• 弁護士古賀象二郎

【相続放棄のやり方や手順は?】相続放棄をするときのポイント・管轄裁判所について弁護士が解説します

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報

                                         

<本日の内容>

1 相続放棄概説

 1-1 承認・放棄・法定単純承

 1-2 相続放棄

 1-3 相続放棄の手続ー相続放棄をする旨の申述

 1-4 相続放棄の手続ー「相続の放棄の申述の受理」の審判

 1-5 相続放棄(の申述の受理)の審判の効力等

 1-6 相続放棄後の相続財産の管理

 1-7 熟慮期間

 1-8 熟慮期間中の相続財産の管理

2 相続放棄の管轄裁判所

                                         

1 相続放棄概説

1-1 承認・放棄・法定単純承認

 相続は,死亡によって開始します(民法882条)。このとき,亡くなった方を被相続人,相続する方を相続人といいます。

 被相続人の死亡によって相続は開始するのですが,民法は,相続人に相続するか(承認といいます。なお,承認には単純承認限定承認があります。),相続しないのか(相続放棄といいます。)の選択権を与え,その一方で,被相続人の死亡により開始・発生した相続による法律関係の早期安定のため,選択できる期間を一定期間に限っています。この期間を熟慮期間といいます(民法915条1項本文)。そして,相続人が熟慮期間内に選択の意思表示をしないなど一定の事由があるときは,単純承認したものとみなすとしています。法定単純承認というものです(民法921条)。


1-2 相続放棄

 相続放棄とは,被相続人の死亡によって相続人に発生した相続の効果を確定的に消滅させる相続人の意思表示です。相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。


 先順位の血族相続人全員が相続放棄をしたときは,次順位の血族相続人が相続人となります。例えば,Aが死亡したときに,子CとD,両親EとFが生存していたとして,子C・Dが相続放棄をすれば,両親EとFが血族相続人に繰り上がり,相続人になります。

 被相続人の相続財産に債務が多くあり,血族相続人全員が相続放棄をするとなれば,繰り上がった後に両親E・Fが(さらにその後に繰り上がって血族相続人になるAの兄弟姉妹)が全員,順次相続放棄をする必要があります。


 なお,この民法が定める相続放棄と,共同相続人間の遺産分割協議で相続分をなしとすることは似ています。しかし,遺産分割協議で相続分をないものとしても被相続人の債務までなしとすることはできず,基本的に法定相続分に応じて債務を負担することとなります。

 実務では「特別受益により相続分がない」旨を記した書面(相続分なきことの証明書,相続分不存在証明書,相続分皆無証明書などと呼ぶことがあります。)を作成することがありますが,そういった書面を作成しても,作成者の相続分がないものとする遺産分割協議が成立したと評価され,上述と同じ状況となり,相続放棄とは異なり,被相続人の債務までなしとすることはできず,基本的に法定相続分に応じて債務を負担することとなります。


1-3 相続放棄の手続ー相続放棄をする旨の申述

 相続放棄は,熟慮期間内に家庭裁判所相続放棄をする旨の申述(しんじゅつ)をしなければなりません(民法915条,938条,)。

 相続の放棄の申述にあたっては申述書の提出が必要です(家事事件手続法201条5項)。


★相続放棄の申述書の書式や記載例は裁判所のホームページに掲載されています。以下は当事務所がある福岡市を管轄する,福岡家庭裁判所専用の申述書の書式と記載例です。福岡家庭裁判所に申述をするときにはこの書式を必ず使わなければならないというわけではありませんが,書式の利用は申述の省力化にもなり,有用です。

相続放棄申述書(福岡家庭裁判所専用書式)

相続放棄申述書記載例(福岡家庭裁判所専用書式)


★相続放棄する旨の申述をするにあたっては,申述書のほか,被相続人の住民票除票または戸籍附票,被相続人の戸籍,申述人の戸籍,申述人の先順位の相続人がいたときは先順位の相続人の戸籍といった書類が必要となるのが通常です。被相続人の住民票除票または戸籍附票は,相続放棄の申述の管轄を確認するための必要書類です。被相続人らの戸籍は,被相続人死亡の事実と申述人が被相続人の相続人であることを確認するための必要書類です。

