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  • 執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~重要なイベントを統括する者は管理監督者か(ピュアルネッサンス事件)

★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。


<本日の内容>

1 判例・裁判例ーピュアルネッサンス事件


1 判例・裁判例ーピュアルネッサンス事件

 未払残業代の請求に対し,使用者が労働者は管理監督者に該当すると反論し,それが認められた事例として,ピュアルネッサンス事件(東京地判平成24・5・16労判1057号96頁)を紹介しました。



 このピュアルネッサンス事件について,ここでは事案を含め深く検討します。


 ピュアルネッサンス事件で未払残業代の請求を受けたのは,美容サロンの経営,化粧品等の販売を目的とする株式会社で,ネットワークビジネスの運営,健康食品(サプリメント)の製造販売,美容サロンの経営又はフランチャイズ,化粧品等の美容商品の製造販売を行う会社のグループ会社です。

 未払残業代を請求したのは,この会社に管理職(部長)として入社し,会社が企画する化粧品販売イベントの運営などに従事し,以降,取締役,常務取締役,専務取締役に順次選任された者で,退職の1か月ほど前に取締役を辞任し,退職時は部長の役職にありました。

 なお,裁判ではこの者が労働基準法上の労働者かどうかも争われましたが,判決は,会社の取締役としての地位は有していたが労働者であったとしています。

 この労働者は,会社の取締役会や経営会議,役員会議に出席していました。こうした会議では,決算報告や担当業務の報告,経営方針の確認などがされていましたが,実質的な討議がなされたり,多数決が行われることはなく,会社の代表取締役である会長の意向で方針が決められ,異議を唱えるものはいませんでした。

 会社の広報活動として重要な位置づけを有するイベントにおいて,この労働者は企画・制作業務を統括する地位にあり,イベント当日は,舞台監督,音響及び照明を担当するなどしていました。もっとも,最終的な決定権は会社の代表取締役である会長にあり,会長の許可や指示のもとでイベントは進められていました。また,他の取締役がイベントの総責任者になることもありました。

 平成21年ころのサロン開設にあたり,この労働者は責任者とされていて,工事の見積もり確認をしたり,現地調査をして役員会議で報告したり,備品の購入指示を出すなどしていました。

 この労働者は会社の労務担当とされていて,常駐するサロンの従業員やスタッフのタイムカードについて手書きの訂正がなされた場合,この労働者が確認をして印を押していました。スタッフのシフト表については,この労働者が各サロン分をまとめることとされていました。この労働者は,会社の従業員やスタッフの勤務時間を表にまとめて報告していました。常駐するサロンのスタッフ採用を担当することも平成20年の役員会議において決められていましたし,従業員との間で事故の治療費等について会社の労務担当として話し合うこともありました。

 この労働者は,常駐するサロンの鍵を管理し,おおむね午前9時から9時30分頃に一番早く出勤していて,退勤時間は明確に定まっていませんでした。

 この労働者のタイムカードは,訂正が手書きで行われていました。また,グループ本社がタイムカードを管理する一般の従業員とは異なり,この会社の本社事務所にタイムカードが置かれていました。さらに,タイムカードで勤務時間とされた時間の中には,パーティーや懇親会,麻雀などへの参加時間も含まれていました。業務日報に書かれていた業務内容は,雑務,通常,労務関連業務,VTR編集,書類作成等と記載されていることが多く,必ずしも明確ではありませんでした。勤務時間中に個人的な用事で出かけたりすることなどもあったとされています。

 この労働者の待遇は,基本給が月額35万円,役職手当が5万円から10万円でした。会社の従業員は,月額20万円前後の基本給を支給され,また役職手当や特別手当として2万円を支給されている者がいる程度でした。なお,裁判ではこの労働者と会社の賃金減額合意の有効性も争われていますが,判決は合意は無効としています。

 判決は,労働基準法41条2号の管理監督者とは,部長,工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいうとし,この管理監督者に該当するか否かは,①事業主の経営に関する決定に参画し,労務管理に関する指揮監督権限を認められているか否か,②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有しているといえるか否か,③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられているか否かを実態に即して判断することになるとしています。

 その上で,まず①事業主の経営に関する決定に参画し,労務管理に関する指揮監督権限を認められているか否かについては,

・会社の取締役会や経営会議,役員会議では, 会社の代表取締役である会長の意向が強く働き,実質的な討議がなされたり,多数決が行われることはなかったが,このことは小規模な企業であることからするとやむを得ないところがあり,むしろ,取締役としての地位を有しており,こうした重要な会議に出席していたのであるから,意思決定へ参画する機会は与えられていたといえる。

・会社の広報活動として重要な位置づけを有するイベントにおいて重要な役割を果たしていた。確かに,実質的な決定権は会社の代表取締役である会長にあったが,小規模の個人企業でオーナーである会社の代表取締役である会長の意向が常に強く働いていたことからすれば,この労働者に最終決定権がないとしてもやむを得ないところであり,そのことでこの労働者に何の権限もなかったとまではいえない。この労働者が総責任者ではない場合もあるが,音響や照明について特別な技能を有するなどイベントの企画・製作業務において重要な役割を果たしていたことが認められる。

・サロンの開設などの重要な業務について会社の代表取締役である会長より権限や責任が与えられるようになって行き, 平成21年ころのサロン開設にあたっては責任者とされた。

・会社の業務が拡大するとともに,従業員の採用について権限が与えられるようになっている。また,従業員やスタッフの勤務時間についての集計や,訂正の確認などを行っており,他の従業員などの勤務時間に関する労務管理の権限がある程度与えられていたものといえる。小規模の個人企業であることから,労務管理について一部の権限しか与えられていなかったとしてもやむを得ないところがある。

と述べています。

②自己の出退勤をはじめとする労働時間について裁量権を有しているといえるか否かについては,

・タイムカードによって厳格な勤怠管理が義務づけられていたとはいえず,タイムカードも本来許されていない手書きでの修正が許されたり,他の従業員とは異なる扱いがなされるなどしているし,パーティーや懇親会,麻雀などへの参加時間も労働時間としてタイムカードが打刻されている。業務量に比して労働時間が不自然に長時間となっており,勤務時間中に業務以外のことをしていた事情もうかがえることからすると,厳密な労働時間の管理がされていたとはいえず,労働時間について広い裁量があったといえる。

と述べています。

③一般の従業員に比しその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられているか否かについては,

・基本給として月額35万円,役職手当として月額5万円から10万円の給与をもらっており,一般従業員の基本給と比べ厚遇されていた。

と述べています。

 そして判決は,この労働者は労基法41条2号の管理監督者に該当すると判断しています。


更新日 2020年8月25日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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