと同じままとされている(期間の定めだけがなくなった)「ただ無期社員」など。)がいる場合です。

 この点に関し,非正規労働者が不合理な待遇の禁止(パートタイム・有期雇用労働法8条)に関し訴えを提起するとき,比較の対象となる正社員は,基本的に非正規労働者側が選択できるものと解する見解があります(水町勇一郎「『同一労働同一賃金』のすべて(新版)」(有斐閣,2019年)81頁)。この見解に従えば,企業側としては念のためすべての正社員が訴訟で比較対象になり得ると想定し,あらゆる正社員とパートタイム・有期雇用労働者の待遇の相違を確認しておくのが無難です。

 そこで,正社員の中でも待遇の違いがある企業の場合,パートタイム・有期雇用労働者の社員区分との比較を始める前に,正社員についても待遇が同じ社員区分ごとに整理しておくのがよいでしょう。そのうえで,パートタイム・有期雇用労働者の社員区分とすべての正社員の社員区分とで待遇の相違があるか確認して行きます。


 正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間に待遇の相違が確認されたときは,その待遇の性質・目的(その待遇は何を目的とするものか,その待遇の性質はなにか),その待遇の支給・措置の基準(具体的に正社員とパートタイム・有期雇用労働者とで待遇がどう相違するのか)も確認し,その待遇についての実態を把握します。


 待遇の目的・性質をどう考えるのか,これまで考えたことはなかったかもしれません。改めてそれぞれの待遇が何を目的にしていて,それにより何を実現しようとしているのか企業内で検討してみてください。なお,待遇の名称は同じでも企業により待遇の実態(支給・措置の基準など)が違うこともあります。待遇の目的・性質は名称に拘らず実態に即して検討してください。


7 現状把握等の手順3「待遇に違いを設けている理由を確認する」

 手順2では,正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間に相違が確認された待遇につき,その実態を整理しましたので,手順3では, 正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間に相違を設けている理由を確認します。


 手順2と手順3の作業については, 取組手順書の8~13ページに待遇の種類ごとに「手当編」「賞与編」「福利厚生その他編」「基本給編」に分けて整理の方法などが記載されています。しかし,必ずしも使い勝手が良いものではありません(なかでも企業によって複雑な内容となっていることが多い基本給については,「基本給編」のような整理の仕方では不十分です。)。あくまで取組手順書のこの部分は参考にとどめ,企業ごとに手順2・3について工夫して整理するのがよいと思われます。


8 現状把握等の手順4「待遇に違いを設けている理由が不合理でないか等を確認する」

 手順2により,正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間に相違が確認された待遇の実態を整理し,手順3により, 待遇に違いを設けている理由を確認しました。

 手順4では,その相違が不合理ではないといえるか検討します。


 手順4の作業についても, 取組手順書の14,15ページに整理の方法などが記載されていますが,これにこだわる必要はありません。参考にとどめ,企業ごとに手順4について工夫して整理するのがよいと思われます。


 なお, 取組手順書では手順4で,正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間の待遇の相違が「不合理ではない」と言えない場合の対応の必要性についても検討するとしています。これは可能であれば検討してもらいたいのですが,待遇により対応が容易ではないものがあることは上述のとおりです。したがって,まずは対応の必要性について検討する前段階にあたる,現状把握等までの作業をしっかりと行いましょう。


9 現状把握等の手順5「弁護士に手順1~4をチェックしてもらう」

 手順5は取組手順書にはない手順ですが,必要な手順であると考えています。


 企業の人事担当者が社内規定に遡り,正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間で相違する待遇の性質や相違する理由,相違の不合理性などをどんなに考えても,仮に裁判になったときに,問題となる待遇について, 企業の人事担当者が考えたようには裁判所は認定しないことがあります。


 なぜそのようなことが起こるのか。

 まず,手順2で,正社員とパートタイム・有期雇用労働者とで相違する待遇の目的・性質について考えて整理してもらいました。それはおそらく,それぞれの企業の中でのその待遇の位置づけに即して行われていると思います。しかし,裁判所は,それぞれの待遇がいかなる性質・目的をもつかは,企業の主観的な意図・認識ではなく,それぞれの待遇の実態を踏まえて判断します。企業側がその待遇の位置づけをどのように考えていても,裁判所は,その待遇の根拠規定,支給・措置の基準などから実態に即して判断してしまうのです。


