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 TOPICS 労働問題

同一労働同一賃金を分かりやすく・詳しく解説します。

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【執筆した弁護士】

古賀 象二郎(こが・しょうじろう)弁護士

1974年,佐賀県鳥栖市生まれ。一橋大学経済学部を卒業後,民間企業に勤務。神戸大学法科大学院を経て,2009年に弁護士登録。

事務所名:古賀象二郎法律事務所(福岡市中央区) URL:事務所HP

日本弁護士連合会会員・福岡県弁護士会会員 URL:会員情報

<目次>

1 「同一労働同一賃金」を取り上げる意義

2 パートタイム・有期雇用労働法の改正の経緯

3 「同一労働同一賃金」が目指すもの

4 改正法の施行日,中小企業の事業主への適用猶予の有無

5 改正前のパートタイム労働法8条の規定

6 改正後のパートタイム労働法8条の規定

7 だれがパートタイム労働者(短時間労働者)となるのか

8 パートタイム・有期雇用労働法8条の待遇の合理性(均等・均衡待遇)

9 パートタイム・有期雇用労働法8条の「待遇」とは何か

10 パートタイム・有期雇用労働法8条の「不合理性」の立証責任

11 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~職務給

12 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~職能給

13 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~成果給

14 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~勤続給

15 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~職務給

16 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~昇給

17 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~複合形態の基本給

18 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~賞与

19 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~複合形態の賞与

20 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~役職手当

21 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~特殊作業手当

22 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~特殊勤務手当

23-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~精皆勤手当

23-2 判例・裁判例-長澤運輸事件

23-3 判例・裁判例-井関松山製造所事件

24-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~時間外手当

24-2 判例・裁判例-メトロコマース事件

25-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~深夜・休日労働手当

25-2 判例・裁判例-日本郵便(時給制契約社員ら)事件

25-3 判例・裁判例-日本郵便(非正規格差)事件

25-4 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決の比較

26-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~通勤手当・出張旅費

26-2 判例・裁判例-ハマキョウレックス(差戻審)事件

27-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~食事手当

27-2 判例・裁判例-ハマキョウレックス(差戻審)事件

27-3 ハマキョウレックス(差戻審)事件判決の射程

28-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~単身赴任手当

28-2 単身赴任手当の支給額を役職に応じて変えている場合

29 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~地域手当

30-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~福利厚生施設の利用

30-2 福利厚生施設の利用に関するパートタイム・有期雇用労働法8条と12条

31 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~転勤者用社宅

32 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~慶弔休暇,健康診断に伴う勤務免除有給保障

33-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~病気休職

33-2 判例・裁判例ー日本郵便(時給制契約社員ら)事件

33-3 判例・裁判例ー日本郵便(非正規格差)事件

33-4 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決

33-5 判例・裁判例ー学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件

34-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~リフレッシュ休暇など

34-2 判例・裁判例ー日本郵便(時給制契約社員ら)事件

34-3 平成30年東京高裁判決の結論

34-4 判例・裁判例ー日本郵便(非正規格差)事件

34-5 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決

34-6 判例・裁判例ー学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件

35 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~教育訓練

36 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~安全管理

37 正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで賃金の決定基準・ルールの相違がある場合のパートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断

38-1 労働者派遣法における同一労働同一賃金

38-2 「派遣先均等・均衡方式」

38-3 「労使協定方式」

1 「同一労働同一賃金」を取り上げる意義 

 「同一労働同一賃金」は,2018(平成30)年6月の労働契約法,パートタイム労働法,労働者派遣法の改正により置かれた制度です。この改革については,インターネットなどでも多くの解説を見ることができます。しかし,それが専門家の手によるものであっても,「同一労働同一賃金」という言葉に引きずられてか,制度の中身を正しく理解しているのか疑わしい記述が散見されます。そこで,従来の雇用慣行に大きく揺さぶりをかける「同一労働同一賃金」について,みなさんの理解の役に立つことができればと思い,トピックとして取り上げました。

 

 なお,「同一労働同一賃金」についてのこのブログの解説の多くは,水町勇一郎「『同一労働同一賃金』のすべて (新版)」(有斐閣,2019年)を参考としています。さらに詳しい内容については同書をご覧ください。

 

2 パートタイム・有期雇用労働法の改正の経緯 

 まずは,改正の経緯から簡単に。

 今回の改正前の,正規労働者・非正規労働者の不合理な待遇の相違に関する規定として,有期雇用労働者に関する労働契約法20条,短時間労働者に関するパートタイム労働法8条の規定が置かれていました(パートタイム労働法9条「差別的取扱いの禁止」については,このブログでは詳細には取り上げません。)。

 しかし,正規労働者・非正規労働者の待遇格差の是正という点では,次のような問題点が指摘されていたとされています。第1に,非正規労働者に位置づけられる派遣労働者については,待遇格差の是正を図る規定が置かれていない,第2に,有期雇用労働者およびパートタイム労働者の待遇格差の是正に関する上記規定も,内容が不明確で,解釈が定まっていない,第3に,非正規労働者が待遇差の是正を求めようにもそのための十分な情報を得る手段がない,といったことです。

 

 こうした問題点を踏まえて行われたのが,今回の改正です。

 法律の構成としては,従来の有期雇用労働者の不合理な労働条件を禁止した労働契約法20条が削除され,パートタイム労働法がパートタイム・有期雇用労働法(「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)と改められ,パートタイム労働者と有期雇用労働者とを同法8条で同じ規制の下に置き,また,派遣労働者については,労働者派遣法を改正して,パートタイム・有期雇用労働法における不合理な待遇の禁止と原則として同じ規制を置くこととしました。

 

3 「同一労働同一賃金」が目指すもの 

 「同一労働同一賃金」は,どういった問題を解決しようとしているのか。それは,正規労働者と非正規労働者との不合理な待遇格差の是正という問題(社会政策の側面)と,非正規労働者の能力発揮とそれに見合った賃金上昇を実現し,その結果としての需要拡大によりさらなる経済成長を図るという問題(経済政策の側面)の2つであるとされています。

 

 ただ,正規労働者と非正規労働者の待遇格差の問題についていえば,社会状況によりどのような非正規労働者を念頭に置くかに違いはあったにせよ,戦前より議論されていました。今回の改正前にも,パートタイム労働者についてはパートタイム労働法8条で,有期雇用労働者については労働契約法20条で,それぞれ正規労働者との待遇格差是正を図るための規定が置かれていました。ですので,今回の改正は,上記問題をより実効的に実現すべく,その手段である従来規定の問題点に改良を加えたといえると思います。

 

4 改正法の施行日,中小企業の事業主への適用猶予の有無 

 ここで解説する「同一賃金同一労働」に関する規定につき,今回の法改正の施行は,パートタイム・有期雇用労働法で2020(令和2)年4月1日ですが,中小企業の事業主については2021(令和3)年4月1日まで猶予されています。他方,労働者派遣法の施行は2020(令和2)年4月1日で,中小企業の事業主への適用猶予はありません。これは,「派遣労働者についての均等・均衡待遇の確保は基本的に派遣先に雇用される労働者との関係で求められるものであり,派遣元事業主の規模等にかかわらず実現されるべきものであるからである」(水町・前掲151頁)と説明されています。

 

5 改正前のパートタイム労働法8条の規定 

 いよいよ今回の改正でパートタイム労働者と有期雇用労働者に適用されることとなった,パートタイム・有期雇用労働法8条をみていくことにしましょう。ただ,改正後のパートタイム・有期雇用労働法8条を理解するには,改正前のパートタイム労働法8条と比較するのがよいと思いますので,やはり,まずは改正前のパートタイム労働法8条に戻ることとします。

 

 改正前のパートタイム労働法8条はこのような規定でした。

 

「事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」(注:ここでいうパートタイム労働者のことを,法律では「短時間労働者」としています。)

 

 この改正前のパートタイム労働法8条は,内容が不明確であるとという指摘を受けていたことはすでに述べたとおりです。具体的な争点のうちで主なものでは,待遇の不合理性を検討するときに,諸待遇を総合して判断するのか,それぞれの待遇ごとに個別に判断するのか,その検討の枠組みについて見解が分かれていました。

 

6 改正後のパートタイム労働法8条の規定 

 改正後のパートタイム・有期雇用労働法8条の規定を見てみましょう。

 

「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」

 

 改正後の規定では,「その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて」とあります。待遇の不合理性は,諸待遇を総合して判断するのではなく,それぞれの待遇ごとに個別に判断することが条文上明らかにされました。

 

 また,それぞれの待遇の不合理性を判断するには,「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮」することも明記されています。条文上,考慮要素の例として,①職務内容,②職務内容・配置の変更範囲,③その他の事情が挙げられていますが,これらが常に考慮要素となるかというとそうではなく,何が考慮要素となるのかは,それぞれの待遇の性質・目的に照らして決まってくることになります。

 

 そして,それぞれの待遇の性質・目的が何かは,実態を踏まえて判断されるとされています(水町・前掲89頁)。したがって,例えば,賞与が成果に応じて支給されている実態があるときに,事業主が「当社の賞与は将来の労働への期待を示すものだ。」と主張しても,賞与の性質・目的は,実態に即して過去の成果に対する報償とされることとなります。

 

7 だれがパートタイム労働者(短時間労働者)となるのか 

 なお,だれがパートタイム労働者(短時間労働者)となるのかについて,改正前はパートタイム労働者を「事業所」単位で定義していました。しかし,改正後は「事業主」単位で定義しています(パートタイム・有期雇用労働法2条1項)。したがって,だれがパートタイム労働者となるかについては,改正後は,同一の事業所のみならず他の事業所の通常の労働者(の1週間の所定労働時間)と比較して決まってくることになります。有期雇用労働者については,改正前の労働契約法のときより,「事業主」との労働契約の内容(期間の定めのある労働契約を締結している労働者かどうか)により規定されていて,改正後も変更はありません(同条2項)。

 

8 パートタイム・有期雇用労働法8条の待遇の合理性(均等・均衡待遇) 

 パートタイム・有期雇用労働法8条では,待遇の不合理性は,それぞれの待遇ごとに個別に判断すると説明しました。

 では,待遇の不合理性(条文の文言でいえば,「不合理と認められる相違」。)とはどういうことかについてですが,これはパートタイム・有期雇用労働法15条に基づいて策定・公表された「同一労働同一賃金ガイドライン」(平30・12・28厚労告430号)が,不合理性判断の基本的な考え方と具体的な内容を示しています。この「同一労働同一賃金ガイドライン」をみると,個々の待遇ごとに,①待遇の性質・目的にあたる事情が通常の労働者と同様にあてはまるパートタイム・有期雇用労働者には同一の取扱い(均等待遇)を,②事情に一定の違いが認められる場合にはその違いに応じた取扱い(均衡待遇)をすることが求められ,この均等・均衡待遇が実現されていなければ,不合理な待遇の相違となると解することができます(水町・前掲86頁)。

 

 「同一労働同一賃金」というスローガンを聞くと,直感的には,上記①のみを想定してしまいそうですが,パートタイム・有期雇用労働法8条では,上記②のとおり,それぞれの待遇の前提事情が通常の労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで異なる場合でも,前提事情の違いに応じた均衡のとれた待遇(例えば,前提事情の違いに応じた割合的な手当の支給など。)の実現が求められています。

 

9 パートタイム・有期雇用労働法8条の「待遇」とは何か 

 パートタイム・有期雇用労働法8条の「待遇」とは何か。

 

 改正前の労働契約法20条は,「待遇」ではなく,「労働契約の内容である労働条件」という文言を使用していました。「労働契約の内容である労働条件」が規制の対象なのですから, 解雇,配転,懲戒処分などの,労働者が就労する中でその対象となることがある個別の措置については, 「労働契約の内容である労働条件」に含まれず,規制の対象とはならないという見解がありました。

 

 しかし,労働契約法20条に関する行政解釈(平成24・8・10基発0810第2号第5の6(2)イ)では,「法第20条の『労働条件』には、賃金や労働時間等の狭義の労働条件のみならず、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、付随義務、福利厚生等労働者に対する一切の待遇を包含するものであること。」とさています。

 

 また,労働契約法20条が置かれた法改正の後の,平成26年のパートタイム労働法8条の改正(今回の改正前の改正。)では, 「労働契約の内容である労働条件」ではなく「待遇」という文言に言い換えられ,その行政解釈(平成26・7・24基発0724第2号等第3の3(4))も,「『待遇』には、すべての賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用のほか、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等労働時間以外の全ての待遇が含まれること。」とされています。今回改正されたパートタイム・有期雇用労働法8条の行政解釈(平成31・1・30基発0130第1号等第3の3(6))でもまた,「『待遇』には、基本的に、全ての賃金、教育訓練、福利厚生施設、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等の全ての待遇が含まれること。一方、短時間・有期雇用労働者を定義付けるものである労働時間及び労働契約の期間については、ここにいう『待遇』に含まれないこと。」とされています。

