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福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~専門学校の事業部長,教務部長,課長は管理監督者か(神代学園ミューズ音楽院事件)

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。

福岡の弁護士が未払残業代請求(時間外手当,休日労働手当)の仕組みを分かりやすく・詳しく解説します


<本日の内容>

1 判例・裁判例ー神代学園ミューズ音楽院事件


1 判例・裁判例ー神代学園ミューズ音楽院事件

 未払残業代請求に対し,使用者側が労働者の一部の者が管理監督者に該当すると反論して争った事例として,神代学園ミューズ音楽院事件(東京高判平成17・3・30労判905号72頁)を紹介しました。


福岡の弁護士が未払残業代の仕組みを分かりやすく・詳しく解説~管理監督者


 ここでは神代学園ミューズ音楽院事件の事案も含め詳細に検討します。


 まず,神代学園ミューズ音楽院事件で未払残業代の請求を受けた使用者側のうちの1名は,音楽家を養成する専門学校の学院長として,この専門学校を個人経営していた者です。

 未払残業代を請求した労働者は,1名を除き専門学校と雇用関係にありました。残る1名も平成13年4月に学院長が理事長である学校法人に転籍するまで,専門学校と雇用関係にありました。なお,転籍前後で職場や仕事の内容に変化はありませんでした。

 使用者側が管理監督者にあたると主張した労働者は,事業部長,教務部長,課長であった3名です。

 事業部長であった労働者は,事業部の従業員の採用の際に面接等を行い,その人選に関与し,また経理支出にも関与していました。教務部長であった労働者は,専門学校の教務部の従業員の採用の際の面接等の人選や講師の雇用の際の人選に関与し,教務部の従業員の人事考課及び講師の人事評価を行っていました。課長であった労働者は上記教務部の課長でした。

 この事業部長,教務部長,課長であった労働者は,それぞれ部長や課長に任命された(事業部長と教務部長は昭和63年,課長は平成13年3月にそれぞれ就任)後も,タイムカードにより出退勤時刻が記録されていて,出勤時間も他の従業員と同様の午前8時30分に余裕を持った時間でした。

 この事業部長,教務部長,課長であった労働者は,平成13年3月分まで,基本給・役職手当・その他手当に加え,時間外労働等の実績に応じた割増賃金が支払われていました。一方,平成13年4月分以降は賃金体系の変更が行われ,金額が見直された基本給・役職手当のみの支給となり,時間外労働等の割増賃金の支払いはなくなりました。平成13年3月分と4月分とでそれぞれの給与総額の変更は次のとおりです。

 事業部長 3月455,297円 → 4月399,000円

 教務部長 3月501,153円 → 4月402,000円

 課長   3月480,516円 → 4月374,000円


 判決は,まず労働基準法41条2号の趣旨を述べ,管理監督者に該当するといえるためには実質的に同条同号の趣旨が充足されるような立場にあると認められるものでなければならないとし,結論としては,本件事情では,事業部長,教務部長,課長であった労働者のいずれも管理監督者にはあたらないとしています。


 この結論を導くにあたり,判決は,労働者の権限等について,

・事業部長であった労働者は,事業部の従業員の採用の際に面接等を行い,その人選に関与し,また経理支出にも関与していたが,経理に関わる権限を一定に掌握し,学院長の指示や承諾を得ることなく,多額の出費をその判断で行っていた事実を認めることができない。

・教務部長であった労働者は,専門学校の教務部の従業員の採用の際の面接等の人選や講師の雇用の際の人選に関与し,教務部の従業員の人事考課及び講師の人事評価を行っていたが,学院長の指示や承諾を得ることなく,その裁量で教務部に関わる業務を行っていたとの事実を認めることができない。

と述べて,事業部長及び教務部長が,経営者である学院長と一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるほどの重要な職務上の権限を学院長から実質的に付与されていたものと認めるのは困難であるとしています。

 そして,総務部長より下位の職にある課長が,部長以上の権限があったとの主張も証拠もないとしています。


 また,勤務態様等については,

・事業部長,教務部長,課長は,いずれもタイムカードにより出退勤が管理され,出勤時間は他の従業員と同様の午前8時30分に余裕を持った出勤をしていたほか,平成13年3月までは時間外労働等の実績に応じた割増賃金の支払を受けていた。

と述べて,事業部長,教務部長,課長が,労働時間等の規制になじまないような立場にあったとか,その勤務態様について自由にその裁量を働かすことができたとは考えにくいとしています。


 さらに,処遇については,

・事業部長,教務部長,課長の勤務態様にかんがみ,平成13年4月分以降の基本給と役職手当の支給だけで厳格な労働時間等の規制をしなくてもその保護に欠けるところがないといえるほどの優遇措置が講じられていると認めることは困難である。

と述べています。


更新日 2020年8月29日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

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