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  • 執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が未払残業代を解説~管理監督者性の判断枠組み

未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。

<本日の内容>

1 管理監督者性の判断枠組みの整理

2 管理監督者性の判断枠組み~実態に即した客観的な判断

3 管理監督者性の判断枠組み~規定の趣旨

4 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素

5 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素の検討方法

6 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素で問題となる具体的な事情


1 管理監督者性の判断枠組みの整理

 労働基準法41条2号は,管理監督者について,第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇),第6章(年少者)及び第6章の2(妊産婦等)で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は適用しないとしています。


 労働者より未払残業代を請求されたときに,会社側が,この労働者は管理監督者にあたると反論することがあります。

 それでは具体的にどのような労働者が管理監督者にあたるのか,管理監督者性の判断の枠組みについて整理してみます。


2 管理監督者性の判断枠組み~実態に即した客観的な判断

 まず,管理監督者性は,強行法規である労働基準法上の労働時間規制が適用されるか否かを決する概念であるため,「部長」「課長」「店長」等の会社内での肩書きや労働契約上の合意ではなく,個別の実態に即して客観的に判断されます(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)666頁)。


3 管理監督者性の判断枠組み~規定の趣旨

 そして,労働基準法41条2号が,管理監督者について,第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇),第6章(年少者)及び第6章の2(妊産婦等)で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定は適用しないとされた趣旨・目的は,①その職務の性質や経営上の必要から,労働時間,休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請される重要な職務と責任,権限が付与され,実際の勤務態様も労働時間等の規制になじまない立場にあり,②自己の裁量的判断で労働時間を管理することができ,賃金等の待遇面で他の一般の従業員に比してその地位にふさわしい待遇が付与されていることから,労働基準法上の労働時間等に関する規制を及ぼさなくともその保護に欠けるところはない,このような労働者について労働基準法41条2号は, 第4章(労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇),第6章(年少者)及び第6章の2(妊産婦等)で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定を適用するのは不適当であるとして,これらの規定の適用を排除したものと考えられるとされます(白石哲編『労働関係訴訟の実務(第2版)』(有斐閣,2018年)153頁(細川二朗),山川隆一=渡辺弘編『最新裁判実務体系7 労働関係訴訟Ⅰ』(青林書院,2018年)452,453頁(伊良原恵吾))。


4 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素

 実際の裁判例の多くは,管理監督者性について以下の3点に留意し,個別の事案ごとに総合的に考慮して判断しているとます(白石・同書154頁)。


Ⅰ 職務内容,権限および責任の重要性

 労務管理を含め,企業の経営に関わる重要事項につき,どのような関与をし,権限を有しているか。

Ⅱ 勤務態様ー労働時間の裁量・労働時間管理の有無,程度

 労働時間について自由裁量があるか否か。すなわち,職務内容,権限および責任に照らし,勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか否か,また,実際の勤務において労働時間の管理をどのように受けているか。

Ⅲ 賃金等の待遇

 給与(基本給,役職手当等)または賃金全体において,職務内容,権限および責任に見合った待遇がされているか。


5 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素の検討方法

 これらⅠ~Ⅲの判断要素は,近年の裁判例において表現上は考慮要素とされ,総合的に考慮して決するとされつつ,実際の判断では, Ⅰ~Ⅲのうちどれか1つでも欠いた場合には管理監督者性を否定するという要件的な扱いとなっているとの指摘があります(水町・同書667頁,白石・同書156頁(細川)も同旨。)。


 判断の順序としては,Ⅰの判断要素は,管理監督者という条文の文言に照らしても当然に検討を要するものであること,Ⅱの判断要素について検討するに当たっては,職務の内容,権限,責任に関する点を踏まえる必要があることから,Ⅰ→Ⅱの順に判断するとされます。

 また,Ⅰ,Ⅱの判断要素を判断した上でⅢの判断要素を検討するが,Ⅰ,Ⅱで管理監督者性を肯定できなければ,Ⅲの判断要素で待遇の程度を検討するまでもなく,管理監督者性を否定するのが相当な場合もあるとされます(白石・同書156,157頁(細川))。


6 管理監督者性の判断枠組み~3つの判断要素で問題となる具体的な事情

 判断要素Ⅰ~Ⅲでは,それぞれどのような事情が具体的に問題とされるのかも見ておきます(白石・同書155,156頁(細川),山川・同書455,456頁(伊良原))。


判断要素Ⅰ

・職務内容や権限が,労務管理等も含む事業経営上重要な事項に及ぶものか。

・事業経営に関する決定過程にどの程度関与しているか。

・他の従業員と同様の現場業務にどの程度従事する状況にあったか。

・他の従業員の職務遂行または労務管理にどの程度関与しているか。

・労働者のうち管理監督者として扱われている者がどの程度いるか。


判断要素Ⅱ

・労働時間が所定就業時間に拘束されていたか。

・職務遂行上,時間外労働または休日労働が避けられない状況であったか。

・労働時間の管理が,タイムカード,出勤簿の記載,出退勤時の点呼・確認等によって行われていたか。この管理により労働時間が拘束されていたか。

・事業経営上重要な事項に関する時間外労働または休日労働が,労働者の裁量に基づいて行われていたか。

遅刻・早退による賃金減額ないし罰金が実施されていたか。


判断要素Ⅲ

・役職手当が支給されている場合,関連する規定または事実関係に照らし,役職に見合った対価として支給されているといえるか。

・役職手当が,実質的にみて,時間外等賃金の全部または一部として支給されているものではなかったか。

・役職手当が支給されていない場合,給与または賃金全体において,役職に見合った金額が支給されているか。

・職位または資格が低い労働者と比較して,給与または賃金全体の額がどのように異なるか。

・労働者が役職者に昇進した際に,給与または賃金全体の額がどのように変わったか。


2020年7月3日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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