 必要書類の詳細につきましては,申述を行う家庭裁判所のホームページの記載等で確認ください。以下は福岡家庭裁判所の必要書類についての案内です。

相続放棄の申述に必要な書類(福岡家庭裁判所)


★相続放棄の申述には,収入印紙800円(申述人1人につき)が必要となります。このほか郵便切手も必要ですが,どの額面の切手が何枚必要となるかは各家庭裁判所によって異なりますので,申述を行う家庭裁判所のホームページの記載等で確認ください。


1-4 相続放棄の手続ー「相続の放棄の申述の受理」の審判

 申述書が提出されますと,家庭裁判所は,相続の放棄を申述した者が相続人であるか,相続放棄の意思が真意に出たものか否か,法定単純承認にあたる事実はないかといった点を調査したうえで,受理するか否かを判断します。

 相続放棄の申述については,家事事件手続法上「相続の放棄の申述の受理」として家事事件手続法別表第一の95に掲げられています。したがって,「別表第一に掲げる事項」の家事審判事項として家庭裁判所の家事審判の対象となり(家事事件手続法39条),家庭裁判所は上述の受理するか否かの判断を審判で行うこととなります。


 なお,家事事件手続法の別表には,相続放棄の申述の受理などの「別表第一に掲げる事項」と,夫婦間の協力扶助に関する処分,婚姻費用の分担に関する処分,遺産の分割,寄与分を定める処分,特別の寄与に関する処分などの「別表第二に掲げる事項」があります。いずれも家事審判事項として家庭裁判所の家事審判の対象となります(家事事件手続法39条)。しかし,「別表第一に掲げる事項」は家事調停をすることができない事項,「別表第二掲げる事項」は家事調停をすることができる事項という区別があります。これは「別表第一に掲げる事項」では対立当事者は存在せず,争訟的性格を有していない事項であるのに対し,「別表第二に掲げる事項」は対立当事者が存在し,争訟性を有する事項であり,性質上,第一次的には当事者の協議による解決が期待される事項でもあるからと説明されます。


 そして,相続放棄に関する審判事件は,相続が開始した地を管轄する家庭裁判所の管轄に属するとされています(家事事件手続法201条1項)。民法は,相続は被相続人の住所において開始するとしていますので(民法883条),相続放棄の申述の受理の審判は,相続が開始した地,すなわち被相続人が死亡した時の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄となります。相続放棄の申述書も,被相続人が死亡した時の住所地を管轄する家庭裁判所に提出することとなります。


 申述書が提出されますと,家庭裁判所は,相続の放棄を申述した者が相続人であるか,相続放棄の意思が真意に出たものか否か,法定単純承認にあたる事実はないかといった点を調査したうえで,受理するか否かを審判により判断することはすでに述べたとおりです。

 法定単純承認にあたる事実とは,次のとおりです(民法921条各号)。


1号 相続人が,相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし,保存行為及び民法602条に定める期間を超えない賃貸(短期賃貸借)をすることは,この限りではない。


2号 相続人が民法915条1項の期間内(熟慮期間内)に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。


3号 相続人が,限定承認又は相続の放棄をした後であっても,相続財産の全部若しくは一部を隠匿し,私にこれを消費し,又は悪意でこれを相続財産の目録に記載しなかったとき。ただし,その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は,この限りでない。


 相続放棄の申述の調査で問題となりうるのは,1号と2号です。

 このうちの1号の趣旨は,判例によれば,相続財産の全部又は一部の処分は,相続人が単純承認をしない限りしてはならないところ,当該処分により黙示の単純承認があるものと推認しうるのみならず,第三者から見ても単純承認があったと信ずるのが当然であると認められることにあるとされています(最判昭42・4・27民集21巻3号741頁)。