 

 こうしたことから,改正後のパートタイム・有期雇用労働法8条の「待遇」とは, 条文上明記されている基本給,賞与のほか,諸手当,教育訓練,福利厚生,休憩,休日,休暇,安全衛生,災害補償,服務規律,付随義務,解雇など,労働者に対するすべての待遇を含む(ただし,パートタイム労働者については所定労働時間の長さ,有期雇用労働者については期間の定めの有無を除く。)といえます(水町・前掲80頁)。

 

10 パートタイム・有期雇用労働法8条の「不合理性」の立証責任 

 改正前のパートタイム労働法8条,労働契約法20条については,事業主と非正規労働者のいずれに待遇差の不合理性などを立証する責任があるか明確でないとの指摘がありました。

 

 立証責任とは,ここでいえばパートタイム・有期雇用労働法8条を根拠に労働者と事業主が裁判で争うときに,この条文の適用をめぐって,いかなる事実についていずれの当事者に証明の責任を負担させるのかという問題です。立証責任は,裁判の審理の方針となるもので,できるだけ客観的に分配する必要がありますし,その分配の仕方が立証の難易に直結して裁判の結論を左右しかねませんので,当事者の公平を損なわないように分配しなければなりません。

 

 改正前のパートタイム労働法8条,労働契約法20条では,特に,労働条件(待遇)の「不合理性」についていずれの当事者が立証する責任があるのか議論がありました。

 この点につき,改正後のパートタイム・有期雇用労働法8条では,待遇の相違の「不合理性」は,規範的評価を必要とするもので,その立証責任は,パートタイム・有期雇用労働者側が不合理であることを基礎づける事実(例えば,待遇の性質・目的から,職務の内容,職務の内容及び配置の変更の範囲が考慮要素とされるときの,「職務の内容が同一であること。」)を主張・立証し,事業主側が不合理でないことを基礎づける事実(例えば,待遇の性質・目的から,職務の内容,職務の内容及び配置の変更の範囲が考慮要素とされるときの,「職務の内容及び配置の変更の範囲が同一ではないこと。」)を主張・立証するという分配になり,これらの双方の主張・立証を踏まえて,裁判所が待遇の不合理性の有無を判断するとされています(水町・前掲113頁)。

 

 改正前の労働契約法20条についてですが,同様の判断を示した最高裁判所の判決も出されています(ハマキョウレックス(差戻審)事件・最二小判平成30・6・1民集72巻2号88頁)。

 

11 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~職務給 

 パートタイム・有期雇用労働法8条の基本的な説明はできたと思いますので, パートタイム・有期雇用労働法15条に基づいて策定・公表された,不合理性判断の基本的な考え方と具体的な内容を示した「同一労働同一賃金ガイドライン」(平30・12・28厚労告430号)なども確認しながら,個々の待遇の不合理性がどう判断されるのか,具体的に見ていきます。

 

 なお,ここでは,個々の待遇の性質・目的はその名称に相当するものとしています。例えば,「役職手当」の性質・目的は,「役職に伴う責任の重さ等への対償」(水町・前掲103頁)としています。一方で,労働者・事業主が個々の待遇の性質・目的が何か考えるときは,待遇の名称ではなく,その支給・措置の実態から判断する必要があります。

 

 さて話を戻しましょう。パートタイム・有期雇用労働法8条は,それぞれの待遇について,その性質・目的に照らして適切と認められる考慮要素より,パートタイム・有期雇用労働者と正規社員との間の待遇の相違が不合理かどうか判断します。ですので,その判断の仕方は,①その性質・目的は何か,②①の性質・目的から適切とされる考慮要素は何か,③②の考慮要素からしてパートタイム・有期雇用労働者と正規社員との間の待遇の相違を設けることは不合理かどうか,と考えてゆきます。

 

 まず,基本給についてです。基本給の支給の仕方は,様々ありますが,ここでは「職能給」を考えてみましょう。これは,①労働者の職業能力・経験に応じて支給される制度ですから,②その主な考慮要素は,職業能力や経験となります。したがって,③正規社員と同一の職業能力・経験があるパートタイム・有期雇用労働者には,同一の支給をしなければならず,職業能力・経験に一定の違いがある場合にも,その相違に応じた支給をしなければ,その相違は不合理とされます(同一労働同一賃金ガイドライン第三の一(一))(水町・前掲96頁)。

 

 同一労働同一賃金ガイドラインでは,待遇毎に「問題とならない例」「問題となる例」が記載されています。職能給の問題とならない例イで,「基本給について,労働者の能力又は経験に応じて支給しているA社において,ある能力の向上のための特殊なキャリアコースを設定している。通常の労働者であるXは,このキャリアコースを選択し,その結果としてその能力を習得した。短時間労働者であるYは,その能力を習得していない。A社は,その能力に応じた基本給をXには支給し,Yには支給していない。」とあります。Yに少しでも関係する能力があれば,Xと金額に相違はあっても,その能力に応じた基本給が支給されなければなりません。しかし,ここではYはその能力を習得していないというのですから,その能力に応じた基本給が支給されないというのも不合理な相違ではありません。上記基準から理解できる例であると思います。

 

12 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~職能給 

 職能給について,同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例ロには,「A社においては,定期的に職務の内容及び勤務地の変更がある通常の労働者の総合職であるXは、管理職となるためのキャリアコースの一環として、新卒採用後の数年間、店舗等において、職務の内容及び配置に変更のない短時間労働者であるYの助言を受けながら、Yと同様の定型的な業務に従事している。A社はXに対し、キャリアコースの一環として従事させている定型的な業務における能力又は経験に応じることなく、Yに比べ基本給を高く支給している。」とあります。

 

 職能給の不合理性判断において,「キャリアコースの違い」を考慮要素にできることをガイドラインはいっております。フランスの判例でも,「キャリアコースの違い」は格差を正当化する客観的理由とされているようです(水町・前掲166頁)。

 

 では,「キャリアコースの違い」を考慮要素とすることを,職能給の性質・目的からどう説明するか。

 「それが単に『将来への期待』という主観的・抽象的な事情によるものではなく,配転義務の有無・範囲の違いや課される職業訓練の幅・深さの違いといった客観的・具体的な事情に基づくものであれば、不合理でないものとして許容されうる。」(水町・前掲97頁)と説明されることもあります。この説明だと,「キャリアコースの違い」は,実は配転義務の有無・範囲や職業訓練の幅・深さという考慮要素に分解でき,それらを考慮することは,労働者の職業能力・経験に応じて支給するという職能給の性質・目的からも是認できるといっているようにも見えます(同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例ハでも,定期的に職務の内容や勤務地の変更があることを考慮要素としています。)。しかし一方で,現在の業務と関連性を持たない労働者の能力又は経験は職能給においては考慮要素とならないとされていて(問題となる例),問題とならない例ロにおける店舗等の定型的業務と関連性のある能力・経験という点で,配転義務の有無・範囲や職業訓練の幅・深さを考慮要素とすることを,少なくとも私は上手く説明できません。

 

 「キャリアコースの違い」を考慮要素とすることを,職能給の性質・目的から説明できないと,職能給の不合理性判断において「キャリアコースの違い」をどこまで・どうやって考慮するのか見当をつけるのが難しくなります。「キャリアコースの違い」を考慮要素とすることは直感的には理解できるものの,その扱い方については事例毎の実態に即し,慎重に行うとのこと以上は,ここでは言えなさそうです。

 

13 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~成果給 

 基本給でも,労働者の業績・成果に応じて支給される「成果給」における待遇の不合理性判断を検討してみましょう。

 

 ①成果給の性質・目的は,上述のとおり労働者の業績・成果に応じて支給されるものですから,②その主な考慮要素は,労働者それぞれが残した業績・成果となります。したがって,③正規社員と同一の業績・成果を出しているパートタイム・有期雇用労働者には,同一の支給をしなければならず,業績・成果に一定の違いがある場合にも,その相違に応じた支給をしなければ,その相違は不合理とされます(同一労働同一賃金ガイドライン第三の一(二))(水町・前掲97頁)。

 

 同一労働同一賃金ガイドラインの問題となる例には,「基本給の一部について、労働者の業績又は成果に応じて支給しているAにおいて、通常の労働者が販売目標を達成した場合に行っている支給を、短時間労働者であるXについて通常の労働者と同一の販売目標を設定し、それを達成しない場合は行っていない。」とあります。業績・成果は,個々の労働者の能力のみならず,投入する労働時間の長短に左右される部分がありますので,そのことを考慮せずに,正規社員と短時間労働者への成果給の支給を全く同じ目標の下で行うのは不合理であるという考えだと思われます。この考えに沿う問題とならない例がイで,「基本給の一部について、労働者の業績又は成果に応じて支給しているA社において、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者であるXに対し、その販売実績が通常の労働者に設定されている販売目標の半分の数値に達した場合には、通常の労働者が販売目標を達成した場合の半分を支給している。」とあります。

 

 上述の投入労働時間とは異なる観点を取り上げるのが,問題とならない例ロです。「A社においては、通常の労働者であるXは、短時間労働者であるYと同様の業務に従事しているが、Xは生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っており、当該目標値を達成していない場合、待遇上の不利益を課されている。その一方で、Yは、生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っておらず、当該目標値を達成していない場合にも、待遇上の不利益を課されていない。A社は、待遇上の不利益を課していることとの見合いに応じて、XにYに比べ基本給を高く支給している。」とあります。

 一読すると,なんとなく分かったような気もする例ですが,よくよく考えると,Yは生産効率及び品質の目標値に対する責任を負っていないのですから,Yの基本給は成果給ではないのではないか,この例は基本給に成果給の要素が含まれるXと成果給の要素が含まれないYを比べてないか,といった疑問も感じます(結論はともかく,ここで取り上げる例として,あるいは例の書き方として整理し切れているのかという問題です。誤解なきように。)。 

 

14 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~勤続給 

 労働者の勤続年数に応じて支給される基本給である「勤続給」における待遇の不合理性判断を検討してみましょう。

 

 ①勤続給の性質・目的は,労働者の勤続年数に応じて支給されるものですから,②その主な考慮要素は,労働者それぞれの勤続年数となります。したがって,③正規社員と同一の勤続年数であるパートタイム・有期雇用労働者には,同一の支給をしなければならず,勤続年数に一定の違いがある場合にも,その相違に応じた支給をしなければ,その相違は不合理とされます(同一労働同一賃金ガイドライン第三の一(三))(水町・前掲97頁)。

 

 注意すべきは,有期雇用労働者の勤続年数は,当初の労働契約開始時から通算することです。同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例には,「基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しているA社において、期間の定めのある労働契約を更新している有期雇用労働者であるXに対し、当初の労働契約の開始時から通算して勤続年数を評価した上で支給している。」とあり,一方,問題となる例には,「基本給について、労働者の勤続年数に応じて支給しているA社において、期間の定めのある労働契約を更新している有期雇用労働者であるXに対し、当初の労働契約の開始時から通算して勤続年数を評価せず、その時点の労働契約の期間のみにより勤続年数を評価した上で支給している。」とあります。いずれも有期雇用労働者の勤続年数の算定の仕方に焦点を当てた例となっています。

 

15 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~職務給 

 基本給の最後として,労働者の職務の内容に応じて支給される「職務給」における待遇の不合理性判断を検討してみましょう。

 

 ①職務給の性質・目的は,労働者の職務の内容に応じて支給されるものですから,②その主な考慮要素は,労働者それぞれの職務の内容となります。したがって,③正規社員と同一の職務内容であるパートタイム・有期雇用労働者には,同一の支給をしなければならず,職務内容に一定の違いがある場合にも,その相違に応じた支給をしなければ,その相違は不合理とされます(水町・前掲98頁)。

 

 同一労働同一賃金と聞いたときに多くの人が結び付けて考える人事制度が,この職務給制度だと思うのですが,同一労働同一賃金ガイドラインには,基本給としての職務給について記載はありません。

 

16 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~昇給 

 「昇給」について考えてみましょう。昇給のうちの定期昇給は,労働者が勤続により能力を向上させてゆくという発想に基づき実施することが多いと思われます。

 したがって,①定期昇給の性質・目的は,勤続による能力の向上に応じた基本給の加給ですから,②その主な考慮要素は,労働者それぞれの勤続による能力の向上となります。したがって,③正規労働者と同様に勤続による能力の向上がみられたパートタイム・有期雇用労働者には,勤続による能力の向上がみられた部分について正規労働者と同一の定期昇給をしなければなりません。また,勤続による能力の向上に一定の相違がある場合においては,その相違に応じた定期昇給を行う必要があります(同一労働同一賃金ガイドライン第三の一(四))(水町・前掲101頁)。

