未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。
<本日の内容>
1 判例・裁判例ー日本コンベンションサービス事件
1 判例・裁判例ー日本コンベンションサービス事件
未払残業代を請求する労働者が労働時間を主張・立証するときの資料に関連する事例として,以前にも取り上げた日本コンベンションサービス事件(大阪地判平成8・12・25労判712号32頁)も検討しておきましょう。
この事件では,未払残業代を請求する原告らによる労働時間立証の資料は,大きく4つに分類できます。具体的には,以下のとおりです。
①打刻による始業・終業記載がタイムカードにあるもの
②手書きによる始業・終業記載がタイムカードにあり,手書きは会社の管理課が書き入れたか,事前にあるいは事後に上長の承認を得て従業員自身が書き入れたもの
③タイムカードに始業・終業の一方しか記載がないもの
④タイムカードがないあるいはタイムカードが存在しても記載がないもの(メモやスケジュール,最後に退社していたことから他の従業員の勤務時間を参考など。)
その上で,①について,判決は,タイムカードの記載と実際の労働時間とが異なることにつき特段の立証がないかぎり,タイムカードの記載に従って労働時間を認定すべきであるとしています。もっとも,そうした結論を導くにあたり, 未払残業代を請求した従業員の労働実態や会社におけるタイムカードの取扱いなどといった検討をし,従前に時間外労働に対して時間外労働手当を支給していたこと(※この会社はある時点から時間外手当に代えて定額の勤務手当を支払うようにしていました。),時間外手当から定額の勤務手当に代えた後もタイムカードを設置し,従業員はタイムカードへの打刻を行っていたこと,タイムカードによる勤務時間の管理が厳密に行われていたこと,未払残業代を請求した従業員の業務内容はタイムカードによる勤務時間の管理が十分可能で,同様の業務に従事していた契約社員はタイムカードに基づいて時間外手当の支給を受けていたこと,タイムカードに記載されている時刻は未払残業代を請求した従業員の労働実態に合致して不自然なものではないことという事実認定を着実に積み上げています。
②については,①と同様の扱いです。手書きであれそれは会社の手続を経て,あるいは上長の承認を得てなされたもので,タイムカードの打刻と区別する理由はないからです。
一方,③④になると,途端に認定が厳しくなります。
③については,記載のない部分は特段の立証がないかぎり時間外労働を認定できない,すなわちタイムカードに終業時刻の記載がなければ所定労働時間まで勤務していた,あるいは始業時刻の記載がなければ所定労働時間から勤務していたとそれぞれ考えるべきで,休日であれば始業・終業時間がまちまちであることから始業・終業の一方の時刻の記載がないときは労働時間は認定できないとしています。
④については,あくまで未払残業代を請求した従業員についてですが, タイムカードがないあるいはタイムカードが存在しても記載がない部分について労働時間は一切認定しませんでした。例えば,部下の仕事を見届けてから最後に退社していたことから他の従業員の勤務時間を参考に労働時間を算出したという主張について,判決は,最後に退社していたとの事実を裏付ける客観的な証拠はなく,仮にそのような事実があったとしても,そのことから直ちに日々の終業時刻が導かれるわけではない,同僚の勤務時間を参考にしたとしてもそのことから未払残業代を請求した従業員の日々の勤務時間が確定するものではないとして認めませんでした。
未払残業代を請求するにあたり,労働時間を立証する資料は客観的なもので,その価値は,①労働時間に関係する時刻が打刻されているものであるか,②その労働者本人に関連するものであるかどうか,③記録された時刻の正確性などを考慮して判断するといわれることがあります。上記判示のうち,「最後に退社していたとの事実を裏付ける客観的な証拠はなく」という部分は資料の客観性の点,「仮にそのような事実があったとしても,そのことから直ちに日々の終業時刻が導かれるわけではない」という部分は①の点,「同僚の勤務時間を参考にしたとしてもそのことからこの従業員の日々の勤務時間が確定するものではない」という部分は②の点で,それぞれ問題があるとしたものと思われます。
2020年6月22日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎
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