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執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が同一労働同一賃金を分かりやすく・詳しく解説~パートタイム・有期雇用労働法8条

更新日:2020年9月28日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


                                         

<本日の内容>

1 「日本版同一労働同一賃金」

2 改正前のパートタイム労働法8条の規定

3 改正後のパートタイム労働法8条の規定

4 だれがパートタイム労働者(短時間労働者)となるのか

                                         

1 「日本版同一労働同一賃金」 

 「同一労働同一賃金」は,従来,職務給制度が同一の企業内ではなく超企業的に樹立していて,その意味で普遍的賃金制度となっている欧州社会の処遇の原則として理解されていました。

 今回の法改正により導入された「同一労働同一賃金」は,同一の企業内で職務,職能,勤続など様々な要素を組み合わせるなど多様な賃金制度を採用する日本の雇用慣行に十分に留意して考案されたもので,必ずしも職務給制度の導入を義務付けるものではありません。この意味で,今回の法改正により導入された「同一労働同一賃金」を日本独特の「日本版同一労働同一賃金」と呼ぶ見解もあります(菅野和夫『労働法(第12版)』(弘文堂,2019年)362頁)。

 今回の法改正により導入された「同一労働同一賃金」の柱となるのが,パートタイム労働者と有期雇用労働者に適用されることとなった均等均衡待遇規定である,パートタイム・有期雇用労働法8条です。


2 改正前のパートタイム労働法8条の規定

 改正後のパートタイム・有期雇用労働法8条を理解するには,改正前のパートタイム労働法8条と比較するのがよいと思いますので,まずは改正前のパートタイム労働法8条に戻ることとします。

 改正前のパートタイム労働法8条はこのような規定でした。


「事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」

 この改正前のパートタイム労働法8条は,内容が不明確であるとという指摘を受けていて,例えば,待遇の不合理性を検討するときに,諸待遇を総合して判断するのか,それぞれの待遇ごとに個別に判断するのか,その検討の枠組みについて見解が分かれていました。


3 改正後のパートタイム労働法8条の規定

 それでは改正後のパートタイム・有期雇用労働法8条の規定を見てみましょう。


「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」

 改正後の規定では,「その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて」とあります。待遇の不合理性は,個々の待遇ごとに検討するのではなくて待遇を全体としてみて不合理かどうかどうか判断するという従来見られた方法ではなく,それぞれの待遇ごとに個別に判断することが条文上明らかにされました。

 待遇違反の成否を待遇ごとに判断するというこうした方法は,改正法成立直前に出されたハマキョウレックス事件判決(最二小判平30・6・1民集72巻2号88頁)の改正前の労働契約法20条の解釈においても採用されています。

 また,それぞれの待遇の不合理性を判断するには,「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮」することも明記されています。条文上,考慮要素の例として,①職務内容,②職務内容・配置の変更範囲,③その他の事情が挙げられていますが,これらが常に考慮要素となるかというとそうではなく,何が考慮要素となるのかは,それぞれの待遇の性質・目的に照らして決まってくることになります。


 そして,それぞれの待遇の性質・目的が何かは,実態を踏まえて判断されるとされています(水町勇一郎「『同一労働同一賃金』のすべて(新版)」(有斐閣,2019年)89頁)。例えば,賞与が成果に応じて支給されている実態があるときに,事業主が「当社の賞与は将来の労働への期待を示すものだ。」と主張しても,賞与の性質・目的は,実態に即して「過去の成果に対する報償」とされることとなります。

4 だれがパートタイム労働者(短時間労働者)となるのか

 なお,だれがパートタイム労働者(短時間労働者)となるのかについて,改正前はパートタイム労働者を「事業所」単位で定義していました。しかし,改正後は「事業主」単位で定義しています(パートタイム・有期雇用労働法2条1項)。したがって,だれがパートタイム労働者となるかについては,改正後は,同一の事業所のみならず他の事業所の通常の労働者(の1週間の所定労働時間)と比較して決まってくることになります。有期雇用労働者については,改正前の労働契約法のときより,「事業主」との労働契約の内容(期間の定めのある労働契約を締結している労働者かどうか)により規定されていて,改正後も変更はありません(同条2項)。


★同一労働同一賃金について,こちらでさらに詳しく解説しています。

                                         

更新日 2020年9月16日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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