 

 一方,昇給のうちのベースアップについては,同一労働同一賃金ガイドラインには記載されていません。しかし,ベースアップは物価上昇や会社の業績等を考慮したものであることが多く,また,それらは正規労働者のみならずパートタイム・有期雇用労働者にも及んでいることが通常です。したがって,これらの事情が正規労働者と短時間・有期雇用労働者で同様と認められる場合には同様のベースアップを,事情に相違がある場合においてはその相違に応じたベースアップを行う必要があると考えられます(水町・前掲101頁)。

 

17 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~複合形態の基本給 

 さて,これまで基本給(及び昇給)における同一労働同一賃金の考え方を検討してきました。ただ,基本給については,職能給,成果給,勤続給,職務給などのうちの複数の要素を組み合わせて設計されていることが多いと思われます(相当複雑化し,どのような性質・目的であるのか社内でも分かりにくくなっていて,人事制度改革のときに頭を悩ますことも。)。

 このような複合形態の基本給における同一労働同一賃金はどう考えるのかというと,「それぞれの部分について,…正社員と短時間・有期雇用労働者との均等・均衡を図り,これらを足し合わせて全体として均等・均衡を図るという方法(例えば職能給部分は60対50,成果給部分は40対35の場合,合計で100対85)をとることが求められている」とされます(水町・前掲99頁)。

 まあその通りなのでしょうが,実際に対応するとなると大変そうです。

 

18 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~賞与 

 「賞与」における同一労働同一賃金の考え方です。

 

 同一労働同一賃金ガイドラインでは,賞与のうち,会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものが取り上げられています(同一労働同一賃金ガイドライン第三の二)。

 このとき,①賞与の性質・目的は,会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給ですから,②その主な考慮要素は,労働者それぞれの会社の業績等への貢献となります。したがって,③正規労働者と同一の貢献であるパートタイム・有期雇用労働者には,貢献に応じた部分につき,正規労働者と同一の賞与を支給をしなければなりません。また,貢献に一定の相違がある場合においては,その相違に応じた賞与を支給しなければなりません。

 

 同一労働同一賃金ガイドラインでは,問題とならない例イとして「賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給している。」とあり,また問題となる例イで「賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給していない。」,問題となる例ロで「賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。」とあります。上記の考え方からして,これらいずれも理解できると思います。

 

 2020(令和2)年春先の日本経済新聞朝刊の記事で,大手銀行のうち,これまで非正規労働者には賞与を支給していなかったが支給を決めた会社があることが報じられていました。そうした会社の賞与の性質・目的は分かりませんが,正規労働者には支給し,パートタイム・有期雇用労働者には支給しないことを合理的に説明できる賞与の性質・目的は,多くはないように思われます。

 

19 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~複合形態の賞与 

 さて,上記同一労働同一賃金ガイドラインの考え方は,理解はできる一方で,実際の賞与支給の場面を想定してみると,もう一歩踏み込んで考えておく必要があります。賞与の考え方は各社様々ではありますが,比較的よく見られる各労働者の賞与支給額を決める方式として,

  ①基本給×②月数×③評価係数

で検討してみましょう。

 

 ①基本給は,これまで検討してきたように,その支給の性質・目的はさまざまなものがあります。②月数は,会社業績と連動していることが多いでしょうか。③評価係数は,会社の業績等への労働者の貢献によることが多いように思います。

 すなわち,賞与というのは,その支給方法の実態からすると,単一の性質・目的のものではなくて,①基本給(職能給,成果給,勤続給,職務給など),②月数(会社の業績),③評価係数(会社の業績等への労働者の貢献)という,複合的な形態の待遇ととらえるべきものです。そして,こうした複合的な形態の待遇における同一労働同一賃金の考え方は,複合的な形態の基本給におけるのと同様,各要素で正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者との均等・均衡を図ったうえで総合することになると思われます。同一労働同一賃金ガイドラインが言及するのは,上記でいえば要素のうちの③評価係数についてであり,その他の要素である①②については,その性質・目的に応じた均等・均衡待遇を別途図る必要があると考えるべきです。

 

20 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~役職手当 

 ここからしばらくは,諸手当の不合理性判断について検討して行きます。まずは役職手当から。

 役職手当は,役職の内容,責任の範囲・程度に対して支給されるものですから,①その性質・目的は,役職に伴う責任の重さ等への対償として支給されるというものですから,②役職に伴う責任の重さ等が主な考慮要素となります。したがって,③正規労働者と役職に伴う責任の重さ等が同じパートタイム・有期雇用労働者には,同一の役職手当を支給しなければならず,勤続による能力の向上がみられた部分について正規労働者と同一の定期昇給をしなければなりません。また, 役職に伴う責任の重さ等に一定の相違がある場合においては,その相違に応じた役職手当を支給する必要があります(同一労働同一賃金ガイドライン第三の三(一))(水町・前掲103頁)。

 

 同一労働同一賃金ガイドラインの問題となる例では,「役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く有期雇用労働者であるYに、Xに比べ役職手当を低く支給している。」とあり,役職手当の支給が不合理と判断されるでしょう。Yは有期雇用労働者であってパートタイム労働者ではないようですから,Xと同じ役職手当を支給しなければなりません。問題とならない例イのとおりです。

 他方,問題とならない例ロでは,「役職手当について、役職の内容に対して支給しているA社において、通常の労働者であるXの役職と同一の役職名であって同一の内容の役職に就く短時間労働者であるYに、所定労働時間に比例した役職手当(例えば、所定労働時間が通常の労働者の半分の短時間労働者にあっては、通常の労働者の半分の役職手当)を支給している。」とあります。問題となる例と違い,ここでのYは正規労働者よりも週所定労働時間が短いパートタイム労働者です。正規労働者であるXと同じ役職名・同じ役職の内容であっても,労働時間の長短に応じてその責任の範囲・程度には違いがあり得るのであって,その違いを役職手当の支給にあたり考慮しても不合理とはいえません。

 

21 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~特殊作業手当 

 業務の危険度または作業環境に応じて支給される特殊作業手当で考えてみます。

 

 ①その性質・目的は,危険な業務や作業環境で業務に従事することへの代償となり,②業務の危険度や作業環境が主な考慮要素となります。したがって,③業務の危険度や作業環境が同一の労働者には,正規労働者かパートタイム・有期雇用労働者かを問わず,同一の支給をすることが求められます(水町・前掲103頁)。同一労働同一賃金ガイドライン(第三の三(二))にも,「通常の労働者と同一の危険度又は作業環境の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には,通常の労働者と同一の特殊作業手当を支給しなければならない。」とあります。

 

 こうした特殊作業手当は,最近耳にすることの多い「危険手当」に近いものと思われます。新型コロナウイルスの感染拡大のなか,自身の感染のおそれもある,治療現場の最前線で業務に従事する医療関係者に危険手当の支給を求める声はよく聞きますし,2020(令和2)年4月8日の 日経新聞朝刊では,ITシステムの開発業務などを受託するSHIFTが,取引先の都合で在宅勤務ができない労働者に危険手当の支払いを始めたともありました。システム開発や運用の業務を受託する国内IT企業は,客先拠点に常駐を求められることがあるため,同じく新型コロナウイルスの感染拡大のなかでも在宅勤務ができない労働者に対し,危険手当を支払って報いるとのことです。

 

 ここでの特殊作業手当と異なり, 業務の危険度・作業環境以外の作業の特殊性(例えば,職務の範囲では説明できないような,例外的な出来事への対応など。)に着目して支給される特殊作業手当も,会社によってはあると思われます。こうした特殊作業手当は,会社が特殊と考える特定の作業を行った対価として支給されるものですから,やはり,行った作業が同じであれば,正規労働者かパートタイム・有期雇用労働者かを問わず,同一の支給をすることが求められるでしょう。

 

 同一労働同一賃金に各社が対処するには,結局のところ,優先順位をつけつつも最終的にはあらゆる待遇について,その性質・目的,支給基準,支給実態を再確認する作業から始めることとなります。特殊作業手当を支給している会社があれば,それが何のための支給であるのかなど,改めて検討しみてください。改正前の労働契約法20条をめぐる判例では,特殊作業手当の支給の不合理性が争点の一つとなりましたので,検討の際の参考になると思います(ハマキョウレックス(差戻審)事件・最二小判平成30・6・1民集72巻2号88頁)。この事案では,会社は特殊作業手当の支給対象となる特殊作業の内容を定めていなかったため,いずれの作業を支給対象とするか各事業所の判断に委ねられていると解釈されました。そして,裁判の当事者である有期雇用労働者が所属していた事業所では,正規労働者と有期雇用労働者で職務の内容が異ならないのに,正規労働者のみに一律月額1万円を支給しているとして,それは不合理であると判示されています。

 

22 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~特殊勤務手当 

 交替勤務など勤務形態に応じて支給される特殊勤務手当を検討します。

 

 特殊勤務手当は,交替勤務など勤務形態に応じて支給されるものですから,①その性質・目的は,交替勤務など特殊な勤務形態に就くことの代償であり,②交替勤務など特殊な勤務形態で就労したかどうかが主な考慮要素となります。したがって,③正規労働者と同一の勤務形態で業務に従事する短時間・有期雇用労働者には,同一の支給をしなければなりません(水町・前掲104頁)。

 

 同一労働同一賃金ガイドライン(第三の三(三))の問題とならない例イでは,「A社においては、通常の労働者か短時間・有期雇用労働者かの別を問わず、就業する時間帯又は曜日を特定して就業する労働者には労働者の採用が難しい早朝若しくは深夜又は土日祝日に就業する場合に時給に上乗せして特殊勤務手当を支給するが、それ以外の労働者には時給に上乗せして特殊勤務手当を支給していない。」とあります。早朝,深夜又は土日祝日に就労するという特殊な勤務形態の例です。また,この例では,特殊勤務手当を時給に上乗せして支給しています。

 

 同一の勤務形態で業務に従事する正規労働者と短時間・有期雇用労働者とに,双方手当や時給上乗せという同じ方法で支給しなければならないか,特殊な勤務に就いたことの代償の方法も全く同じにしなければならないかというと,そうではなさそうです。問題とならない例ロでは,「A社においては、通常の労働者であるXについては、入社に当たり、交替制勤務に従事することは必ずしも確定しておらず、業務の繁閑等生産の都合に応じて通常勤務又は交替制勤務のいずれにも従事する可能性があり、交替制勤務に従事した場合に限り特殊勤務手当が支給されている。短時間労働者であるYについては、採用に当たり、交替制勤務に従事することを明確にし、かつ、基本給に、通常の労働者に支給される特殊勤務手当と同一の交替制勤務の負荷分を盛り込み、通常勤務のみに従事する短時間労働者に比べ基本給を高く支給している。A社はXには特殊勤務手当を支給しているが、Yには支給していない。」とあります。Xは業務の繁閑等生産の都合に応じて通常勤務又は交替勤務のいずれにも従事する可能性があるのですから, Yと異なり特殊な勤務に就いたことの代償を基本給の上乗せではなく手当という形態で支給することは合理的です。また, 特殊な勤務に就いたことの代償として,Xに支給される特殊勤務手当とYの基本給増加部分も均衡のとれたものとなっているようですので,A社における特殊勤務手当の支給は,不合理ではないということになります。待遇によって,正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで給付の形式に違いはあるものの,その給付の実態から不合理な措置ではないとされることもありますので,社内制度の柔軟な設計にあたり参考となる例でもあると思われます。

 

23-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~精皆勤手当

 次に,精皆勤手当について検討します。

 

 精皆勤手当は,一定日数以上出勤したことの対償として支給されるもので,①その性質・目的は,特定の業務や特定の勤務日・勤務時間に無欠勤または少ない欠勤で勤務することで,業務の円滑な遂行等に寄与したことへの報償であり,②特定の業務や特定の勤務日・勤務時間に無欠勤または少ない欠勤で勤務したかどうかが主な考慮要素となります。したがって,③同じ業務,同じ勤務日・勤務時間で無欠勤又は少ない欠勤の正規労働者と短時間・有期雇用労働者には,同一の支給をしなければなりません(水町・前掲104頁)。同一労働同一賃金ガイドライン(第三の三(四))では,特定の業務において無欠勤または少ない欠勤で勤務する労働者に支給する精皆勤手当についてですが,「通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の精皆勤手当を支給しなければならない。」としています。

