• 弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~労働時間の主張・立証

最終更新: 8月31日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


<本日の内容>

1 労働基準法上の労働時間

2 割増賃金請求訴訟における労働時間の主張・立証責任

3 労働時間の主張の方法

4 労働時間を主張・立証する資料ータイムカード

5 判例・裁判例ー千里山生活協同組合事件

6 判例・裁判例ー日本コンベンションサービス事件


1 労働基準法上の労働時間 

 労働基準法上の労働時間は,「労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に評価できる時間」をいうとされています。これには,現実に作業に従事している時間のみならず,作業と作業との間の待機時間の手持時間も含まれます。この労働時間と休憩時間を合わせた時間は,使用者の拘束の下に置かれている時間という意味で,「拘束時間」と呼ばれることもあります。


2 割増賃金請求訴訟における労働時間の主張・立証責任

 賃金請求事件において,訴訟物である労働者の賃金請求権は,労務給付と賃金が対価関係に立つこと(民法623条),労働者は約束した労働を終わった後でなければ報酬を請求することができないとされていること(民法624条1項)から,労働義務の履行としての労務の提供が現実になされた場合に発生するものと解されています。そこで,賃金請求事件においては,労務の提供の事実は請求原因であり,労働者が使用者に対して労務を提供した労働時間については,賃金を請求する原告(労働者)が主張立証責任を負います。

 したがって,賃金請求事件のひとつである未払残業代請求事件でも,労働時間,すなわち労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に評価できる時間は,労働者が主張・立証しなければなりません。

 そしてこの場合,労働時間は,労働日ごとに始業・終業時刻のほか,割増率の関係で賃金単価が異なることから,割増賃金請求期間の1日ごと(〇年〇月〇日)に労働時間の開始・終了をいう始業時間(〇時〇分から)・終業時間(〇時〇分まで)を特定し,その労働時間のうちの法定内時間外労働時間,法定時間外労働時間,深夜労働時間,法定休日労働時間,法定外休日労働時間を特定して(それぞれ〇時間〇分間)主張する必要があるとされています。これは以下のブログでも言及しています。

福岡の弁護士が未払残業代請求(時間外手当,休日労働手当)の仕組みを分かりやすく・詳しく解説します

3 労働時間の主張の方法

 労働者による労働時間の主張は,表計算ソフトを利用し,労働時間に賃金単価を乗じて未払残業代の金額を算出した別表を訴状に添付することによって行われるのが一般的です。


 このときに使われる表計算ソフトは,労働法規に従った計算処理が設定されている必要があることは当然です。さらに,労働者による労働時間の主張に対し,相手方である使用者が反論を加え,裁判所がそれら当事者双方の主張を理解し判断することを考えると,表計算ソフトそれ自体の正確性が確保された,一般的に活用されることの多い表計算ソフトを使うのが望ましいといえます。この点で,日本弁護士連合会ホームページの弁護士会員向けページよりダウンロード可能な表計算ソフトの利用が推奨されることがあります。


4 労働時間を主張・立証する資料ータイムカード

 未払残業代を請求する労働者が労働時間を主張・立証するための資料は,複数考えられます。デジタル技術の進展もあり,資料の形は以前より多様化しつつあるといえるでしょう。それでも, 未払残業代を請求する労働者が労働時間を主張・立証する資料として多くの方が真っ先に思い浮かべるのは,やはりタイムカードではないでしょうか。

 タイムカードは労働時間を主張・立証する資料としての価値は高いと一般にはいえます。ですが,それでも未払残業代を請求する労働者が労働時間を主張・立証はなかなか難しいということを示すため,先日取り上げた,消費生活協同組合が職員より法内時間外労働を含む時間外労働の割増賃金の請求を受けた事案を紹介します(千里山生活協同組合事件(大阪地判平成11・5・31労判772号60頁))。


5 判例・裁判例ー千里山生活協同組合事件

 この事件で,未払残業代等を請求した原告らは,労働時間を主張・立証するものとして,それぞれのタイムカードを証拠としました。これに対し協同組合は,タイムカードは未払残業代等を請求した職員が出勤しているかを判定するためのものにすぎず,労働時間を管理するためのものではない,労働時間の管理は各職場に備え付けられていた申請書によって行っていたと反論しました。タイムカードの打刻時間は労働時間に関係するものではないという主張です。


 この点について判決は,タイムカードの記載は特段の事情がないかぎり,職員の出勤・退勤時刻を明らかにするもので,それは職員の就労の始期・終期と完全に一致するものではないが,タイムカードに記載された出勤・退勤時刻と就労の出勤・退勤時刻との間に齟齬があることが証明されないかぎり,タイムカードに記載された出勤・退勤時刻をもって実労働時間を認定すべきであるとしています。


 もっとも,上記判断はタイムカード一般の性質より易々と導かれたのではなく,事案に即して,すなわち協同組合におけるタイムカードの扱いなどに即して導かれています。

 上記判断に先立ち,判決は,協同組合において給与を時間給で支払われるパート職員やアルバイト職員も,月給制の正職員も,出勤時及び退勤時にタイムレコーダーによってタイムカードにその時刻を打刻することとされていること,パート職員及びアルバイト職員の給与はタイムカードの記載によって計算されること,正職員についても皆勤手当の支給の有無(遅刻,早退等の有無)をタイムカードの記載によって管理していることを認定して,それを根拠に協同組合におけるタイムカードについて上記判断をしています。


