【執筆した弁護士】
古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士
1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。
事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP
日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報
<本日の内容>
1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性の判断過程
2 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性の判断~職能給
3 同一労働同一賃金ガイドラインにおける職能給の扱い
1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性の判断過程
これまでのパートタイム・有期雇用労働法8条の基本的な説明を踏まえ, パートタイム・有期雇用労働法15条に基づいて策定・公表された,不合理性判断の基本的な考え方と具体的な内容を示した「同一労働同一賃金ガイドライン」(平30・12・28厚労告430号)なども確認しながら,個々の待遇の不合理性がどう判断されるのか,具体的に見ていきます。
なお,ここでは,個々の待遇の性質・目的は,その名称に相当するものとしています。例えば,「役職手当」の性質・目的は,「役職に伴う責任の重さ等への対償」(水町勇一郎「『同一労働同一賃金』のすべて(新版)」(有斐閣,2019年)103頁)としています。
しかし,実際の企業内で行われる雇用管理では,待遇の名称とその支給・措置の実態が乖離していることがあります。例えば,「役職手当」という名称で,その支給の実態は残業代の定額払いであるような場合です。こうした状況では,待遇の名称ではなく,その支給・措置の実態から待遇の性質・目的を判断する必要があります。名称より実態・実質,ということです。上述の例でいえば,この会社の「役職手当」の性質・目的は,「残業代の定額払い」とされることになります。
話を戻しましょう。パートタイム・有期雇用労働法8条は,それぞれの待遇について,その性質・目的に照らして適切と認められる考慮要素より,パートタイム・有期雇用労働者と正規社員との間の待遇の相違が不合理かどうか判断します。ですので,その判断の仕方は,①その性質・目的は何か,②①の性質・目的から適切とされる考慮要素は何か,③②の考慮要素からしてパートタイム・有期雇用労働者と正規社員との間の待遇の相違を設けることは不合理かどうか,と考えてゆきます。
2 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性の判断~職能給
まず,基本給についてです。基本給の支給の仕方は,様々ありますが,ここでは職能給を考えてみましょう。
職能給は,少なくとも従来の日本の大企業では主流であった基本給の支給方法です。
典型的な職能給では,労働者の職務遂行能力が重視されます。具体的には,職務遂行能力の蓄積・伸長に応じてそれぞれの労働者の職能資格(例えば,「理事」「主事」「参事」など。)を定め,職能資格に応じた給与(同一資格で同一の給与とすることは少なく,同一資格で一定の幅があり,その範囲内で給与額が決まる制度が多い。)を職能給として支給する,職能資格制度と連携した制度を採る企業をよく見ます。
職能資格制度は労働者の職務遂行能力に対応するものであり,企業内で期待される役割である職務(あるいは役職)との対応関係は切り離されている,少なくとも緩やかな対応関係しかありません。したがって,異なる職務(あるいは役職)(例えば,「部長」「課長」「係長」など)でも,職能資格が同じであればその職能資格に応じた同じ幅の中で給料(職能給)が決まってきます(佐藤博樹=藤村博之=八代充史『新しい人事労務管理(第6版)』(有斐閣アルマ)(有斐閣,2019年)70~80頁)。
このように職能給は,職務(あるいは役職)ではなく,①労働者の職務遂行能力に応じて支給する制度であり,②その主な考慮要素は,職務遂行能力となります。したがって,③正規社員と同一の職務遂行能力があるパートタイム・有期雇用労働者には,同一の支給をしなければならず,職務遂行能力に一定の違いがある場合にも,その相違に応じた支給をしなければ,その相違は不合理とされます(同一労働同一賃金ガイドライン第三の一(一))(水町・前掲96頁)。
3 同一労働同一賃金ガイドラインにおける職能給の扱い
同一労働同一賃金ガイドラインでは,待遇毎に「問題とならない例」「問題となる例」が記載されています。
「職能給」の問題とならない例イで,「基本給について,労働者の能力又は経験に応じて支給しているA社において,ある能力の向上のための特殊なキャリアコースを設定している。通常の労働者であるXは,このキャリアコースを選択し,その結果としてその能力を習得した。短時間労働者であるYは,その能力を習得していない。A社は,その能力に応じた基本給をXには支給し,Yには支給していない。」とあります。Yに少しでも関係する能力があれば,Xと金額に相違はあっても,その能力に応じた基本給が支給されなければなりません。しかし,ここではYはその能力を習得していないというのですから,その能力に応じた基本給が支給されないというのも不合理な相違ではありません。上記基準から理解できる例であると思います。
★同一労働同一賃金について,こちらでさらに詳しく解説しています。
更新日 2020年9月17日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎

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