 例をあげましょう。今回の改正前の旧労働契約法20条をめぐってですが,農業用機械器具の製造及び販売を行う企業の有期雇用労働者らが,企業に対し労働条件の不合理を主張した事案があります(井関松山製造所事件・高松高判令和元・7・8労判1208号25頁)。

 この事案の争点のひとつとなったのは,精皆勤手当(精勤手当)の支給・不支給という待遇の格差です。企業側は,この精皆勤手当の性質・目的につき,技能職であるライン工に支給するもので,それはライン工の業務の性質上,欠勤により工場全体の生産能力が低下することになるため,一定の出勤レベルを確保するために皆勤を奨励しているなどと主張しました。

 しかし,この企業の精皆勤手当の支給基準は,「月給日給者」という給与形態をもって定められていました。そこで裁判所は,精皆勤手当の性質・目的を,月給(精皆勤手当の支給対象ではない。)と月給日給の違いに着目し,欠勤の扱いにより月給者に比べて収入が不安定になりがちな月給日給者に対し配慮するものとしました。裁判所は,ライン工の出勤確保という企業側の主張を排斥してしまったのです。


 次に,手順4で,正社員とパートタイム・有期雇用労働者とで待遇に違いを設けている理由が不合理でないか検討してもらいました。各企業はその判断・選択において待遇の違いを設けていることが通常であり,したがって,待遇の相違は不合理ではないとしていることが多いと思われます。しかし,裁判所は,「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮」(パートタイム・有期雇用労働法8条)して,待遇の相違が不合理と認められるか判断します。上述の方法で認定した待遇の性質・目的に照らして適切と認められる考慮要素を抽出し,それらとの関係で待遇の相違の不合理性を判断するわけです。


 例えば, 通常の精皆勤手当の性質・目的は,特定の業務や特定の勤務日・勤務時間に無欠勤または少ない欠勤で勤務することで,業務の円滑な遂行等に寄与したことへの報償というものですから,そこから抽出される考慮要素は,「特定の業務や特定の勤務日・勤務時間に無欠勤または少ない欠勤で勤務したかどうか」ということになります。企業側が「正社員への長期勤続へのインセンティブ」を考慮要素としていると主張しても,裁判所はそれを認めません。


 以上のとおり,企業側が,正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間で相違する待遇の性質や相違する理由,相違の不合理性などをどんなに考えても,裁判になったときに,裁判所は,争点となっている待遇について, その実態から企業側が主張するものとは異なる待遇の性質・目的を認定する可能性があり,待遇の相違の不合理性も待遇の性質・目的の理解に関わり,どういったことを考慮要素とするのか企業側の主張を認めない可能性があります。そこで,まずは企業において行った手順1~4について,それが法廷での争いに持ち込まれたときでも耐えうるものとなっているか,弁護士に確認してもらい,フィードバック作業を行うことを勧めます。これが手順5です。


 なお,いわゆる労働法・労務の専門家を自認される方々は弁護士以外にもおられます。しかし,少なくとも上述の作業は,高度な法律・判例の理解・解釈にかかわるもので,これを行い得る専門家は,労働法・労務の専門家のなかでも弁護士だけです。


10 まとめ

 以上で,各企業における正規労働者と非正規労働者の待遇格差に関する現状の把握は完了です。この作業により,同一労働同一賃金の実現に向け,各企業が取り組むべきポイントは明らかになったと思われます。非正規労働者の活用実態の違いから,人事・給与制度の部分的な修正で済む企業もあれば,抜本的な改革が求められる企業もあるでしょう。各企業が置かれている状況に応じ,今後の対応を順次進めてください。同一労働同一賃金が企業の負担ではなく,社会状況に即した改革・発展の契機となることを願っております。


★同一労働同一賃金の内容の基本的な考え方についてこちらで解説しています。


                                         

更新日 2020年10月2日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎

TEL:092-707-1255


 当事務所は,同一労働同一賃金に関する紛争,同一労働同一賃金導入のための人事・給与制度改革支援を取り扱っています。


 事務所は地下鉄・西鉄各薬院駅徒歩2分の立地です。近隣には民間駐車場も多数あり,お車でもお越しいただけます。遠方の企業・個人の方でも,事情に応じ対応可能です。



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