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  • 執筆者の写真弁護士古賀象二郎

非正規労働者への新型コロナウイルス対応のしわよせと労働者派遣法における同一労働同一賃金の規制

更新日:2020年8月25日

【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報


<本日の内容>

1 非正規労働者への新型コロナウイルス対応のしわよせ

2 労働者派遣法における同一労働同一賃金

3 「派遣先均等・均衡方式」

4 「労使協定方式」


1 非正規労働者への新型コロナウイルス対応のしわよせ

 2020年5月30日付日本経済新聞朝刊で,企業が新型コロナウイルスに対応するなかで,非正規労働者にはテレワークや時差通勤を認めないといった正規労働者と非正規労働者の待遇差が顕在化しているとの記事がありました。記事では,東京都内の不動産管理会社で派遣社員として働く女性社員が在宅勤務を希望したのに会社は在宅勤務を認めてくれなかったとのことです。記事によれば,この会社の正規労働者は全員在宅勤務が認められていて,正規労働者のなかには記事の女性と同じ者もいるようです。


 記事では,こうした派遣労働者の扱いが同一労働同一賃金に牴触するおそれがあるのではないか指摘していますが,勤務形態もまた「待遇」に含まれますので,同一労働同一賃金の問題は生じ得ます。そして,記事の会社の在宅勤務は,労働者が新型コロナウイルスに感染することを防ぐことに主眼があると思われますので,正規労働者と非正規労働者とでその実施の有無を区別する理由は原則ないでしょう。正規労働者に記事の女性と同じ職務内容の者もいるようですが,それはさておき,会社として「非正規労働者の職務内容を考えると出社が求められる。」などといった反論がなされるかもしれません。しかし,在宅勤務実施の主たる目的が労働者の生命・身体の安全確保にある以上,出社の必要性は実際の職務内容に照らし相当厳格に判断されるように思います。

 ただし, 労働者派遣法における同一労働同一賃金についていえば,以下の点にご留意ください。


2 労働者派遣法における同一労働同一賃金

 労働者派遣法における同一労働同一賃金について簡単に触れておきます。


 これまでのブログでは,パートタイム・有期雇用労働者に適用されるパートタイム・有期雇用労働法8条を中心に検討を進めてきました。他方で,パートタイム・有期雇用労働者と同じく非正規労働者に位置づけられる派遣労働者にも,労働者派遣法改正により,原則同じ規制が置かれ,中小企業の事業主への適用猶予なく2020年4月1日に施行されたことはすでに述べたとおりです。


 パートタイム・有期雇用労働法と労働者派遣法とで同一労働同一賃金に関し原則同じ規制が置かれたというのは間違いないのですが,労働者派遣という制度などからして,規制の仕方には違いもあります。不合理な待遇の禁止についても,労働者派遣法では2つの方式が規定されています。


3 「派遣先均等・均衡方式」

 まずは原則となる「派遣先均等・均衡方式」です。これは労働者派遣法30条の3第1項に次のように定められています。


 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを顧慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。


 パートタイム・有期雇用労働法8条と比べると,基本的に同じ文言を用いつつ,「事業主」を「派遣元事業主」に,「短時間・有期雇用労働者」を「派遣労働者」に,「通常の労働者」を「派遣先に雇用される通常の労働者」に置き換えています(水町・前掲135頁)。


 「派遣先均等・均衡待遇方式」では,派遣労働者と派遣先の正規労働者との間の不合理な待遇を設けることが,派遣元事業主に禁止されています。記事でいえば,派遣社員の女性と派遣先の不動産管理会社の正規労働者とで,正規労働者にのみ在宅勤務を認めるという待遇の相違が不合理か,派遣元事業主が問われることとなります。


4 「労使協定方式」

 原則である「派遣先均等・均衡待遇方式」の例外として,「労使協定方式」によることも認められています。例外が置かれたのは,派遣労働者について,派遣先労働者との均等・均衡方式を貫くと,派遣労働者がキャリアを蓄積して派遣先を移動しても,派遣先労働者の賃金が低下する場合に,派遣労働者の賃金が下がり,派遣労働者の段階的・体系的なキャリア形成支援と不整合な事態を招くことになりかねないからと説明されています(水町・前掲135頁)。


 「労使協定方式」は労働者派遣法30条の4第1項に定めがあります。派遣元事業主が,労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数代表との書面による協定(労使協定)により,一定水準を満たす派遣労働者の待遇(派遣先が講じるべき教育訓練と福利厚生施設等は除く。)について, 労働者派遣法30条の4第1項にある事項を定め,遵守・実施している場合に認められます(水町・前掲135,136頁)。


 「労使協定方式」が例外として置かれた趣旨からして,労使協定で定める派遣労働者の賃金は,派遣先労働者との比較ではなく,「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること」(同条1項2号イ)とされています。また,賃金以外の待遇については,「派遣労働者の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違が生じないことととならないものに限る」(同項4号)とされています。記事で「労使協定方式」が採用されているときは,派遣社員の女性と派遣元の正規労働者との間での待遇の相違が不合理か,派遣元事業主が問われることとなります。不合理な待遇を設けたのか問われているのは派遣元事業主であることは「派遣先均等・均衡方式」と同じですが,比較の対象は派遣先の不動産管理会社の正規労働者ではありません。


更新日 2020年8月14日

福岡市中央区 古賀象二郎法律事務所

弁護士 古賀象二郎


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