 

 会社としてよく考えなければならないのは,精皆勤手当を支給することにより労働者の出勤を奨励することで,会社の業務のどの部分の円滑な遂行を特に確保しようとしているかということです。それが人員の代替が困難な業務であることもありますし,シフト勤務など労働者の配置を分けているために人員の確保が困難となっていることもあります。そして,会社として格別労働者の出勤を確保しなければならない業務であることが説明でき,その業務に就くのが正規労働者だけであれば,精皆勤手当の支給対象をそうした正規労働者のみとすることは不合理ではありません。

 

 この点に関連し,改正前の労働契約法20条をめぐる判例では,運送事業を行う会社が,正規労働者にのみ精皆勤手当を支給していたことが不合理ではないかと争われました。判決では,精皆勤手当は,会社が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから,皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであるとされています。そこで円滑遂行確保の必要がいわれているのは,運送業務のうちの特別な勤務といった限定はつけられていませんから,トラック運転手として正規労働者と職務の内容が異ならない有期雇用労働者にも精皆勤手当を支給しなければ不合理となると判示されています(ハマキョウレックス(差戻審)事件・最二小判平成30・6・1民集72巻2号88頁)。何のための精皆勤手当なのか,見直してみましょう。

 

 同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例として,「A社においては、考課上、欠勤についてマイナス査定を行い、かつ、そのことを待遇に反映する通常の労働者であるXには、一定の日数以上出勤した場合に精皆勤手当を支給しているが、考課上、欠勤についてマイナス査定を行っていない有期雇用労働者であるYには、マイナス査定を行っていないこととの見合いの範囲内で、精皆勤手当を支給していない。」とあります。待遇の均衡ということでは一読それなりに理解できる例なのですが,そもそも,正規労働者であれ有期雇用労働者であれ,欠勤をマイナス査定しない(例えば賞与の考課。)ということが実際あるのかという気もします。

 

23-2 判例・裁判例-長澤運輸事件 

 精皆勤手当につきましては,改正前の労働契約法20条をめぐり,すでに紹介した最高裁判例以外にも判例・裁判例がありますのでご紹介します。

 

 まず,運送会社の労働者で,その会社を定年後に嘱託社員として再雇用された者らが,会社に対し労働条件の不合理を主張した事案です(長澤運輸事件・最二小判平成30・6・1民集72巻2号202頁)。定年後に嘱託社員として再雇用された後も,定年前と同様に乗務員として勤務していて,職務の内容は正規労働者の乗務員と同じでした。

 定年後再雇用者の問題はいずれ検討するとして,この会社では,精皆勤手当(精勤手当)ついては,就業規則所定の休日を除いて出勤した者(満勤者)に精勤手当を支払うとし,その額は5000円としていました。定年後再雇用の嘱託乗務員には支給していません。

 精皆勤手当を支給することにより労働者の出勤を奨励することで,会社の業務のどの部分の円滑な遂行を特に確保しようとしているのかという観点からすると,この支給基準では,特段の限定はされていないと指摘できます。裁判では,この会社における精皆勤手当は,「その支給要件及び内容に照らせば,従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨で支給されるものであるということができる」と判示しております。このような趣旨からすると,正規労働者の乗務員と定年後再雇用の嘱託乗務員とで皆勤を奨励する必要性に相違はなく,定年後再雇用の嘱託乗務員に精勤手当を支給しないことは不合理であるというのが結論です。

 余談ですが,「休日以外は1日も欠かさずに出勤することを奨励する趣旨」という部分は,当たり前のことを真面目に判示していて,個人的に味わい深く感じます。

 

23-3 判例・裁判例-井関松山製造所事件 

 次は,農業用機械器具の製造及び販売の会社の有期雇用労働者らが,会社に対し労働条件の不合理を主張した事案です(井関松山製造所事件・高松高判令和元・7・8労判1208号25頁)。この会社の精皆勤手当(精勤手当)は,月給日給者で,かつ,当該月皆勤者に限り支給するとして,その支給額は,月額基本給に1/68.11を乗じた金額(10円未満は切上げ)としていました。有期雇用労働者らの給料は時給制でしたので,精皆勤手当は支給されていませんでした。

 ポイントは,精皆勤手当の支給基準を,「月給日給者」という給与形態で定めていることです。裁判では,精皆勤手当の趣旨は,月給(精皆勤手当の支給対象ではない。)と月給日給の違いに着目し,欠勤の扱いにより月給者に比べて収入が不安定になりがちな月給日給者に対し配慮するものとされました。そして,有期雇用労働者らは時給制で,欠勤により給料が変動し収入が不安定となる点では月給日給者と変わりはないのであるから,正規労働者の月給日給者には精皆勤手当を支給し,時給制である有期雇用労働者らには支給しないことは不合理であると判断されています。

 

 精皆勤手当の支給基準を「月給日給者」という給与形態で定めてしまうと,もはやその精皆勤手当は,会社の業務の円滑な遂行確保という趣旨のものとは認められないでしょう。この会社では,月給者=事務・技術職,月給日給者=技能職という事情があったようで,それを踏まえ,精皆勤手当の支給基準を「月給日給者」としているのは,「技能職」であるライン工に支給するためで,それはライン工の業務の性質上,欠勤により工場全体の生産能力が低下することになるため,一定の出勤レベルを確保するために皆勤を奨励しているという旨の主張も裁判では行われたようです。しかし,会社が主張する精皆勤手当の意味合いを裁判所は認めず,裁判所は支給基準よりその趣旨を考えて行きました。会社としては,精皆勤手当の意味合いが裁判で主張したとおりであれば,まずは支給基準を「月給日給者」という給与形態によるのではなく「技能職」とか「ライン工」とすべきです。もっとも,支給基準をそのようにしたとしても,他の労働者とは異なり,「技能職」とか「ライン工」の出勤を手当をもって格別奨励すべき事情があるのか,別途検討する必要があるように思います。

 

24-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~時間外手当 

 時間外労働に対して支給される手当,いわゆる残業手当について検討します。

 

 時間外手当は労働基準法37条1項本文に定めがありますので,法の趣旨より考えて行きます。①一定の所定労働時間を超える労働による荷重な負荷に対する代償となるとともに,長時間労働への抑制効果をもつという時間外手当の性質・目的からすると,②その主な考慮要素は所定労働時間を超える時間外労働をしたかどうかであり,③同一の時間外労働をした正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者には同一の支給をすることが求められています(同一労働同一賃金ガイドライン第三の三(五))(水町・前掲105頁)。なお, 同一労働同一賃金ガイドライン第三の三(五)には,「通常の労働者の所定労働時間を超えて、通常の労働者と同一の時間外労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者の所定労働時間を超えた時間につき、通常の労働者と同一の割増率等で、時間外労働に対して支給される手当を支給しなければならない。」とあるとおり,正規労働者よりも週所定労働時間が短いパートタイム(短時間)労働者については,契約上の労働時間ではなくて正規労働者の所定労働時間を超えて行った時間外労働が均等待遇の対象となることにご注意ください。

 

24-2 判例・裁判例-メトロコマース事件 

 改正前の労働契約法20条を巡り,有期雇用労働者らが,会社に対し労働条件の不合理を主張した事案があります(メトロコマース事件・東京高判平成31・2・20労判1198号5頁)。裁判で,有期雇用労働者らは,会社の正規労働者全体ではなく,自身らと同じように売店業務に従事している正規労働者を比較対象としています。

 この会社では,早出残業手当が支給されていたのですが,正規労働者には所定労働時間を超える勤務について,始めの2時間までは1時間につき時間当たりの賃金の2割7分増,2時間を超える時間については3割5分増の早出残業手当を支給する一方,有期雇用労働者らには所定労働時間を超える勤務について,1時間につき時間当たり賃金の2割5分増の早出残業手当を支給していました。労働基準法37条1項本文の時間外労働の割増率の最低限度は2割5分ですから(割増賃金令),この会社は,早出残業手当の割増率について,原告らには最低限度の割増率,正規労働者にはそれに上乗せした割増率で支給していたのです。

 裁判でも,法における時間外労働の位置づけに言及しています。「労働基準法37条1項本文は,使用者が1日8時間を超えて労働させた場合,通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額に一定の割増率を乗じた割増賃金を支払わなければならない旨を定めているところ,その趣旨は,時間外労働が通常の労働時間又は労働日に付加された特別の労働であるから,それに対しては使用者に一定額の補償をさせるのが相当であるとともに,その経済的負担を課すことによって時間外労働を抑制しようとする点にあると解される」との判示部分です。そして,このような時間外労働の抑制という趣旨からすると,有期雇用労働者と正規労働者とで割増率に相違を設けるべき理由はなく,そのことは使用者が法定の割増率を上回る割増率による割増賃金を支払う場合にも同様というべきであり,早出残業手当の割増率の相違は不合理であるとしています。

 裁判では,有期雇用労働者と,同じ売店業務に従事している正規労働者とでは,職務内容及び変更範囲に相違があることは認定されています。しかし,早出残業手当における相違の不合理性判断では, 職務内容及び変更範囲は一切触れられていません。これは,早出残業手当の性質・目的からして, 職務内容及び変更範囲は適切な考慮要素とはされないと考えられたためです。

 

25-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~深夜・休日労働手当 

 深夜・休日労働に対して支給される深夜・休日労働手当について検討します。

 

 時間外手当では労働基準法(37条1項本文)に立ち返ることから始めたのと同様,深夜・休日労働手当についても労働基準法(37条1項本文,4項)より始めます。

 深夜・休日労働に対して支給される深夜・休日労働手当については,①深夜・休日労働による過重な負荷,私生活の抑制に対する代償として支給されるという性質・目的より,②その主な考慮要素は深夜・休日労働時間をしたかどうかです。したがって,③正規労働者と同一の深夜・休日労働を行ったパートタイム・有期雇用労働者には,正規労働者と同一の割増率等で,深夜・休日労働手当を支給しなければなりません(ガイドライン第三の三(六))(水町・前掲105頁)。同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例に,「A社においては、通常の労働者であるXと時間数及び職務の内容が同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間労働者であるYに、同一の深夜労働又は休日労働に対して支給される手当を支給している。」とあります。上記の考え方に沿った例といえます。

 

 一方で,問題となる例としては,「A社においては、通常の労働者であるXと時間数及び職務の内容が同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間労働者であるYに、深夜労働又は休日労働以外の労働時間が短いことから、深夜労働又は休日労働に対して支給される手当の単価を通常の労働者より低く設定している。」とあります。深夜労働手当は労働がなされる時間帯に着目した規制であり,休日労働手当は法定外労働のなかでも,休日に労働がなされることに着目した規制ですから,所定労働時間の長短があっても,深夜・休日の労働において違いがなければ,深夜・休日労働手当については正規労働者とパートタイム(短時間)とで同一の支給をしなければなりません。

 

25-2 判例・裁判例-日本郵便(時給制契約社員ら)事件 

 労働基準法(37条1項本文,4項)が事業主に支給を義務づける深夜・休日勤務手当ではありませんが,年末年始勤務手当の支給・不支給が改正前の労働契約法20条に照らし不合理ではないかと争われた事案を紹介します(日本郵便(時給制契約社員ら)事件・東京高判平成30・12・13労判1198号45頁)。

 

 会社は郵便事業を取り扱っており,訴えたのは時給制の有期雇用労働者らです。有期雇用労働者らは,会社の正規労働者全体ではなく,会社の新人事制度でいう新一般職(窓口営業,郵便内務,郵便外務又は各種事務等の標準的な業務に従事する者であって,役職層への登用はなく,勤務地は原則として転居を伴う転勤がない範囲とするもの。)という正規労働者を比較対象としています。

 この会社が支給する年末年始勤務手当の内容は,12月29日から翌年の1月3日までの間において実際に勤務した時に支給するもので,その額は,12月29日から12月31日までは1日4000円,1月1日から1月3日までは1日5000円でした。支給対象は正社員のみです。

 裁判で,この年末年始勤務手当の趣旨は,多くの労働者が年末年始を休日として過ごしているのに対し,この会社においては,年賀状の準備及び配達等の期間として,年間を通じて最繁忙時期となっていて,その時期に実際に勤務した労働者に対し,通常の労働の対価としての基本給等に加えて,多くの国民が休日の中で最繁忙時期の労働に従事したことに対する対価として支払われるものとされています。そして,こうした年末年始勤務手当の趣旨は,会社を訴えた時給制の有期雇用労働者にも妥当しないとはいえず,したがって,年末年始勤務手当を正規労働者のみに支払い, 会社を訴えた時給制の有期雇用労働者らに支払わないことは,改正前の労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとしています。

