top of page
  • 執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~医療法人の看護師採用の責任者は管理監督者か(徳洲会事件)

更新日:2020年8月27日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。

<本日の内容>

1 判例・裁判例ー徳洲会事件

2 管理監督者への深夜労働の割増賃金の規定の適用除外の有無


1 判例・裁判例ー徳洲会事件

 未払残業代の請求に対し,使用者が労働者は管理監督者に該当すると反論し,それが認められた事例に徳洲会事件(大阪地判昭和62・3・31労判497号65頁)があることは,以下のブログで紹介済です。



 この徳洲会事件について,ここでは事案も含め詳しく検討します。

 

 この徳洲会事件で未払残業代の請求を受けたのは,病院経営と医療業務を行うことを目的として設立された医療法人です。

 未払残業代を請求した労働者は,この医療法人に事務職員として雇用された者です。

 この労働者は,医療法人の給与制度上,事務職掌五等級職員として格付けされ,人事第二課長の肩書を有していました。

 この労働者の主たる職内容は,看護師の募集業務の全般で,この業務の責任者として,自己の判断で看護師の求人,募集のための業務計画,出張等の行動計画を立案し,これを実施する権限が与えられ,業務の遂行にあたっては,必要に応じて医療法人の本部及び医療法人経営の各病院の人事関係職員を指揮,命令する権限も与えられていました。

 看護師募集業務の遂行にあたり,一般の看護師については,自己の調査,判断によりその採否を決定し,採用した看護師については,自己の裁量と判断により,医療法人が経営する各地の病院にその配置を決定する人事上の権限まで与えられ,師長クラスの看護師についても,その採否,配置等の人事上の最終的な決定は,医療法人の理事長に委ねられていたものの,その決定手続に意見を具申する等深く関わっていました。

 この労働者は,出張を除く勤務日の各出退時刻についてタイムカードを刻印するように義務づけられていましたが,出勤日における実際の労働時間は,この労働者の責任と判断により,その自由裁量により決定することができました。

 給与面では課長職として処遇されており,その地位と責任に対する対価として責任手当が支給されていました。また,担当する職務の特殊性から,夜間,休日等の時間外労働の発生が見込まれたため,包括的な時間外手当として,実際の時間外労働の有無,長短にかかわりなく,特別調整手当が支給されていました。


 判決は,労働基準法41条2号のいわゆる監督若しくは管理の地位にある者とは,労働時間,休憩及び休日に関する同法の規制を超えて活動しなければならない企業経営上の必要が認められる者を指すから,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり,出勤,退勤等について自由裁量の権限を有し,厳格な制限を受けない者をいうものと解すべきとしています、


 その上で,判決は,この労働者は,医療法人における看護師の採否の決定,配置等の労務管理について経営者と一体的な立場にあり,出勤,退勤等にそれぞれタイムカードに刻時すべき義務を負っているものの,それは拘束時間の長さを示すだけにとどまり,その間の実際の労働時間は労働者の自由裁量に任され,労働時間そのものについては必ずしも厳格な制限を受けていないから,実際の労働時間に応じた時間外手当等が支給されない代わりに,責任手当,特別調整手当が支給されていることもあわせ考慮すると,管理監督者の地位にあるものと認めるのが相当であるとしています。


2 管理監督者への深夜労働の割増賃金の規定の適用除外の有無

 なお,判決は,労働基準法41条により時間外及び休日労働に関する割増賃金の規定の適用は除外され,管理監督者の地位にあり,とりわけ自己の労働時間をその自由裁量により決することができ,包括的な時間外手当(深夜労働を含む。)の趣旨で特別調整手当が支給されていることからすると,深夜労働による割増賃金の請求権も発生しないというべきとしています。


 しかし,管理監督者への深夜労働の割増賃金の規定の適用除外の有無については,最高裁(ことぶき事件(最二小判平成21・12・18労判1000号5頁))は,労働基準法41条2号の規定によって労働者の深夜労働の割増賃金の規定の適用が除外されることはなく,管理監督者に該当する労働者は労働基準法の規定に基づく深夜割増賃金を請求することができるとされていますす。


★詳しくは以下のブログを参照ください。


 この徳洲会事件における管理監督者の深夜労働の割増賃金についての考え方は,現在の判例からすれば検討の余地がありそうです。


更新日 2020年8月27日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


閲覧数:75回

 BLOG

bottom of page