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  • 執筆者の写真弁護士古賀象二郎

福岡の弁護士が同一労働同一賃金を分かりやすく・詳しく解説~「食事手当」

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


★同一労働同一賃金についてまとめた記事は以下を参照ください。


<本日の内容>

1 「食事手当」の不合理性判断

2 判例・裁判例-ハマキョウレックス(差戻審)事件

3 ハマキョウレックス(差戻審)事件判決の射程


1 「食事手当」の不合理性判断

 本日は,食事手当について検討します。


 ①勤務時間内に食事時間が挟まれている場合にその食費負担を補助するという食事手当の性質・目的からすると,②その主な考慮要素は,勤務時間内に食事時間が挟まれているかどうかです。したがって,③パートタイム・有期雇用労働者にも,正規労働者と同一の食事手当を支給することが求められます(同一労働同一賃金ガイドライン第三の三(八))(水町・前掲106,107頁)。同一労働同一賃金ガイドラインの問題となる例では,「A社においては、通常の労働者であるXには、有期雇用労働者であるYに比べ、食事手当を高く支給している。」とあります。


 注意点を挙げれば,食事手当は食費という支出の補助の趣旨のもと支給されるものですので,拘束時間中に食事の時間のない短時間・有期雇用労働者には,支給の必要はありません。同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例に,「A社においては、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がある通常の労働者であるXに支給している食事時間を、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後二時から午後五時までの勤務)短時間労働者であるYには支給していない。」とあるとおりです。


2 ハマキョウレックス(差戻審)事件

 ハマキョウレックス(差戻審)事件(最小二判平成30・6・1民集72巻2号88頁)では,改正前の労働契約法20条を巡り,給食手当の不合理性が争われました。訴えられた会社では,正規労働者に適用される就業規則で,正規労働者に給食の補助として月額3500円の給食手当を支給していたのに対し,有期雇用労働者に適用される就業規則では給食手当の支給の定めはありませんでした。


 判決では,この会社の給食手当を,労働者の食事に係る補助として支給されるものであるとし,勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給することがその趣旨にかなうものであるとしています。そして,結論として,正規労働者に対して給食手当を支給する一方で,有期雇用労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとしています。


3 ハマキョウレックス(差戻審)事件判決の射程

 この判決の結論は妥当と思われるのですが,事案が変わったときにどこまであてはまるのか,判決の射程を考えるとき,判決文には気になる記載があります。


 この件は,トラック運転手である乗務員の正規労働者と職務の内容が異ならない有期雇用労働者との間の労働条件の差異の不合理性が争われた事案であることはすでに述べたとおりです。

 この点に関連し,判決は,「職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは,勤務時間中に食事を取ることの必要性やその程度とは関係がない」として,この会社の食事手当の不合理性判断において, 職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは考慮要素とならないとしています。

 一方,職務の内容については,「乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならない上,勤務形態に違いがあるなどといった事情はうかがわれない」としていて,この会社の食事手当の不合理性判断において,職務の内容は考慮要素となるが,事案においては正規労働者と有期雇用労働者とで違いはないという判断をしているように見えます。


 食事手当について改めて考えてみると,この会社は一般貨物自動車運送等を目的としています。そして,労働条件の差異が争われた正規労働者と有期雇用労働者のいずれも,トラック運転手である乗務員でしたので,拘束時間中に事業場外で食事を取ることも多いでしょう。すなわち,この会社の乗務員である正規労働者や有期雇用労働者に支給される食事手当は,拘束時間中に事業場外で食事を取ることの費用負担も踏まえたものとされている可能性があります。食事手当の不合理性判断の主な考慮要素は,勤務時間内に食事時間が挟まれているかどうかと述べましたが,この事案についてはさらに, 拘束時間中に事業場外で食事を取ることが多い職務かどうかという,その職務の内容もまた考慮要素になるのかもしれません。

 判決の射程について考えるとき,この点がポイントのひとつになるように思います。


更新日 2020年9月9日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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