 興味深いのは,上記の平成30年東京高裁判決の第一審判決(東京地判平成29・9・14労判1164号5頁)は,年末年始勤務手当を正規労働者のみに支払い,会社を訴えた時給制の有期雇用労働者らに支払わないことは,改正前の労働契約法20条にいう不合理であるとしつつ,年末年始勤務手当には,長期雇用への動機付けという正規労働者にのみあてはまる趣旨がないとはいえないなどとして,会社を訴えた時給制の有期雇用労働者らに正規労働者に支給される年末年始勤務手当の8割相当額の支払いを求めたのに対し, その控訴審である上記平成30年東京高裁判決は正規労働者と同じ内容の支払いを求めています。判断の分かれ目は,年末年始勤務手当の趣旨(性質・目的)及びそれに照らした適切な考慮要素の考え方にあると思われます。

 

25-3 判例・裁判例-日本郵便(非正規格差)事件 

 年末年始勤務手当の不合理性が争われた事案は先に紹介しましたが(日本郵便(時給制契約社員ら)事件・東京高判平成30・12・13労判1198号45頁),この裁判例に出てくる会社を,別の有期雇用労働者が改正前の労働契約法20条を根拠に訴えた事案もあります(日本郵便(非正規格差)事件・大阪高判平成31・1・24労判1197号5頁)。訴えた労働者は,平成30年東京高裁判決(日本郵便(時給制契約社員ら)事件・東京高判平成30・12・13労判1198号45頁)と同じ時給制契約社員の人もいれば,月給制契約社員の人もいましたが,有期雇用労働者である点は同じです。労働条件の比較の対象とされたのは,会社の新人事制度でいう新一般職という正規労働者で,この点も平成30年東京高裁判決と同じです。この裁判例でも,正規労働者のみに支給する年末年始勤務手当の不合理性が争点の一つとなりました。

 判決では,年末年始勤務手当の趣旨を,「年末年始勤務手当は,年末年始が最繁忙期になるという郵便事業の特殊性から,多くの労働者が休日として過ごしているはずの年末年始の時期に業務に従事しなければならない正社員の労苦に報いる趣旨で支給されるものと認められる」とし,最繁忙期に業務に従事しなければならないこと自体は,有期雇用労働者も同様としています。しかしながら,①会社を訴えた有期雇用労働者は,年末年始期間に業務に従事することを当然の前提として採用されていること,②時給制の有期雇用労働者の従業員数が,毎年,年末年始の期間に向けて11,12月が多くなっていること等,③時給制の契約社員の退職者の5割以上が1年以内,7割以上が3年以内での退職という統計結果があること,④会社において正社員の待遇を手厚くすることで有為な人材の長期的確保を図る必要があるとの事情があること,⑤会社における各労働条件が労使協議を経て設定されたという事情があることを挙げ,会社を訴えた有期雇用労働者らと正規労働者とで年末年始手当に関し労働条件の相違が存在することは,直ちに不合理なものと評価することは相当ではないとしています。

 ただ,有期雇用労働契約を反復して更新し,契約期間を通算した期間が長期間に及んだ場合には,年末年始勤務手当を支給する趣旨との関係で正規労働者と相違を設ける根拠は薄弱とならざるを得ないとし,契約期間が通算5年を超える有期雇用労働者については,年末年年始勤務手当について正規労働者と相違を設けることは不合理であるとしています。

 

25-4 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決の比較 

 年末年始勤務手当につき,平成30年東京高裁判決は通算5年の契約期間ということには言及していない一方で,平成31年大阪高裁判決は通算5年の契約期間があれば正規労働者との相違は不合理になるとしています。また,時給制の有期雇用労働者は年末年始期間に必要な労働力の補充・確保するための臨時的な労働力としての性格があるといった会社側の主張に対し,平成30年東京高裁判決は,時給制の有期雇用労働者の契約期間は6か月以内であるがその多くは6か月であって更新もされるとして,会社側の主張を退けています。一方,平成31年大阪高裁判決は,上記のとおり,時給制の有期雇用労働者が年末年始の期間に必要な労働力を補充・確保するための労働力であるという側面を考慮して判断しています。さらに, 平成30年東京高裁判決は,その第1審(東京地判平成29・9・14労判1164号5頁)が年末年始勤務手当に関連し長期雇用への動機付けについて言及している部分を改め, 長期雇用への動機付けについて一切言及しないという判示となっています。他方で平成31年大阪高裁判決は,会社において正社員の待遇を手厚くすることで有為な人材の長期的確保を図る必要があるとの事情を考慮要素としています。こうした点からすると,平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決は,まずは年末年始勤務手当についての考え方が異なっているように見えます。

 

 しかし,裁判例は常に慎重に読む必要があります。

 気になる点の第1として,平成30年東京高裁判決で会社を訴えた有期雇用労働者らは, 平成31年大阪高裁判決でも年末年始勤務手当を支給されなければ不合理とされる可能性が高い労働者であることです。平成31年大阪高裁判決は,改正労働契約法20条の施行日(今回の改正のさらに前の改正の施行日)が平成25年4月1日であったことから,同日時点で通算5年の契約期間があれば同日より年末年始勤務手当を支給しなければ不合理なものとなり,同日以降に通算5年の契約期間となれば通算5年を超えた日以降より年末年始勤務手当を支給しなければ不合理なものとなるとしています。平成30年東京高裁判決で会社を訴えた有期雇用労働者の中には, 平成25年4月1日時点で未だ通算5年の契約期間となっていない者もおりましたが(平成20年10月14日の入社), 平成25年4月1日以降最初の年末年始勤務の時点では,いずれも通算5年の契約期間を経過していました。

 第2に, 同じ会社の労働条件に関する事案であるのに,平成31年大阪高裁判決(及びその第1審(大阪地判平成30・2・21労判1180号26頁))では,従前の正規労働者及び有期雇用労働者の労働条件に関する労働組合との協議の経過が認定されているのに, 平成30年東京高裁判決(及びその第1審)には平成31年大阪高裁判決のような記載がないことです。

 こうしたことを考慮してもなお,平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決とは,年末年始勤務手当についての考え方が異なるといえるか,結論はともあれ再度検討する必要があるように思います。

 

 他にも検討の視点はあると思います。みなさんも両判決及び各第1審を比べてみてください。

 

26-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~通勤手当・出張旅費 

 通勤手当及び出張旅費について検討します。

 

 ①通勤や出張にかかる費用を補填するという通勤手当及び出張旅費の性質・目的からすると,②その主な考慮要素は,通勤や出張による費用が発生したかどうかであり,正規労働者であるかパートタイム・有期雇用労働者かによって通勤や出張による費用が異なることはありません。したがって,③パートタイム・有期雇用労働者にも,正規労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給することが求められます(同一労働同一賃金ガイドライン第三の三(七))(水町・前掲106頁)。

 

 「正規労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給する」といっても,通勤手当及び出張旅費は, 通勤や出張にかかる費用を補填するものですから,例えば,パートタイム・有期雇用労働者の出勤日数が正規労働者の出勤日数より少なければ,それぞれの出勤日数に見合う通勤手当となっていれば不合理な待遇とはなりません。同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例ロにも,「A社においては、通勤手当について、所定労働日数が多い(例えば、週四日以上)通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者には、月額の定期券の金額に相当する額を支給しているが、所定労働日数が少ない(例えば、週三日以下)又は出勤日数が変動する短時間・有期雇用労働者には、日額の交通費に相当する額を支給している。」とあります。

 

 同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例イに,「A社においては、本社の採用である労働者に対しては、交通費実費の全額に相当する通勤手当を支給しているが、それぞれの店舗の採用である労働者に対しては、当該店舗の近隣から通うことができる交通費に相当する額に通勤手当の上限を設定して当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給しているところ、店舗採用の短時間労働者であるXが、その後、本人の都合で通勤手当の上限の額では通うことができないところへ転居してなお通い続けている場合には、当該上限の額の範囲内で通勤手当を支給している。」とあります。この例は,採用圏限定により通勤手当を限定することは不合理ではなく,かつ,本人都合で転居した場合に通勤手当の限定を維持することも不合理とはいえないと考えられることの帰結と説明されています(水町・前掲106頁)。

 

26-2 判例・裁判例-ハマキョウレックス(差戻審)事件 

 ハマキョウレックス(差戻審)事件(最小二判平成30・6・1民集72巻2号88頁)では,改正前の労働契約法20条を巡り,通勤手当の不合理性が争われました。訴えられた会社は,常時一定の交通機関を利用し又は自動車等を使用して通勤する従業員に対し,交通手段及び通勤距離に応じて所定の通勤手当を支給する規程を置いていました。その上で,会社を訴えた有期雇用労働者には月額3000円の通勤手当が支給する一方,この者と交通手段及び通勤距離が同じ正規労働者に対しては月額5000円の通勤手当が支給していました。

 判決では,この会社の通勤手当は,通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものであり,労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではないとして,正規労働者と有期雇用労働者とで通勤手当の金額が異なるという労働条件の相違は,不合理であると評価できるとしています。

 

27-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~食事手当 

 食事手当について検討します。

 

 ①勤務時間内に食事時間が挟まれている場合にその食費負担を補助するという食事手当の性質・目的からすると,②その主な考慮要素は,勤務時間内に食事時間が挟まれているかどうかです。したがって,③パートタイム・有期雇用労働者にも,正規労働者と同一の食事手当を支給することが求められます(同一労働同一賃金ガイドライン第三の三(八))(水町・前掲106,107頁)。同一労働同一賃金ガイドラインの問題となる例では,「A社においては、通常の労働者であるXには、有期雇用労働者であるYに比べ、食事手当を高く支給している。」とあります。

 

 注意点を挙げれば,食事手当は食費という支出の補助の趣旨のもと支給されるものですので,拘束時間中に食事の時間のない短時間・有期雇用労働者には,支給の必要はありません。同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例に,「A社においては、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がある通常の労働者であるXに支給している食事時間を、その労働時間の途中に昼食のための休憩時間がない(例えば、午後二時から午後五時までの勤務)短時間労働者であるYには支給していない。」とあるとおりです。

 

27-2 ハマキョウレックス(差戻審)事件 

 ハマキョウレックス(差戻審)事件(最小二判平成30・6・1民集72巻2号88頁)では,改正前の労働契約法20条を巡り,給食手当の不合理性が争われました。訴えられた会社では,正規労働者に適用される就業規則で,正規労働者に給食の補助として月額3500円の給食手当を支給していたのに対し,有期雇用労働者に適用される就業規則では給食手当の支給の定めはありませんでした。

 

 判決では,この会社の給食手当を,労働者の食事に係る補助として支給されるものであるとし,勤務時間中に食事を取ることを要する労働者に対して支給することがその趣旨にかなうものであるとしています。そして,結論として,正規労働者に対して給食手当を支給する一方で,有期雇用労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとしています。

 

27-3 ハマキョウレックス(差戻審)事件判決の射程 

 この判決の結論は妥当と思われるのですが,事案が変わったときにどこまであてはまるのか,判決の射程を考えるとき,判決文には気になる記載があります。

 

 この件は,トラック運転手である乗務員の正規労働者と職務の内容が異ならない有期雇用労働者との間の労働条件の差異の不合理性が争われた事案であることはすでに述べたとおりです。

 この点に関連し,判決は,「職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは,勤務時間中に食事を取ることの必要性やその程度とは関係がない」として,この会社の食事手当の不合理性判断において, 職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは考慮要素とならないとしています。

 一方,職務の内容については,「乗務員については,契約社員と正社員の職務の内容は異ならない上,勤務形態に違いがあるなどといった事情はうかがわれない」としていて,この会社の食事手当の不合理性判断において,職務の内容は考慮要素となるが,事案においては正規労働者と有期雇用労働者とで違いはないという判断をしているように見えます。

 

 食事手当について改めて考えてみると,この会社は一般貨物自動車運送等を目的としています。そして,労働条件の差異が争われた正規労働者と有期雇用労働者のいずれも,トラック運転手である乗務員でしたので,拘束時間中に事業場外で食事を取ることも多いでしょう。すなわち,この会社の乗務員である正規労働者や有期雇用労働者に支給される食事手当は,拘束時間中に事業場外で食事を取ることの費用負担も踏まえたものとされている可能性があります。食事手当の不合理性判断の主な考慮要素は,勤務時間内に食事時間が挟まれているかどうかと述べましたが,この事案についてはさらに, 拘束時間中に事業場外で食事を取ることが多い職務かどうかという,その職務の内容もまた考慮要素になるのかもしれません。

 判決の射程について考えるとき,この点がポイントのひとつになるように思います。

 