 また,ともあれ上記判断が示された以上,判決がタイムカードの記載により労働時間を次々と認定していったかというとそうではなく,未払残業代等を請求した原告それぞれの具体的な業務内容を証拠に基づき認定し,認定できた具体的な業務内容に照らし,労働時間をタイムカードの記載どおりとすることができるかどうか判断しています。

 判決では,結論として概ね労働時間をタイムカードの記載どおりに認定するのですが,それでも,始業時間が午前9時であるところ,午前8時30分に出勤して商品の車への積み込みを行っていた者については, 配達業務の出発時間である午前10時の1時間30分も前から勤務を開始することを必要とする具体的な事情について明らかではないとして,この点についてはタイムカードの記載どおりの労働時間を認めないと判断したりしています。また,タイムカードの退勤時刻の記載がなかったり,あっても手書きで時刻も同じものが多く,さらにいかなる事情によって時間外労働が発生するのかその具体的な業務内容から必ずしも明らかとはいいがたいとして, タイムカードの記載どおりの労働時間を認めないと判断した部分もあります。


 この判決の当否についてはさておき, タイムカードの記載により労働時間を認定するのも慎重に行われるということは理解しておきましょう。


6 判例・裁判例ー日本コンベンションサービス事件

 未払残業代を請求する労働者が労働時間を主張・立証するときの資料に関連する事例として,日本コンベンションサービス事件(大阪地判平成8・12・25労判712号32頁)も検討しておきましょう。

 この事件では,未払残業代を請求する原告らによる労働時間立証の資料は,大きく4つに分類できます。具体的には,以下のとおりです。


①打刻による始業・終業記載がタイムカードにあるもの

②手書きによる始業・終業記載がタイムカードにあり,手書きは会社の管理課が書き入れたか,事前にあるいは事後に上長の承認を得て従業員自身が書き入れたもの

③タイムカードに始業・終業の一方しか記載がないもの

④タイムカードがないあるいはタイムカードが存在しても記載がないもの(メモやスケジュール,最後に退社していたことから他の従業員の勤務時間を参考など。)


 その上で,①について,判決は,タイムカードの記載と実際の労働時間とが異なることにつき特段の立証がないかぎり,タイムカードの記載に従って労働時間を認定すべきであるとしています。もっとも,そうした結論を導くにあたり, 未払残業代を請求した従業員の労働実態や会社におけるタイムカードの取扱いなどといった検討をし,従前に時間外労働に対して時間外労働手当を支給していたこと(※この会社はある時点から時間外手当に代えて定額の勤務手当を支払うようにしていました。),時間外手当から定額の勤務手当に代えた後もタイムカードを設置し,従業員はタイムカードへの打刻を行っていたこと,タイムカードによる勤務時間の管理が厳密に行われていたこと,未払残業代を請求した従業員の業務内容はタイムカードによる勤務時間の管理が十分可能で,同様の業務に従事していた契約社員はタイムカードに基づいて時間外手当の支給を受けていたこと,タイムカードに記載されている時刻は未払残業代を請求した従業員の労働実態に合致して不自然なものではないことという事実認定を着実に積み上げています。


 ②については,①と同様の扱いです。手書きであれそれは会社の手続を経て,あるいは上長の承認を得てなされたもので,タイムカードの打刻と区別する理由はないからです。


 一方,③④になると,途端に認定が厳しくなります。

 ③については,記載のない部分は特段の立証がないかぎり時間外労働を認定できない,すなわちタイムカードに終業時刻の記載がなければ所定労働時間まで勤務していた,あるいは始業時刻の記載がなければ所定労働時間から勤務していたとそれぞれ考えるべきで,休日であれば始業・終業時間がまちまちであることから始業・終業の一方の時刻の記載がないときは労働時間は認定できないとしています。


 ④については,あくまで未払残業代を請求した従業員についてですが, タイムカードがないあるいはタイムカードが存在しても記載がない部分について労働時間は一切認定しませんでした。例えば,部下の仕事を見届けてから最後に退社していたことから他の従業員の勤務時間を参考に労働時間を算出したという主張について,判決は,最後に退社していたとの事実を裏付ける客観的な証拠はなく,仮にそのような事実があったとしても,そのことから直ちに日々の終業時刻が導かれるわけではない,同僚の勤務時間を参考にしたとしてもそのことから未払残業代を請求した従業員の日々の勤務時間が確定するものではないとして認めませんでした。

 未払残業代を請求するにあたり,労働時間を立証する資料は客観的なもので,その価値は,①労働時間に関係する時刻が打刻されているものであるか,②その労働者本人に関連するものであるかどうか,③記録された時刻の正確性などを考慮して判断するといわれることがあります。上記判示のうち,「最後に退社していたとの事実を裏付ける客観的な証拠はなく」という部分は資料の客観性の点,「仮にそのような事実があったとしても,そのことから直ちに日々の終業時刻が導かれるわけではない」という部分は①の点,「同僚の勤務時間を参考にしたとしてもそのことからこの従業員の日々の勤務時間が確定するものではない」という部分は②の点で,それぞれ問題があるとしたものと思われます。


更新日 2020年8月31日

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