 そして,ここでの「処分」には,相続財産の売却といった処分行為だけではなく,相続財産の毀損等の事実上の処分行為や債権の取り立て,弁済の受領,債権をもってする相殺も含まれます。あまり相続財産として意識されることがない相続財産,例えば高額療養費などを受領すると,「相続財産の処分」となる可能性がありますので,注意が必要です。  

 他方,「処分」は「相続財産の処分」でなければなりませんので,例えば,被相続人の生命保険の保険金を受取人に指定されていた相続人が受領しても,この場合の生命保険金は後述するとおり相続財産ではなく相続人の固有財産ですので, 「相続財産の処分」にはあたりません。また,相続財産である債務について,当該債務の債権者に対し,相続人みずからが有していた債権をもって相殺しても,相殺に供した債務は相続人の固有財産で相続財産ではありませんから,このときも「相続財産の処分」にはあたりません。葬祭費も遺族に支給されるもので相続財産ではありませんので,受領しても「相続財産の処分」にはあたりません。


 2号については,相続放棄の申述が「相続の開始があった時」から3か月以内に行われていれば,家庭裁判所による調査で問題となることはありません。他方,相続放棄の申述が「相続の開始があった時」から3か月より後に行われてるときは,申述人が「自己のために相続の開始があったことを知った時」がいつか調査されることとなります。


 家庭裁判所は,審判にあたり,通常の審判では,審判書を作成するところですが(家事事件手続法76条),相続放棄の申述を受理する旨の審判をするときは,別途審判書を作成せず,申述書に相続放棄の申述を受理する旨を記載し,その記載のときに審判の効力が生じます(家事事件手続法201条7項・8項)。


1-5 相続放棄(の申述の受理)の審判の効力等

 相続放棄の申述を受理する審判をしたときは,裁判所書記官は申述人等にその旨を通知しなければならないとされています(家事事件手続規則106条2項)。実務では,相続放棄の申述を受理する審判がなされると,家庭裁判所より相続放棄受理通知書が送られてきます。


 相続債権者などに対し,相続放棄の申述を受理する審判が行われたことを明らかにするには,上述の相続放棄受理通知書の呈示や写しの提出で足りる場合が大半です。しかし,相続放棄の申述が受理されたことの証明書の提出が求められることもあります。そのときは,審判をした家庭裁判所に相続放棄受理の証明書の交付申請をして取得します。証明書1通につき収入印紙150円が必要となります。


 もっとも,相続放棄の申述を受理する審判が効力を生じたとしても,それにより申述人の相続放棄が有効に確定したということにはなりません。相続放棄の申述の受理審判を行う家庭裁判所は,相続人による相続の放棄の意思表示の受領を明らかにするもので,相続の放棄の有効・無効を確定するものではないのです。

 大半の相続債権者は,相続放棄の申述を受理する審判がなされれば,申述人の相続放棄の効力を争うことはないでしょう。しかし,申述人の事情に通じている相続債権者(例えば,家庭裁判所の調査では明らかとならなかった,申述人による相続財産の処分の事実を知っている相続債権者)などであれば,相続放棄の申述を受理する審判がなされた後も,申述人の相続放棄の効力を争ってくる可能性があります。そのときは,終局的には民事訴訟による裁判によって認定されることとなります(例えば,相続債権者が申述人に相続債務の支払いを求める訴訟のなかで,申述人の相続放棄の効力が争われるなど。)。


1-6 相続放棄後の相続財産の管理

 相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,相続財産の管理を継続しなければなりません(民法940条1項)。利害関係人または検察官の請求によって,家庭裁判所が相続財産管理人を選任したときは,その相続財産管理人が,善良な管理者の注意をもって相続財産を管理する義務を負います(民法940条2項,民法918条2項・3項,家事事件手続法146条6項,民法644条)。


1-7 熟慮期間

 相続の承認・放棄を選択する期間である熟慮期間は,相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内とされています(民法915条1項本文)。「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは,被相続人が死亡した事実と自己が被相続人の相続人である事実を知った時という意味です。