28-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~単身赴任手当 

 単身赴任手当について検討して行きます。

 

 単身赴任手当は,①会社都合による転勤で,労働者が単身赴任をすることとなったことによる二重生活の経済的負担を軽減するという性質・目的からすると,②その主な考慮要素は,会社都合による転勤で労働者が単身赴任し,二重生活の経済的負担が発生しているかどうかです。これら事情が同一であれば,正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで相違を設ける理由はありません。したがって,③パートタイム・有期雇用労働者にも,正規労働者と同一の基準で単身赴任手当を支給することが求められます(水町・前掲107頁)。同一労働同一賃金ガイドラインにも,「通常の労働者と同一の支給要件を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の単身赴任手当を支給しなければならない。」とあります。

 単身赴任手当の支給要件では,①会社都合の転勤であること,②転勤に伴い住居を移転したこと,③転勤前の住所から転勤後の事業所までの通勤が困難であること,④やむを得ない事情により労働者が単身赴任をすることとなったことを考慮したものをよく見かけます。こうした支給要件を満たすかぎり,パートタイム・有期雇用労働者にも単身赴任手当を支給することが求められます。

 

28-2 単身赴任手当の支給額を役職に応じて変えている場合 

 単身赴任手当の支給額を役職に応じて変えているケースもときどき見かけます。これは,上述のようないわゆる単身赴任手当に加えて役職手当の意味合いも認められる,複合的な趣旨の手当といえるでしょう。

 こうした場合のパートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断では,いわゆる単身赴任手当部分と役職手当部分とでは,それぞれの性質・目的が異なりますから,それぞれの考慮要素もまた異なります。したがって,各部分それぞれで不合理性を判断してから,最後に各部分を足し合わせて全体の均等・均衡を図るということになるではないでしょうか。しかしそれは言うは易し…です。いっそのこと,これを機会に意味合いが曖昧な手当を整理することの方をおすすめしますが,いかがでしょうか。

 

29 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~地域手当 

 手当の最後,地域手当についてです。

 

 地域手当は,①特定の地域の物価の高さや寒冷対策費用など地域特有の支出を補填するために支給されるものです。そうした性質・目的に照らすと,②その主な考慮要素は,支給の対象となる特定の地域で働いているかどうかであり,正規労働者と非正規労働者とで区別する理由はありません。したがって,③同じ地域で働く正規労働者と非正規労働者には,同一の支給をすることが求められています(水町・前掲107頁)。同一労働同一賃金ガイドライン(第三の三(十))の問題となる例にも,「A社においては、通常の労働者であるXと有期雇用労働者であるYにはいずれも全国一律の基本給の体系を適用しており、かつ、いずれも転勤があるにもかかわらず、Yには地域手当を支給していない。」とあります。

 

 もっとも,地域手当は特定の地域で働くときに支給されるものであり,転勤などによって支給の有無が変わってくることもあることから,地域手当の支給に関して支給の有無に変更があり得る労働者と,支給の有無に変更がない労働者とで,支給方法に相違を設けることは問題ありません。同一労働同一賃金の問題とならない例にも,「A社においては、通常の労働者であるXについては、全国一律の基本給の体系を適用し、転勤があることから、地域の物価等を勘案した地域手当を支給しているが、一方で、有期雇用労働者であるYと短時間労働者であるZについては、それぞれの地域で採用し、それぞれの地域で基本給を設定しており、その中で地域の物価が基本給に盛り込まれているため、地域手当を支給していない。」とあります。

 

30-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~福利厚生施設の利用 

 手当の検討から変わり,福利厚生施設の利用についてパートタイム・有期雇用労働法8条に照らし検討します。

 結論から言ってしまえば,職場が同じであれば,福利厚生施設の利用において,正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで区別する理由はありません。

 

 ①職場で働く労働者への勤務に伴う便宜として提供されるという福利厚生施設(給食施設,休憩室,更衣室)の性質・目的からして,②その主な考慮要素は,同じ職場で労働しているかどうです。したがって,③同一の職場で働く正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者には,同一の利用を認めることが求められています(水町・前掲107,108頁)。同一労働同一賃金ガイドラインにも,「通常の労働者と同一の事業所で働く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の福利厚生施設の利用を認めなければならない。」とあります(第三の四(一))。福利厚生施設の利用について, 正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで区別する理由はあまり思い浮かばず,上述の結論も理解しやすいものと思われます。

 

30-2 福利厚生施設の利用に関するパートタイム・有期雇用労働法8条と12条 

 ところで,パートタイム・有期雇用労働法12条(福利厚生施設)には,次のような定めがあります。

 

 事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設であって、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令で定めるものについては、その雇用する短時間・有期雇用労働者に対しても、利用の機会を与えなければならない。

 

 上記「健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令で定めるもの」については,パートタイム・有期雇用労働法施行規則5条で次のように定められています。

 

  法第十二条の厚生労働省令で定める福利厚生施設は、次に掲げるものとする。

 一 給食施設

 二 休憩室

 三 更衣室

 

 このパートタイム・有期雇用労働法12条も,今般の同一労働同一賃金を含む働き方改革関連法案の中で,福利厚生施設の利用機会配慮義務(「与えるように配慮しなければならない」)が,義務規定(「与えなければならない」)と改正され,さらに,その対象が有期雇用労働者にも広げられました。もっとも,パートタイム労働者のみを適用対象とし,中身も利用機会配慮義務というものではありましたが,今回の改正前から存在していた規定です。

 

 労働法を継続的には学んでいない方が,パートタイム・有期雇用労働法8条の説明を聞いたうえで同法12条の規定を見ると,8条で決着のついた事項が,改めて12条で取り上げられているように感じるのではないでしょうか。その感覚は,私としてもそう間違っていないように思います。

 

 パートタイム労働法8条の問題点を踏まえて行われたのが今回の改正ということは,すでに述べました。他方,改正前のパートタイム労働法8条が制度として導入される前に,正規労働者とパートタイム労働者の待遇格差是正を目的として置かれたのが,要件など異なるところはありますが,現在の9条に該当する,パートタイム労働者であることを理由とする差別的取扱いの禁止規定です。

 この差別的取扱いの禁止も, 正規労働者とパートタイム労働者の待遇格差是正を目的とする点では共通するのですが,一定の要件を満たすパートタイム労働者を「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」として,そうした者については,パートタイム労働者であることを理由として差別的取扱いをしてはならないとしており, 改正前のパートタイム労働法8条や現在のパートタイム・有期雇用労働法8条とは,アプローチの仕方が異なります。

 

 差別的取扱い禁止の規定は,改正前のパートタイム労働法8条や今回のパートタイム・有期雇用労働法8条の各改正のなかにあって併存されてきたわけですが,上述のパートタイム・有期雇用労働法12条(それと10条(賃金),12条(教育訓練)も。)は,この差別的取扱い禁止の規定との関連で置かれ,理解すべき規定と位置付けることができるものです。例えば,差別的取扱いの禁止の対象となるのは,今般の改正後でいえば「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」に限られますが, パートタイム・有期雇用労働法12条では,そのような要件までは必要なく,「その雇用する短時間・有期雇用労働者」を対象としてる,ということです。

 

 パートタイム・有期雇用労働法8条と同法9~12条は,目的を同じくするように見えてもアプローチが違う規定といえ,その意味でそれぞれ区別することはできます。ただ,他にどのような違いがあり,それぞれの規定の意義がどう違うのかなどさらに詳細に整理せよと言われると,なかなか難しいところです。その意味で,8条で決着のついた事項が,改めて12条で取り上げられているという感覚もそう間違いとは言い切れない,そのように思います。この点について,学説・裁判例などの展開がありました,そのときにまた取り上げます。

 

31 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~転勤者用社宅 

 福利厚生施設の利用に続き,同じく会社の福利厚生に位置づけることができる転勤者用社宅について検討します。

 

 転勤者用社宅については,①転勤に伴う住宅賃貸の負担をなくすというのが転勤者用社宅の性質・目的ですから,②その主な考慮要素は,転勤に伴う住宅賃貸の負担の発生であり,この点において正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者を区別する理由はありません。「転勤に伴う住宅賃貸の負担」の発生は,それぞれの会社の転勤者用社宅の利用基準に従って判断されますが,その利用基準が転勤者用住宅の性質・目的に沿ったものであるとして,③通常の労働者と同一の利用基準を満たすパートタイム・有期雇用労働者には,同一の利用を認めなければなりません(水町・前掲108頁)。同一労働同一賃金ガイドラインにも「通常の労働者と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の転勤者用社宅の利用を認めなければならない。」とあります(第三の四(二))。

 

32 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~慶弔休暇,健康診断に伴う勤務免除有給保障 

 次に,慶弔休暇,健康診断に伴う勤務免除・有給保障という福利厚生も,通常の労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで同一の取扱いが求められます。①慶弔休暇には一定の家族や親族にかかわる事情(慶弔)への配慮,健康診断に伴う勤務免除・有給保障には有給の勤務免除で安心して健康診断を受診することによる健康確保という性質・目的がそれぞれあり,②その主な考慮要素は,慶弔休暇では一定の家族や親族にかかわる事情(慶弔)への休暇付与という配慮の必要, 健康診断に伴う勤務免除・有給保障では健康診断受診の必要です。したがって,③②の考慮要素の点で事情が異ならない正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者には同一の付与をすることが求められます(水町・前掲108頁)。同一労働同一賃金ガイドラインにも,「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の慶弔休暇の付与並びに健康診断に伴う勤務免除及び有給の保障を行わなければならない。」とあります(第三の四(三))。

 

 他方,②の考慮要素の点で,正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで事情が異なる場合は,待遇に相違を設けることは問題とされず,ただ事情の違いに応じた均衡のとれた処遇とする必要があると思われます。

 

 ②の考慮要素の点で,正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで事情が異なるのはどのような場合か。これは,同一労働同一賃金ガイドラインにある慶弔休暇付与についての問題とならない例が参考になります。

 そこには,「A社においては、通常の労働者であるXと同様の出勤日が設定されている短時間労働者であるYに対しては、通常の労働者と同様に慶弔休暇を付与しているが、週二日の勤務の短時間労働者であるZに対しては、勤務日の振替での対応を基本としつつ、振替が困難な場合のみ慶弔休暇を付与している。」とあります。

 慶弔休暇では一定の家族や親族にかかわる事情(慶弔)への休暇付与という配慮の必要が主な考慮要素となるのですが,この例では,それを出勤日をもとに判断しており,正規労働者と同一の出勤日が設定されているパートタイム労働者は,「一定の家族や親族にかかわる事情(慶弔)への休暇付与という配慮の必要」という事情において同じであるから同一の付与をし,週2日のパートタイム労働者は,その事情において違いが認められるので,正規労働者とは異なり勤務日の振替での対応を基本としつつ,振替が困難な場合には慶弔休暇を付与することとして待遇の均衡を実現しようとしています。

 

33-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~病気休職 

 病気休職については,①病気休職中の解雇を猶予することで安心して休職し健康回復を図ることを促すというのがその性質・目的です。したがって,②その主な考慮要素は,休職事由発生の場合に解雇を猶予されて健康回復を図る必要です。そのため,③②の考慮要素が同じであれば正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで同一の付与を,違いがあれば違いに応じた均衡のとれた付与をしなければなりません。より具体的にいうと,②の「解雇の猶予」といっても前提となる労働契約の期間が,正規労働者と有期雇用労働者とでは異なりますので,無期雇用のパートタイム労働者には正規労働者と同一の付与をしなければならず,有期雇用労働者(有期雇用のフルタイムおよびパートタイム労働者)には労働契約の残存期間を踏まえた付与をしなければならない,となります(水町・前掲108,109頁)。同一労働同一賃金ガイドラインも「短時間労働者(有期雇用労働者である場合を除く。)には、通常の労働者と同一の病気休職の取得を認めなければならない。また、有期雇用労働者にも、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、病気休職の取得を認めなければならない。」としており(第三の四(四)),問題とならない例にも「A社においては、労働契約の期間が一年である有期雇用労働者であるXについて、病気休職の期間は労働契約の期間が終了する日までとしている。」とあります。

 

33-2 判例・裁判例ー日本郵便(時給制契約社員ら)事件 

 病気休職についてではありませんが,病気休暇の支給・不支給と有給・無給が改正前の労働契約法20条に照らし不合理ではないかと争われた事案があり,参考となります(日本郵便(時給制契約社員ら)事件・東京高判平成30・12・13労判1198号45頁)。年末年始手当を検討する際に紹介した平成30年東京高裁判決です。

 

