【執筆した弁護士】
古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士
1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。
事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP
日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報
★同一労働同一賃金についてまとめた記事は以下を参照ください。
<本日の内容>
1 判例・裁判例ー日本郵便(非正規格差)事件
2 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決
1 判例・裁判例ー日本郵便(非正規格差)事件
先日の紹介した裁判例に出てくる同じ会社を,別の有期雇用労働者が改正前の労働契約法20条を根拠に訴えた事案は以前紹介しました(日本郵便(非正規格差)事件・大阪高判平成31・1・24労判1197号5頁)。
この平成31年大阪高裁判決でも,夏期冬期休暇の付与・不付与が争われています。再確認しておくと,訴えた労働者は,平成30年東京高裁判決と同じ時給制契約社員の人もいれば,月給制契約社員の人もいましたが,有期雇用労働者である点は同じです。労働条件の比較の対象とされたのは,会社の新人事制度でいう新一般職という正規労働者で,この点も平成30年東京高裁判決と同じです。
判決で, 夏期冬期休暇の趣旨は,まず夏期休暇は,「いわゆるお盆休みではなく一般の国家公務員と同様に心身の健康の維持,増進等を図るための特別の休暇と解される」としています。冬期休暇は,年末(12月29日から31日まで)に特別休暇が与えられないことを踏まえ,「年末年始の期間に限らず冬期の一定の期間に付与された特別の休暇(有給)であると解される」としています。平成30年東京高裁判決ように,国民一般に広く受け入れられている慣習的な休暇とは,この夏期冬期休暇を位置づけておりません。
その上で,年末年始休暇や私傷病による病気休暇についての判断と同様,会社を訴えた有期雇用労働者らと正社員とで夏期冬期休暇の付与・不付与の相違が存在することは直ちに不合理なものと評価することはできないが,有期雇用労働契約を反復して更新し,契約期間が通算5年を超える有期雇用労働者については,夏期冬期休暇の付与・不付与について正社員と相違を設けることは不合理であるとしています。
2 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決
平成30年東京高裁判決が,時給制契約社員への夏期冬期休暇の不付与は労働契約法20条に違反するとしながら, 時給制契約社員が現実に夏期冬期休暇が付与されなかったことにより賃金相当額の損害を被った事実,すなわち,時給制契約社員が無給の休暇を取得したが,夏期冬期休暇が付与されていれば同休暇により有給の休暇を取得し賃金が支給されたであろう事実の主張立証はないとして,時給制契約社員の賠償請求を認めなかったことはすでに述べました。
他方,平成31年大阪高裁判決では, ,夏期冬期休暇の不付与が労働契約法20条に違反するとされた契約期間が通算5年を超える者については,そのうちの時給制契約社員は正規の勤務時間を割り振られた日及び週休日以外の日は非番日とされて無給であるところ,夏期冬期休暇が付与されれば非番日の一部を有給の夏期冬期休暇とすることができたはずであるといえるから,時給額に1日の勤務時間と正社員であれば付与された夏期冬期休暇の日数を乗じた額に相当する損害を被ったとしています。
有期雇用労働者のうちの月給制契約社員については,時給制契約社員と違い,実際に就労した日数にかかわらず基本賃金は定額です。しかし,夏期冬期休暇が付与されれば同日は労務を提供することなく休養したり心身の健康の維持,増進等を図るための活動に充てたりすることができ,それを金銭に換算すれば, 正社員であれば付与された夏期冬期休暇の日数を乗じた額に相当する損害を被ったとしています。
平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決では,有期雇用労働者の損害が何かという点で違いがあるように読めます。それが損害一般の理解の違いによるものなのか,あるいは平成31年大阪高裁判決が「夏期冬期休暇が付与されれば同日は労務を提供することなく休養したり心身の健康の維持,増進等を図るための活動に充てたりすることができ(た)」と述べているように,夏期冬期休暇の趣旨理解に由来するものなのか,さらなる分析が待たれるところです。
更新日 2020年9月9日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎

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