 相続財産の調査のためなどでさらに時間を要するときは,利害関係人又は検察官の請求によって,家庭裁判所においてこの期間を伸長することができます(民法915条1項ただし書)。


 熟慮期間の起算点に関して,相続が開始したことは知っていたものの,被相続人には特に財産や債務がないと考えて相続放棄をせずに熟慮期間が経過したところで,被相続人が債務を負担していることを知った場合,債務を知ったとき,すなわち「(全部の)相続財産の存在を知ったとき」から熟慮期間を計算すべきかという議論があります。

 この点について,まず,相続人の知らない債務が存在していたということだけで,熟慮期間の起算点を「(全部の)相続財産の存在を知ったとき」とすることは,「自己のために相続の開始があったことを知った時」という民法915条1項の文言からして許容できる解釈ではなく,認められません。

 もっとも,判例は,①相続の開始と自らが相続人となった事実を知った時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが,被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり,かつ,②被相続人の生活歴,被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって,相続人おいて①のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには,相続人が相続の開始と自らが相続人となった事実を知った時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり,熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきであるとしています(最判昭59・4・27民集38巻6号698頁)。

 この判例法理は,「相続財産が全く存在しない」と信じた場合に限定していると理解されていて,要件は厳格です。しかしながら,熟慮期間の起算点の例外が全く認められないわけではないことは理解しておきましょう。


1-8 熟慮期間中の相続財産の管理

 相続人となった者は,熟慮期間中,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理する義務を負います(民法918条1項本文)。

 利害関係人または検察官の請求によって,家庭裁判所が相続財産管理人を選任したときは,その相続財産管理人が,善良な管理者の注意をもって相続財産を管理する義務を負います(民法918条2項・3項,家事事件手続法125条6項,民法644条)。


2 相続放棄の管轄裁判所

 相続放棄についての概説は上述のとおりであり,相続放棄の申述をするときには,相続放棄の申述書を相続が開始した地,すなわち被相続人が死亡した時の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。


 そして,それぞれの住所地を管轄する家庭裁判所がどこになるのかは,法律で定められています(「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律」という法律です。)。


★裁判所のホームページには管轄区域表が掲載されています。福岡・佐賀県内の裁判所の管轄区域表は,次のとおりです。

 福岡県内の管轄区域表

 佐賀県内の管轄区域表


 当事務所は福岡市にあるのですが,その近隣の地域を管轄する家庭裁判所を参考までに記載しておきます。被相続人が死亡した時の住所地が以下に該当すれば,それぞれ管轄する家庭裁判所に,相続放棄の申述書を提出して相続放棄の申述をすることとなります。


福岡県

福岡市,筑紫野市,春日市,大野城市,太宰府市,古賀市,糸島市,那珂川市,糟屋郡(宇美町 篠栗町 志免町 須恵町 新宮町 久山町 粕屋町),宗像市,福津市

 →福岡家庭裁判所(住所:福岡県福岡市中央区六本松4-2-4)が管轄家庭裁判所


久留米市,小郡市,三井郡(大刀洗町)

 →福岡家庭裁判所久留米支部(住所:福岡県久留米市篠山町21)が管轄家庭裁判所


佐賀県

佐賀市,多久市,小城市,神埼市,神埼郡(吉野ヶ里町),鳥栖市,三養基郡(基山町 上峰町 みやき町)

 →佐賀家庭裁判所(住所:佐賀県佐賀市中の小路3-22)が管轄家庭裁判所


唐津市

 →佐賀家庭裁判所唐津支部(住所:佐賀県唐津市大名小路1-1)が管轄家庭裁判所


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更新日 2020年10月17日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎

TEL:092-707-1255


当事務所は,相続放棄の申述の代理を取り扱っています。


 事務所は地下鉄・西鉄各薬院駅徒歩2分の立地です。近隣には民間駐車場も多数あり,お車でもお越しいただけます。


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