未払残業代請求の基礎知識についてはこちらをご覧ください。
<本日の内容>
1 割増賃金の意義
2 判例・裁判例ー藤香田商店事件
1 割増賃金の意義
時間外割増賃金・休日割増賃金は,「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金」とされています(労働基準法37条1項本文)。このように,労働基準法では,時間外割増賃金と休日割増賃金につき,それぞれ割増部分しか定めておらず, 通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の支払義務について明文は置いていません。しかし,未払の「残業代」,「時間外手当」,「休日労働手当」を実際に請求するときは, 通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額に2割5分や3割5分の割増率を加えて請求しています。
この点について,労働基準法37条で割増部分の支払いを使用者に命じている箇所は, 通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額に加えて支払うという意味であると理解されています。すなわち,「割増賃金」という文字は10割の基本賃金を含むものであり,この基本賃金部分を支払わないで2割5分の割増分を支払っただけでは割増賃金を支払ったとはいえないということです(水町勇一郎『詳解労働法』(東京大学出版会,2019年)683頁)。
2 判例・裁判例ー藤香田商店事件
労働基準法37条「割増賃金」の意義が争われたのが,藤香田商店事件(広島高判昭和25・9・8労刑集55号636頁)です。医薬品及び衛生材料の卸売を目的とする有限会社である藤香田商店の代表者が,労働者に対し,早出,残業等の時間外労働をさせながら割増賃金の一部しか払わなかったのが,労働基準法37条,119条1号違反だとして起訴された事例です。
公判で,藤香田商店の代表者は,労働基準法37条は2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないと規定しているのであるから,時間外労働に対しては基礎賃金の2割5分に当たるものだけを支払えば足りるのであって,その支払いは現実に行っているのであるから,規定の違反はなく無罪であると主張しました。
しかし,判決は藤香田商店の代表者の主張するようには労働基準法37条を解釈せず,労働基準法37条の時間外労働の割増賃金については時間外労働における労働の基礎賃金のみならず,さらにこれに2割5分以上を加えた賃金,すなわち12.5割以上の賃金を支払うのでなければ2割5分以上の割増賃金を支払ったとはいえないとして, 労働基準法37条,119条1号違反で藤香田商店の代表者に執行猶予付きの有罪判決を言い渡しました。
このように労働基準法37条を解釈する理由を,判決は,「労働基準法は労働者を資本家と対当の地位迄高め労資相方が対当、公平の立場に於て処遇されることを目的とするものであるから」としています。
2020年6月30日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎
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