 再確認しますと,会社は郵便事業を扱っており,訴えたのは時給制の有期雇用労働者です。有期雇用労働者らは,会社の正規労働者全体ではなく,会社の新人事制度でいう新一般職(窓口営業,郵便内務,郵便外務又は各種事務等の標準的な業務に従事する者であって,役職層への登用はなく,勤務地は原則として転居を伴う転勤がない範囲とするもの。)という正規労働者を比較対象としています。

 

 この会社が支給する私傷病の病気休暇の内容は,正規労働者には日数の制限はなく有給(一定期間を超えると基本給の月額及び調整手当を半減して支給。)での付与,時給制契約社員には1年度に10日で無給での付与となっていました。

 

 判決で,この病気休暇の趣旨は,労働者の健康保持のため,私傷病により勤務できなくなった場合に,療養に専念させるための制度であるとしています。その上で,長期雇用を前提とする正規労働者と契約期間が限定され,短時間勤務の者も含まれる時給制契約社員とで付与日数に相違があるのは不合理であると評価することはできないとしています。もっとも,正規労働者は有給,時給制契約社員は無給としている点は,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとしています。

 

33-3 判例・裁判例ー日本郵便(非正規格差)事件 

 上記の会社を,別の有期雇用労働者が改正前の労働契約法20条を根拠に訴えた事案も紹介しています(日本郵便(非正規格差)事件・大阪高判平成31・1・24労判1197号5頁)。

 

 この平成31年大阪高裁判決でも, 病気休暇の支給・不支給と有給・無給が争われました。こちらも再確認しておくと,訴えた労働者は,平成30年東京高裁判決と同じ時給制契約社員の人もいれば,月給制契約社員の人もいましたが,有期雇用労働者である点は同じです。労働条件の比較の対象とされたのは,会社の新人事制度でいう新一般職という正規労働者で,この点も平成30年東京高裁判決と同じです。

 

 判決では,病気休暇の趣旨は,「職員が私傷病になった場合にも安んじて療養に専念させ,健康体に回復させることによって公務能率の維持向上に資することにある」としています。その上で,年末年始休暇についての判断と同様,会社を訴えた有期雇用労働者らと正規労働者とで病気休暇の期間やその間有給とするか否かについて相違が存在することは,直ちに不合理なものと評価することはできない,ただ,有期雇用労働契約を反復して更新し,契約期間が通算5年を超える有期雇用労働者については, 病気休暇の期間やその間有給とするか否かについて相違について正規労働者と相違を設けることは不合理であるとしています。

 

33-4 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決 

 病気休職の期間につき,平成30年東京高裁判決では正規労働者と有期雇用労働者とで病気休職の期間の違いを不合理とせず,平成31年大阪高裁判決は通算5年を超えない有期雇用労働者については病気休職の期間の違いを不合理としない一方で, 通算5年を超える有期雇用労働者については正規労働者と病気休職の期間の相違を設けることは不合理としています。

 

 判断は分かれたかに見えますが, 平成30年東京高裁判決では,契約期間が通算5年を超えた時給制契約社員による,1年度に10日未満の私傷病による欠勤や年次有給休暇取得が損害と認められたのであって,この時給制契約社員に関していえば,平成30年東京高裁判決でも平成31年大阪高裁判決でも,結論は異ならない可能性が高いと思われます。

 

 改めて,両判決は同一労働同一賃金を理解するよい教材であると思います。比較していろいろと考えを巡らせてみてください。

 

33-5 判例・裁判例ー学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件 

 これまで紹介した裁判例と同様,病気休職に関連し,私傷病で欠勤した場合の取扱いの相違が改正前の労働契約法20条に照らし不合理ではないかと争われた事案もありますので検討してみましょう(学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件・大阪高判平成31・2・15労判1199号5頁)。

 

 訴えられたのは学校法人です。訴えたのはフルタイムで勤務する1年契約の有期雇用労働者です。アルバイト職員としての扱いで,給料は時給制でした。この裁判では,有期雇用労働者が比較の対象とすべきとした正規労働者ではなく,「比較対象者は客観的に定まるもの」であるとして,学校法人の正職員(学校法人の職員で雇用期間の定めがない職員は正職員のみ。)全体を比較対象としています。

 この学校法人では,正職員が私傷病で欠勤した場合,6か月間は賃金全額が支払われ,6か月経過後は休職が命じられた上で休職給として,標準賃金の2割が支払われることとなっています。他方,アルバイト職員には欠勤中の補償や休職制度は存在しませんでした。

 

 裁判で,私傷病欠勤の賃金等支払いの趣旨は,「正職員として長期にわたり継続して就労してきたことに対する評価又は将来にわたり継続して就労することに対する期待から,正職員の生活に対する保障を図る点にある」としています。しかし,アルバイト職員も契約期間が更新されること,フルタイム勤務をし習熟する者については一概には代替性が高いとはいい難いこと,そうしたアルバイト職員には生活保障の必要性があることも否定し難いことから,アルバイト職員であるというだけで,一律に私傷病による欠勤中の賃金支給や休職給の支給を行わないことには合理性があるとは言い難く,フルタイム勤務で契約期間を更新しているアルバイト職員に対して,私傷病による欠勤中の賃金支給を一切行わないこと,休職給の支給を一切行わないことは不合理というべき,としています。もっとも,正職員とアルバイト職員の本来的な相違を考慮すると,私傷病による賃金支給につき1か月分,休職給の支給につき2か月分を下回る支給しかしないときは,正職員との労働条件の相違が不合理であるというべきとしています。

 

 この判決が述べる私傷病欠勤の賃金等支払いの趣旨について,皆さんはどう思われますか。

 私は,「正職員として長期にわたり継続して就労してきたことに対する評価又は将来にわたり継続して就労することに対する期待」という部分に端的に現れているように,正職員(正規労働者)のみが支給対象となっている現状の不合理性をその趣旨から評価しなければならないときに,判断の物差しとなるべき趣旨の認定において,正職員のみが支給対象となっていることを含めてしまっているように見えます。この学校法人の私傷病欠勤の賃金等支払いの制度は特段目新しいものではないので,例えば「一定の賃金を保障し労働者が安心して私傷病からの健康回復を図ることを促すもの」といった通常の理解でよいのではないでしょうか。

 

 この事件で学校法人を訴えたアルバイト職員はフルタイムで勤務し,契約期間も通算5年は超えていませんが更新はしていますので(平成25年1月29日に,同年3月31日までの雇用期間で雇用契約を締結,以後,契約期間1年で契約を更新しながら平成28年3月31日まで在籍。もっとも,平成27年3月9日から平成28年3月31日まで適応障害により出勤せず。この間,有給取得日以外は欠勤扱い。),この者についていえば,上述の趣旨の理解の違いは,あるいは結論に影響しないかもしれません。一方,例えばこの学校法人を訴えたのが契約更新していない有期雇用労働者やパートタイム労働者であるときは,上述の趣旨の理解の違いで結論に違いが出る可能性があるように思います。

 

34-1 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~リフレッシュ休暇など 

 労働者への報償として付与される休暇を検討します。

 

 勤続期間に応じて認められている休暇は,一般に「リフレッシュ休暇」と呼ばれることもありますが,それは,①勤続への報償としての休暇付与という性質・目的にあるもので,②その主な考慮要素は勤続期間です。したがって,③勤続期間が同一の場合には,正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者で同一の付与をする必要があります。

 

 また,夏期や冬期等の過密・過酷な勤務に対する報償として付与される特別休暇についても,①過密・過酷な勤務に対する報償としての休暇付与という性質・目的からして,②その主な考慮要素は過密・過酷な勤務に従事したことであり,③同様の勤務状況にある正規労働者とパートターム・有期雇用労働者とで同一の付与をする必要があります(水町・前掲109,110頁)。

 

 同一労働同一賃金ガイドラインには, 勤続期間に応じて認められている休暇について記載されています。「法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)であって、勤続期間に応じて取得を認めているものについて、通常の労働者と同一の勤続期間である短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)を付与しなければならない。」としています(第三の四(五))。

 

 また,同一労働同一賃金ガイドラインは,ここでの勤続期間は,有期雇用労働者については労働契約の開始時から通算して評価すべきとしています(第三の四(五))。

 正規労働者に比べ所定労働時間が短いパートタイム労働者については,その所定労働時間に比例した取扱いが求められます。同一労働同一賃金ガイドラインの問題とならない例として,「A社においては、長期勤続者を対象とするリフレッシュ休暇について、業務に従事した時間全体を通じた貢献に対する報償という趣旨で付与していることから、通常の労働者であるXに対しては、勤続十年で三日、二十年で五日、三十年で七日の休暇を付与しており、短時間労働者であるYに対しては、所定労働時間に比例した日数を付与している、」が挙げられています。

 

34-2 判例・裁判例ー日本郵便(時給制契約社員ら)事件 

 過密・過酷な勤務に対する報償として付与されるものではない夏期冬期休暇の支給・不支給が改正前の労働契約法20条に照らし不合理ではないかと争われた事案があります(日本郵便(時給制契約社員ら)事件・東京高判平成30・12・13労判1198号45頁)。年末年始手当や私傷病の病気休暇を検討する際に紹介した,平成30年東京高裁判決です。

 

 ここで事案の概要をもう一度おさらいしておくと,会社は郵便事業を扱っており,訴えたのは時給制の有期雇用労働者です。有期雇用労働者らは,会社の正規労働者全体ではなく,会社の新人事制度でいう新一般職(窓口営業,郵便内務,郵便外務又は各種事務等の標準的な業務に従事する者であって,役職層への登用はなく,勤務地は原則として転居を伴う転勤がない範囲とするもの。)という正規労働者を比較対象としています。

 

 この会社の夏期冬期休暇は,正社員にのみ以下の内容で支給されていました。もちろん有給です。

①夏期休暇

6月1日から9月30日までの期間において,在籍時期に応じ,暦日1日から3日まで付与

②冬期休暇

10月1日から翌年3月31日までの期間において,在籍時期に応じ,暦日1日から3日まで付与

 

 裁判で,この夏期冬期休暇の趣旨は,夏期は古くから祖先を祀るお盆の行事,年末から正月3が日にかけて夏期と同様に帰省するなどの国民的な習慣や意識などを背景に,官公庁や大多数の民間企業等で制度化されてきたものであるとし,さらに,その後国民的な習慣や意識などが変化して,夏期冬期休暇は,お盆や帰省のためとの趣旨が弱まり,休息や娯楽のための休暇の意味合いが増しているが,国民一般に広く受け入れられている慣習的な休暇との性格自体には変化はないとしています。

 その上で,正社員に対して夏期冬期休暇を付与する一方で,時給制契約社員に対して付与しないという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものであるから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとしています。

 

34-3 平成30年東京高裁判決の結論 

 平成30年東京高裁判決は,この会社の夏期冬期休暇について労働契約法20条の不合理性を以上のように判示し,その相違は労働契約法20条に違反するとしたのですが,時給制契約社員による,夏期冬期休暇が労働契約法20条に違反することを踏まえた賠償請求は認めませんでした。

 

 平成30年東京高裁判決の第1審(東京地判平成29・9・14労判1164号5頁)も,結論としてこの会社の夏期冬期休暇の相違は労働契約法20条に違反するとしたのですが, 時給制契約社員は,それに伴う自身らに発生した損害の主張をしていませんでした。

 そこで時給制契約社員は,控訴審において,夏期冬期休暇は夏期及び冬期に各3日ずつ,合計年6日の取得が可能であるから,労働契約法20条が施行された平成25年4月1日以降の各年に1日の平均賃金の6日分の損害が生じていると主張を追加しました。

 しかし,判決では,時給制契約社員が現実に夏期冬期休暇が付与されなかったことにより賃金相当額の損害を被った事実,すなわち,時給制契約社員が無給の休暇を取得したが,夏期冬期休暇が付与されていれば同休暇により有給の休暇を取得し賃金が支給されたであろう事実の主張立証はないとして,時給制契約社員の賠償請求を認めなかったという次第です。

 

 判例・裁判例を読むときは,結論が部分の評価を変えることもありますので,この平成30年東京高裁判決の労働契約法20条違反の判示部分のほか,結論にも注意しておきましょう。

 

34-4 判例・裁判例ー日本郵便(非正規格差)事件 

 平成30年東京高裁判決に出てくる同じ会社を,別の有期雇用労働者が改正前の労働契約法20条を根拠に訴えた事案は以前紹介しました(日本郵便(非正規格差)事件・大阪高判平成31・1・24労判1197号5頁)。

 

