【執筆した弁護士】
古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士
1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。
事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP
日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報
★同一労働同一賃金についてまとめた記事は以下を参照ください。
<本日の内容>
1 「通勤手当・出張旅費」についてのパートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断
2 判例・裁判例-ハマキョウレックス(差戻審)事件
1 「通勤手当・出張旅費」についてのパートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断
本日は,通勤手当及び出張旅費についてです。
①通勤や出張にかかる費用を補填するという通勤手当及び出張旅費の性質・目的からすると,②その主な考慮要素は,通勤や出張による費用が発生したかどうかであり,正規労働者であるかパートタイム・有期雇用労働者かによって通勤や出張による費用が異なることはありません。したがって,③パートタイム・有期雇用労働者にも,正規労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給することが求められます(同一労働同一賃金ガイドライン第三の三(七))(水町勇一郎「『同一労働同一賃金』のすべて(新版)」(有斐閣,2019年)106頁)。
「正規労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給する」といっても,通勤手当及び出張旅費は, 通勤や出張にかかる費用を補填するものですから,例えば,パートタイム・有期雇用労働者の出勤日数が正規労働者の出勤日数より少なければ,それぞれの出勤日数に見合う通勤手当となっていれば不合理な待遇とはなりません。同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例ロにも,「A社においては、通勤手当について、所定労働日数が多い(例えば、週四日以上)通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者には、月額の定期券の金額に相当する額を支給しているが、所定労働日数が少ない(例えば、週三日以下)又は出勤日数が変動する短時間・有期雇用労働者には、日額の交通費に相当する額を支給している。」とあります。
同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例イに,「A社においては、本社の採用である労働者に対しては、交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給しているが、それぞれの店舗の採用である労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定して当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給しているところ、店舗採用の短時間労働者であるXが、その後、本人の都合で通勤手当の上限の額では通うことができないところへ転居してなお通い続けている場合には、当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給している。」とあります。この例は,採用圏限定により通勤手当を限定することは不合理ではなく,かつ,本人都合で転居した場合に通勤手当の限定を維持することも不合理とはいえないと考えられることの帰結と説明されています(水町・前掲106頁)。
2 判例・裁判例-ハマキョウレックス(差戻審)事件
ハマキョウレックス(差戻審)事件(最小二判平成30・6・1民集72巻2号88頁)では,改正前の労働契約法20条を巡り,通勤手当の不合理性が争われました。訴えられた会社は,常時一定の交通機関を利用し又は自動車等を使用して通勤する従業員に対し,交通手段及び通勤距離に応じて所定の通勤手当を支給する規程を置いていました。その上で,会社を訴えた有期雇用労働者には月額3000円の通勤手当が支給する一方,この者と交通手段及び通勤距離が同じ正規労働者に対しては月額5000円の通勤手当が支給していました。
判決では,この会社の通勤手当は,通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものであり,労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではないとして,正規労働者と有期雇用労働者とで通勤手当の金額が異なるという労働条件の相違は,不合理であると評価できるとしています。
更新日 2020年9月9日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎
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