【執筆した弁護士】
古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士
1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。
事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP
日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報
★同一労働同一賃金についてまとめた記事は以下を参照ください。
<本日の内容>
1 判例・裁判例ー学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件
1 判例・裁判例ー学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件
紹介済の裁判例と同様,病気休職に関連し,私傷病で欠勤した場合の取扱いの相違が改正前の労働契約法20条に照らし不合理ではないかと争われた事案もありますので検討してみましょう(学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件・大阪高判平成31・2・15労判1199号5頁)。
訴えられたのは学校法人です。訴えたのはフルタイムで勤務する1年契約の有期雇用労働者です。アルバイト職員としての扱いで,給料は時給制でした。この裁判では,有期雇用労働者が比較の対象とすべきとした正規労働者ではなく,「比較対象者は客観的に定まるもの」であるとして,学校法人の正職員(学校法人の職員で雇用期間の定めがない職員は正職員のみ。)全体を比較対象としています。
この学校法人では,正職員が私傷病で欠勤した場合,6か月間は賃金全額が支払われ,6か月経過後は休職が命じられた上で休職給として,標準賃金の2割が支払われることとなっています。他方,アルバイト職員には欠勤中の補償や休職制度は存在しませんでした。
裁判で,私傷病欠勤の賃金等支払いの趣旨は,「正職員として長期にわたり継続して就労してきたことに対する評価又は将来にわたり継続して就労することに対する期待から,正職員の生活に対する保障を図る点にある」としています。しかし,アルバイト職員も契約期間が更新されること,フルタイム勤務をし習熟する者については一概には代替性が高いとはいい難いこと,そうしたアルバイト職員には生活保障の必要性があることも否定し難いことから,アルバイト職員であるというだけで,一律に私傷病による欠勤中の賃金支給や休職給の支給を行わないことには合理性があるとは言い難く,フルタイム勤務で契約期間を更新しているアルバイト職員に対して,私傷病による欠勤中の賃金支給を一切行わないこと,休職給の支給を一切行わないことは不合理というべき,としています。もっとも,正職員とアルバイト職員の本来的な相違を考慮すると,私傷病による賃金支給につき1か月分,休職給の支給につき2か月分を下回る支給しかしないときは,正職員との労働条件の相違が不合理であるというべきとしています。
この判決が述べる私傷病欠勤の賃金等支払いの趣旨について,皆さんはどう思われますか。
私は,「正職員として長期にわたり継続して就労してきたことに対する評価又は将来にわたり継続して就労することに対する期待」という部分に端的に現れているように,正職員(正規労働者)のみが支給対象となっている現状の不合理性をその趣旨から評価しなければならないときに,判断の物差しとなるべき趣旨の認定において,正職員のみが支給対象となっていることを含めてしまっているように見えます。この学校法人の私傷病欠勤の賃金等支払いの制度は特段目新しいものではないので,例えば「一定の賃金を保障し労働者が安心して私傷病からの健康回復を図ることを促すもの」といった通常の理解でよいのではないでしょうか。
この事件で学校法人を訴えたアルバイト職員はフルタイムで勤務し,契約期間も通算5年は超えていませんが更新はしていますので(平成25年1月29日に,同年3月31日までの雇用期間で雇用契約を締結,以後,契約期間1年で契約を更新しながら平成28年3月31日まで在籍。もっとも,平成27年3月9日から平成28年3月31日まで適応障害により出勤せず。この間,有給取得日以外は欠勤扱い。),この者についていえば,上述の趣旨の理解の違いは,あるいは結論に影響しないかもしれません。一方,例えばこの学校法人を訴えたのが契約更新していない有期雇用労働者やパートタイム労働者であるときは,上述の趣旨の理解の違いで結論に違いが出る可能性があるように思います。
更新日 2020年9月9日
福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所
弁護士 古賀象二郎
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