未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。
<本日の内容>
1 使用者の労働時間適正把握義務
2 使用者の労働時間適正把握義務の対象
3 使用者の労働時間適正把握義務の方法~原則
4 使用者の労働時間適正把握義務の方法~例外「その他の適切な方法」
5 「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」
6 記録の作成及び保存するための必要な措置
1 使用者の労働時間適正把握義務
2018(平成30)年の働き方改革関連法が,使用者の労働時間適正把握義務の位置づけを,未払残業代,すなわちサービス残業対策から労働者の健康確保を目的とするものに改めて,労働安全衛生法にその根拠規定を置くこととしました(労働安全衛生法66条の8の3)。
この使用者の労働時間適正把握義務については,厚生労働省令で定める方法により,労働者の労働時間の状況を把握しなければならないとされています(労働安全衛生法66条の8の3,労働安全衛生規則52条の7の3)。
使用者の労働時間適正把握義務に関する法改正の経緯等についてはこちらのブログを参照ください。
2 使用者の労働時間適正把握義務の対象
「労働者の労働時間の状況を把握」とは,労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から,労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間,労務を提供し得る状態にあったかを把握するものとされています(平30・12・28基発1228第16号問答8)。
3 使用者の労働時間適正把握義務の方法~原則
労働時間の状況を把握する方法としては,原則として,タイムカード,パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録,事業者(事業者から労働時間の状況を管理する権限を委譲された者を含む。)の現認等の客観的な記録により,労働者の労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければなりません(平30・12・28基発1228第16号問答8)。
4 使用者の労働時間適正把握義務の方法~例外「その他の適切な方法」
労働時間の状況を把握する方法について,労働安全衛生規則52条の7の3第1項は,上述の方法「その他の適切な方法」によると規定しています。
この「その他の適切な方法」としては,やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合において,労働者の自己申告による把握が考えられるが,その場合,事業者は以下ア~オの措置を全て講じる必要があるとされます(平30・12・28基発1228第16号問答11)。
ア 自己申告制の対象となる労働者に対して,労働時間の状況の実態を正しく記録し,適正に自己申告を行ことなどについて十分な説明を行うこと。
イ 実際の労働時間の状況を管理する者に対して,自己申告制の適正な運用を含め,講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
ウ 自己申告により把握した労働時間の状況が実際の労働時間の状況と合致しているか否かについて,必要に応じて実態調査を実施し,所要の労働時間の状況の補正をすること。
エ 自己申告した労働時間の状況を超えて事業場内にいる時間又は事業場外において労務を提供し得る状態であった時間について,その理由等を労働者に報告させる場合には,当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
その際に,休憩や自主的な研修,教育訓練,学習等であるため労働時間の状況ではないと報告されていても,実際には,事業者の指示により業務に従事しているなど,事業者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については,労働時間の状況として扱わなければならないこと。
オ 自己申告制は,労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため,事業者は,労働者が自己申告できる労働時間の状況に上限を設け,上限を超える申告を認めないなど,労働者により労働時間の状況の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。
また,時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が,労働者の労働時間の状況の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに,当該阻害要因となっている場合においては,改善のための措置を講ずること。
さらに,労基法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが,実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず,記録上これを守っているようにすることが,実際に労働時間の状況を管理する者や労働者等において,慣習的に行われていないかについても確認すること。
5 「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」
上述の「その他の適切な方法」は,やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合に限り認められるものです。したがって, タイムカードによる出退勤時刻や入退室時刻の記録やパーソナルコンピュータの使用時間の記録などのデータを有する場合や事業者の現認により当該労働者の労働時間を把握できる場合にもかかわらず,自己申告による把握のみにより労働時間の状況を把握することは,認められません。
「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」に当たるのは, 例えば,労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合など,事業者の現認を含め,労働時間の状況を客観的に把握する手段がない場合とされ, 「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」かどうかは,当該労働者の働き方の実態や法の趣旨を踏まえ,適切な方法を個別に判断されます(平30・12・28基発1228第16号問答12)。
なお,労働者が事業場外において行う業務に直行又は直帰する場合などにおいても,例えば,事業場外から社内システムにアクセスすることが可能であり,客観的な方法による労働時間の状況を把握できる場合もあるため,直行又は直帰であることのみを理由として,自己申告により労働時間の状況を把握することは,認められません(平30・12・28基発1228第16号問答12)。
6 記録の作成及び保存するための必要な措置
また,事業者業者は,把握した労働者の労働時間の状況の記録を作成し,3年間保存するための必要な措置を講じなければならないとされています(労働安全衛生法施行規則52条の7の3第2項)。
2020年7月15日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎
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