 この平成31年大阪高裁判決でも,夏期冬期休暇の付与・不付与が争われています。再確認しておくと,訴えた労働者は,平成30年東京高裁判決と同じ時給制契約社員の人もいれば,月給制契約社員の人もいましたが,有期雇用労働者である点は同じです。労働条件の比較の対象とされたのは,会社の新人事制度でいう新一般職という正規労働者で,この点も平成30年東京高裁判決と同じです。

 

 判決で, 夏期冬期休暇の趣旨は,まず夏期休暇は,「いわゆるお盆休みではなく一般の国家公務員と同様に心身の健康の維持,増進等を図るための特別の休暇と解される」としています。冬期休暇は,年末(12月29日から31日まで)に特別休暇が与えられないことを踏まえ,「年末年始の期間に限らず冬期の一定の期間に付与された特別の休暇(有給)であると解される」としています。平成30年東京高裁判決ように,国民一般に広く受け入れられている慣習的な休暇とは,この夏期冬期休暇を位置づけておりません。

 

 その上で,年末年始休暇や私傷病による病気休暇についての判断と同様,会社を訴えた有期雇用労働者らと正社員とで夏期冬期休暇の付与・不付与の相違が存在することは直ちに不合理なものと評価することはできないが,有期雇用労働契約を反復して更新し,契約期間が通算5年を超える有期雇用労働者については,夏期冬期休暇の付与・不付与について正社員と相違を設けることは不合理であるとしています。

 

34-5 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決 

 平成30年東京高裁判決が,時給制契約社員への夏期冬期休暇の不付与は労働契約法20条に違反するとしながら, 時給制契約社員が現実に夏期冬期休暇が付与されなかったことにより賃金相当額の損害を被った事実,すなわち,時給制契約社員が無給の休暇を取得したが,夏期冬期休暇が付与されていれば同休暇により有給の休暇を取得し賃金が支給されたであろう事実の主張立証はないとして,時給制契約社員の賠償請求を認めなかったことはすでに述べました。

 

 他方,平成31年大阪高裁判決では, ,夏期冬期休暇の不付与が労働契約法20条に違反するとされた契約期間が通算5年を超える者については,そのうちの時給制契約社員は正規の勤務時間を割り振られた日及び週休日以外の日は非番日とされて無給であるところ,夏期冬期休暇が付与されれば非番日の一部を有給の夏期冬期休暇とすることができたはずであるといえるから,時給額に1日の勤務時間と正社員であれば付与された夏期冬期休暇の日数を乗じた額に相当する損害を被ったとしています。

 有期雇用労働者のうちの月給制契約社員については,時給制契約社員と違い,実際に就労した日数にかかわらず基本賃金は定額です。しかし,夏期冬期休暇が付与されれば同日は労務を提供することなく休養したり心身の健康の維持,増進等を図るための活動に充てたりすることができ,それを金銭に換算すれば, 正社員であれば付与された夏期冬期休暇の日数を乗じた額に相当する損害を被ったとしています。

 

 平成30年東京高裁判決と平成31年大阪高裁判決では,有期雇用労働者の損害が何かという点で違いがあるように読めます。それが損害一般の理解の違いによるものなのか,あるいは平成31年大阪高裁判決が「夏期冬期休暇が付与されれば同日は労務を提供することなく休養したり心身の健康の維持,増進等を図るための活動に充てたりすることができ(た)」と述べているように,夏期冬期休暇の趣旨理解に由来するものなのか,さらなる分析が待たれるところです。

 

34-6 判例・裁判例ー学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件 

 私傷病で欠勤した場合の取扱いの相違が争われたものとして紹介した事案は覚えていますでしょうか(学校法人大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件・大阪高判平成31・2・15労判1199号5頁)。

 

 この事案では,夏期特別休暇の付与・不付与が改正前の労働契約法20条に照らし不合理ではないか争われました。

 再確認すると,訴えられたのは学校法人です。訴えたのはフルタイムで勤務する1年契約の有期雇用労働者です。アルバイト職員としての扱いで,給料は時給制でした。この裁判では,有期雇用労働者が比較の対象とすべきと主張した正規労働者ではなく,「比較対象者は客観的に定まるもの」であるとして,学校法人の正職員(学校法人の職員で雇用期間の定めがない職員は正職員のみ。)全体を比較対象としています。

 

 この学校法人では,正職員には夏期(7月1日から9月30日まで)に5日の夏期特別有給休暇が付与されるのに対し,アルバイト職員には付与されていませんでした。

 裁判で,この夏期特別有給休暇の趣旨は,「わが国の蒸し暑い夏においては,その時期に職務に従事することは体力的に負担が大きく,休暇を付与し,心身のリフレッシュを図らせることには十分な必要性及び合理性が認められる。また,いわゆる旧盆の時期には,お盆の行事等で多くの国民が帰省し,子供が夏休みであることから家族旅行に出かけることも多いことは,公知の事実といえる。このため,官公署や企業が夏期の特別休暇制度を設けていることも,公知の事実といえる。被控訴人における夏期特別有給休暇が,このような一般的な夏期特別休暇とその趣旨を異にするとうかがわせる事情はない」としています。

 

 そして,アルバイト職員であってもフルタイムで勤務している者は,正職員との職務の違いや労働時間の相違はあるにせよ,夏期に相当程度の疲労を感ずるに至ることは想像に難くないとして,少なくとも,学校法人を訴えた,年間を通してフルタイム勤務のアルバイト職員に対し,正職員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことは不合理であるとしています。

 

 判決は,私傷病欠勤の賃金の検討のときには,フルタイム勤務で契約期間を更新しているアルバイト職員であることを重視していましたが, 夏期特別休暇の検討にあたっては,フルタイム勤務のアルバイト職員であることを重視しています。これはそれぞれの労働条件の趣旨の理解の違いによるものでしょう。

 

 しかし,ではフルタイム勤務でないアルバイト職員には,夏期特別休暇を付与しなくても不合理ではないのかというと,この判決の考えは一見不合理ではないとするようにも読めます。しかし,「少なくとも,控訴人のように年間を通してフルタイムで勤務しているアルバイト職員に対し,正職員と同様の夏期特別有給休暇を付与しないことは不合理であるというほかない」というように,「少なくとも」という言葉で慎重に判断の射程を限定しているようにも見えます(裁判の目的は,当事者の請求の存否について判断することであり,裁判の当事者でない者が請求できるかどうか判断する必要はありません。)。

 

 夏期特別有給休暇の不付与については,以上のとおり判示されたわけですが,夏期特別有給休暇を付与されなかったことの損害については, 夏期特別有給休暇が付与されなかったことにより賃金相当額の損害を被った事実,すなわち,アルバイト職員が無給の休暇を取得したが,夏期特別有給休暇が付与されていれば同休暇により有給の休暇を取得し賃金が支給されたであろう事実の主張立証の有無云々ということには言及せず,有給休暇が取得できなかったことで,平均日額賃金に正職員であれば付与された夏期特別有給休暇の日数を乗じた額の損害が認められるとしています。

 

35 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~教育訓練 

 教育訓練について検討します。

 

 教育訓練にもさまざまなものがありますが,ここでは,現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施するもので考えてみます。①職務に必要な技能・知識の習得というその性質・目的に照らすと,②その主な考慮要素は,職務の内容となります。したがって,③職務の内容が同一であれば正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで同一の教育訓練を,職務の内容に違いがあればその違いに応じた教育訓練を実施することが求められています(水町・前掲110頁)。

 

 同一労働同一賃金ガイドラインにも,「教育訓練であって、現在の職務の遂行に必要な技能又は知識を習得するために実施するものについて、通常の労働者と職務の内容が同一である短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の教育訓練を実施しなければならない。また、職務の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた教育訓練を実施しなければならない。」とあります(第三の五(一))。

 

36 パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断~安全管理 

 安全管理に関する措置・給付についてです。これは労働者の生命・身体の安全にかかわるものですから,直観的にも,正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで区別する理由はないと考えられるところです。

 

 検討してみると, 安全管理に関する措置・給付には,①業務環境に応じた十全の安全管理により労働者の健康を確保するという性質・目的がありますので,②その主な考慮要素は,安全管理が必要な業務環境に従事しているかどうかです。したがって,③同一の業務環境にある労働者に対しては,正規労働者であるかパートタイム・有期雇用労働者かにかかわらず,同一の付与をすることが求められています(水町・前掲110頁)。

 

 同一労働同一賃金ガイドラインにも,「通常の労働者と同一の業務環境に置かれている短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の安全管理に関する措置及び給付をしなければならない。」とあります(第三の五(二))。

 

37 正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで賃金の決定基準・ルールの相違がある場合のパートタイム・有期雇用労働法8条の不合理性判断 

 正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで賃金の決定基準・ルールの相違がある場合,パートタイム・有期雇用労働法8条の不合理判断はどう進められるのでしょうか。

 

 正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで賃金規定を分けるなどして,それぞれの賃金の決定基準・ルールそのものに相違がある場合,それがパートタイム・有期雇用労働法8条に照らし不合理かどうかは二重のチェックを受けるとされます(水町・前掲100頁)。第1に,正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで別制度とすることの合理性のチェック,第2に,別制度とすることは不合理とはいえないとしても,実際の処遇が正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者の客観的な実態の違いに応じた均衡のとれたものとなっているかのチェックです。

 

 同一労働同一賃金ガイドライン第三の一(注)一では,上記第1と同じ考え方が以下のように記載されています。

 

 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に基本給、賞与、各種手当等の賃金に相違がある場合において、その要因として通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの相違は、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならない。

 

 なかでも基本給は,これまでも検討してきたように,職能給,成果給,勤続給,職務給など様々な性質があるとされますので,正規労働者とパートタイム・有期雇用労働者とで決定基準・ルールが異なるとして,上記二重チェックが実施されることもあるかもしれません。

 

38-1 労働者派遣法における同一労働同一賃金 

 労働者派遣法における同一労働同一賃金についても,簡単に触れておきます。

 

 これまでは,パートタイム・有期雇用労働者に適用されるパートタイム・有期雇用労働法8条を中心に検討を進めてきました。他方で,パートタイム・有期雇用労働者と同じく非正規労働者に位置づけられる派遣労働者にも,労働者派遣法改正により,原則同じ規制が置かれ,中小企業の事業主への適用猶予なく2020年(令和2)年4月1日に施行されたことはすでに述べたとおりです。

 

 パートタイム・有期雇用労働法と労働者派遣法とで同一労働同一賃金に関し原則同じ規制が置かれたというのは間違いないのですが,労働者派遣という制度などからして,規制の仕方には違いもあります。不合理な待遇の禁止についても,労働者派遣法では2つの方式が規定されています。

 

38-2 「派遣先均等・均衡方式」 

 まずは原則となる「派遣先均等・均衡方式」です。これは労働者派遣法30条の3第1項に次のように定められています。

 

 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを顧慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

 

 パートタイム・有期雇用労働法8条と比べると,基本的に同じ文言を用いつつ,「事業主」を「派遣元事業主」に,「短時間・有期雇用労働者」を「派遣労働者」に,「通常の労働者」を「派遣先に雇用される通常の労働者」に置き換えています(水町・前掲135頁)。

 

 「派遣先均等・均衡待遇方式」では,派遣労働者と派遣先の正規労働者との間の不合理な待遇を設けることが,派遣元事業主に禁止されています。

 

38-3 「労使協定方式」 

 原則である「派遣先均等・均衡待遇方式」の例外として,「労使協定方式」によることも認められています。例外が置かれたのは,派遣労働者について,派遣先労働者との均等・均衡方式を貫くと,派遣労働者がキャリアを蓄積して派遣先を移動しても,派遣先労働者の賃金が低下する場合に,派遣労働者の賃金が下がり,派遣労働者の段階的・体系的なキャリア形成支援と不整合な事態を招くことになりかねないからと説明されています(水町・前掲135頁)。

 

 「労使協定方式」は労働者派遣法30条の4第1項に定めがあります。派遣元事業主が,労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数代表との書面による協定(労使協定)により,一定水準を満たす派遣労働者の待遇(派遣先が講じるべき教育訓練と福利厚生施設等は除く。)について, 労働者派遣法30条の4第1項にある事項を定め,遵守・実施している場合に認められます(水町・前掲135,136頁)。

 

 「労使協定方式」が例外として置かれた趣旨からして,労使協定で定める派遣労働者の賃金は,派遣先労働者との比較ではなく,「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること」(同条1項2号イ)とされています。また,賃金以外の待遇については,「派遣労働者の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違が生じないことととならないものに限る」(同項4号)とされています。記事で「労使協定方式」が採用されているときは,派遣社員の女性と派遣元の正規労働者との間での待遇の相違が不合理か,派遣元事業主が問われることとなります。

 

更新日 2020(令和2)年9月10日

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