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  • 執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代を解説~定額残業代(関西ソニー事件)

未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 判例・裁判例ー関西ソニー事件


1 判例・裁判例ー関西ソニー事件

 会社が労働者に支給する手当が定額の時間外割増賃金としての性質を有すると認められた事例を紹介します。関西ソニー事件(大阪地判昭和63・10・26労判530号40頁)です。


 この事件で未払残業代を請求されたのは,メーカーの製造する商品を小売店に対し卸売販売する会社です。未払残業代を請求した労働者は,特約店への家電製品の売り込み等のセールス業務に従事していました。

 労働者は関西ソニーに対し,未払残業代,すなわち時間外労働割増賃金を請求したのですが,関西ソニーは,未払残業代を請求した労働者に支給した「セールス手当」は給与規則上,時間外労働の対価として支払われるもので定額の時間外労働割増賃金としての性質を有しており,さらに労働者が請求する時間外労働割増賃金よりも実際に支払ったセールス手当の方が多額であるなどと反論しました。

 未払残業代を請求した労働者の方では,セールス手当は外勤に伴う様々な支出に対する補償であり,時間外労働に対する対価ではないと主張しています。


 関西ソニーの就業規則及び給与規則で関係する部分を確認しておきましょう。なお,以下は裁判例検索データベース記載の情報を基にしています。


就業規則

第二十六条(給与の体系とその計算)

給与の体系並びにその計算給与に関する明細は、別に定める給与規則によることとします。


給与規則

第三条(給与の計算期間)

給与の計算期間は次のとおりとします。

1 基本給、家族手当、役職手当及び住宅手当については、前月二一日より当月二〇日までとします。以下省略

2 超過勤務手当、休日勤務手当、日直手当、宿直手当については前月一一日より当月一〇日までとします。

3 なお、附則1(残業手当)、2(セールス手当)については上記1によるものとします。


第五条(支給日時)

1 給与の支給日時は毎月二五日の所定終業時刻一時間以内とします。以下省略


第十三条(超過勤務手当)

1 社員が指示され、また、申し出て、承認されて所定の労働時間を超えて働いた場合(以下超過勤務といいます)には、その時間数に応じて超過勤務手当を支給します。

2 超過勤務手当を下記の三種とします。

(1)第一超過勤務手当 午前五時以降所定就業時刻まで(早出)、午後六時以降午後一〇時まで(残業)の時間外勤務時間に対しては、その時間に7時間45分×264日分の(基本給+住宅手当+役職手当)×12カ月×1.25を乗じた金額を第一超過勤務手当として支給します。

(2)第二超過勤務手当 前号における時間を超える午後一〇時より午前五時までの時間外勤務に対しては、その時間に7時間45分×264日分の(基本給+住宅手当+役職手当)×12カ月×1.50を乗じた金額を第二超過勤務手当として支給します。

以下省略


第十四条(休日勤務手当)

1 会社が社員を休日に勤務させた場合、その就労時間に第一超過勤務手当一時間分を乗じた金額を休日勤務手当として支給します。

2 前項の就労時間が午後一〇時より午前五時までの間に亘る場合は、その部分については前項の規定にかかわらず第二超過勤務手当の賃率で計算します。


附則一 (残務手当)所定労働日の午後五時三〇分より午後六時迄の勤務に対しては、残務手当として基本給の七%を支給します。


附則二 (セールス手当)営業等社外での勤務を主体とする者にはセールス手当を支給します。但し、セールス手当支給該当者は第十三条(超過勤務手当)及び附則一(残務手当)は支給されません。

 なお、セールス手当支給該当者でも休日に勤務した場合については第十四条休日勤務手当を支給します。


 判決では,セールス手当は休日労働を除く時間外労働に対する対価として支払われるものであり,いわば定額の時間外手当としての性質を有することが認められるとしています。その際,①就業規則及び給与規則の規定,②関西ソニーがセールスマンの時間外勤務時間が平均して1日約1時間で1か月間では合計23時間であるという調査結果をもとにセールス手当を基本給月額17%とする割合を定めたこと,③セールス手当は休日労働に対する割増賃金を充足するものではないので,セールス手当受給者に対しても休日勤務手当を別途支給していることを認定し,それらを判断の根拠としています。


 この判決は,最高裁日本ケミカル事件判決以前のものですが,上記①~③を判断の根拠事実として適示している点は,最高裁日本ケミカル事件判決が示した,①契約書への記載や使用者の説明等に基づく労働契約上の対価としての位置づけ,および,②実際の勤務状況に照らした手当と実態との関連性・近接性を考慮するという判断枠組みと親和的であるように思われます。



 その上で,この判決は,労働基準法37条は時間外労働等に対し一定額以上の割増賃金の支払を使用者に命じているところ,同条所定の額以上の割増賃金の支払がなされるかぎりその趣旨は満たされ同条所定の計算方法を用いることまでは要しないので,その支払額が法所定の計算方法による割増賃金額を上回る以上,割増賃金として一定額を支払うことも許されるが,現実の労働時間によって計算した割増賃金額が一定額を上回っている場合には,労働者は使用者に対しその差額の支払を請求することができるとしています。

 もっとも,判決では,未払残業代を請求した労働者の労働時間を証拠に基づき認定し,その労働時間により計算した割増賃金額は,実際に支給されたセールス手当の額を下回っているとして,最終的に労働者の未払残業代の請求を認めませんでした。


2020年6月23日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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